68.神のロジック 人間のマジック(西澤 保彦/文藝春秋)
総評:★★★★☆
オススメ:ネタバレされやすい作品の1つ。新本格に手を出すなら早めに読んでしまうことを推奨。
あらすじ(以下引用)
ここはどこ?何のために?世界中から集められ、謎の“学校”で奇妙な犯人当てクイズを課される〈ぼくら〉。やがてひとりの新入生が〈学校〉にひそむ“邪悪なモノ”を目覚めさせたとき、共同体を悲劇が襲うー。驚愕の結末と周到な伏線とに、読後、感嘆の吐息を漏らさない者はいないだろう。傑作ミステリー。
西澤ミステリの中でも「七回死んだ男」と同じくらい傑作と名高い作品で、ずっと読みたいと思っていた。
で、プレミアム価格になっている中古本に手を出して(なぜ電子書籍化されていないのか!)、ようやく読んだんですけど、これ...読んだことありましたわ......笑
というわけで、細部は完全に忘れたもののメイントリックは覚えてる状態で再読。
こうやって読んでみると、伏線が結構明からさまに、そして巧妙に張られてたんですなぁ。でもやっぱりアンフェアかな。うーん。
とはいえ、一度読んだらメイントリックについてだけは絶対忘れられなくなるくらい(自分も10年越しくらいに読んだけど、そこだけは鮮明に覚えていたので)、大胆かつインパクトのあるものなので、個人的には新本格読みなら履修必須の作品かなと。
なお、今回のネタバレあり感想においては、本作とほぼ同じトリックが用いられた某超超超有名国内作品にも触れざるを得ないので、二重の意味でネタバレ注意です。
しかし、びっくりなのは本作品の単行本化は2003年5月、某作品は2003年3月、たった2ヶ月差だったんだね。
プロットを練って執筆する期間のことを考えたら、当然のことながら偶然ネタが被っただけなんだろうけど、これは発表当時西澤悔しかっただろうなぁ。渾身の出来だったのに、続けて読んだらやっぱり二番煎じみたいに見えちゃうし(そして読者も困惑しただろうなぁ…笑)
西澤のためにも、ぜひ新鮮な気持ちで騙されてほしい一作。
※以下ネタバレあり感想
※前段で述べた通り、本作とメイントリックが同じである「葉桜の咲く頃に君を想うということ」(タイトル白字反転/国内ミステリ/第4回本ミス大賞)のネタバレも含みます
登場人物が全員老人であったというのが大オチ。
とはいえ、犯行自体はその特性を活かしたものではないため、このトリックに気がつかなくとも犯人は推理できるようになっている。
というか前段でも述べた通り、このメイントリックについては伏線はたくさん張られているものの、「主人公の認知に異常があり、老人を老人と認識できない」というあまりにアンフェアというか突拍子もないものなので、(気付いてしまう読者はいるだろうけど)読者に推理させるには少々無理がある。
もっといえば、葉桜においてはこのネタは叙述トリックとして機能していたが、本作品においては叙述トリックとはいえない(ので、推理しなくていいし推理不可能)。
葉桜の登場人物は自分たちが老人であることを知りながら、地の文には嘘がないものの筆者の罠によって読者だけが年齢誤認トリックにかかる構造。
一方、本作は語り手のマモル自身が老人であることに気がついていないので、そもそも地の文に「嘘」(ただしマモルの主観においては真実)が書かれているという点が異なっている。
まぁなんか、この辺は感想サイトググればみんな比較してるんで、言わずもがななのですが……例によって一番きっちり批評しておられる、黄金の羊毛亭さんをみんな読むがいいよ。
黄金の羊毛亭さんで言及されていて確かになぁと思ったのは、これはどっちかというと「信頼できない語り手」パターンで、京極夏彦氏のアレや道尾秀介氏のソレの方がトリックの料理方法としては近しいんでしょうな(リンク先は各作品の感想ページなので、ネタバレ要注意)。
「アレ」の方の感想にも書いたけど、「地の文で嘘をつきながらそれに気づく材料があまりに乏しい」場合、やっぱりアンフェアみが強くなるよね。
本作品も、ネタが割れてから読み返すと、かなり際どいレベルで「主人公が虚構を信じている」ことを示唆するようなシーンは挿入されるんだけど、うーん。
でもアンフェアとか超越するくらいカタルシスが凄い一冊なんで、やっぱり好きですけどね。
文庫本巻末の諸岡卓真氏による解説も、そのあたりのカタルシスや何故本書が既存ミステリと一線を画しているのかを詳しく語っているので、一読の価値あり。
しかし、「100人中99人が黒い石を白だと思い込んだコミュニティではその石は白くなる」という仮説を元に大掛かりな実験施設を作って、被験者を閉じ込める...という設定、ミステリというよりちょっとしたSFみがあるよね。西澤らしいなぁ。
ラストも、実年齢が受け入れられないまま、突然60年後の未来に飛ばされた(かのように感じられる)世界で「どうやって生きれば良いのか...」と絶望しており、主観的タイムスリップものとも言えるだろう。
この救いようのないオチも西澤節ですねぇ。好き。
あと細かい点で上手いなーと思ったのは、舞台を海外にすることで登場キャラを自然に外国人にして「翻訳調」で会話が進むこと。
彼らは60年前で時が止まっており、しかも実際には老人なので、会話は全く「現代の子ども」っぽくはないはず。それを翻訳調で良い感じに誤魔化してる上、怪しげな〈学校〉の雰囲気づくりにも一役買っているという。
ネタが割れた途端、この怪しげで魅力的な〈学校〉の魔法は一挙に解かれてしまうのだが、このカタストロフは「この闇と光」にも通じるところがありますな。この作品も地の文が独特の雰囲気を醸し出してるし。未読の方はこちらもぜひ。
関連リンク: