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日々雑感(ミステリ感想中心)

この闇と光(服部まゆみ/KADOKAWA)

51.この闇と光(服部まゆみKADOKAWA

総評:★★★★☆
オススメ:美しい文体と幻想的な世界観のミステリが読みたいあなたへ。きちんとミステリとしてもまとまっている秀作です。

今回の本はあらすじを読まない方がより楽しめるかと思います
完全なネタバレにはなりませんが、一応白字で隠しておきますので気になる方だけどうぞ。「盲目の王女」「幻想的な物語」「緻密な伏線と衝撃の結末」で興味を惹かれた方はどうぞそのままお買い求めください。

 

あらすじ(引用)

森の奥に囚われた盲目の王女・レイアは、父王の愛と美しいドレスや花、物語に囲まれて育てられた…はずだった。ある日そのすべてが奪われ、混乱の中で明らかになったのは恐るべき事実でー。今まで信じていた世界そのものが、すべて虚構だったのか?随所に張りめぐらされた緻密な伏線と、予測不可能な本当の真相。幻想と現実が混ざり合い、迎えた衝撃の結末とは!?至上の美を誇るゴシックミステリ!

 
耽美系ミステリ。
この作品の面白い部分を語ろうとすると全部ネタバレになってしまう...冒頭で述べた通り、あらすじも読まずにいきなり読み始めてほしい一冊。

トリック自体に技巧が凝らされているわけではないが、構成や演出が上手い。文章も美しくてよいね。なおかつ、小説だからこその特徴も活かしている。

読み始めは「これ、ミステリか?」となるかもしれないが我慢して読み進めていくと急転直下、思いもかけない展開になる。終盤らへんで、「あぁ、そういうこと」と納得しかけてからのあの結末は個人的には唸った。うーん。

耽美極振りなので好き嫌いは正直あると思うが、中編程度の長さなので、読んでみて損はないと思う。

 

この闇と光 (角川文庫)

この闇と光 (角川文庫)

 

 


※以下ネタバレあり感想

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


例のごとく叙述ミステリを探していて見つけた作品。
まぁ盲目の語り手となればミステリ読みとしては普通に叙述を疑うよね。そのへんは別に今更なんだけど。


ゴシック調で始まった舞台が、中盤の城から逃げる下りで突然現代日本へ様変わりする、あの文章力には圧巻。

そもそも城から逃げるのに馬車じゃなくて自動車って?!みたいな。

違和感のオンパレードからの、実は「レイア姫」は昔誘拐された「男の子」だったという真相。これにはちょっと驚かされた。

 

正直、舞台が現代だろうというのは、テープレコーダーのくだりで分かるし、海外っぽいけど日本なんじゃないかというのもかぐや姫のくだりで気づいた。
じゃああの人名は何???と思いながら、叙述トリックを外的環境の方に探そうとしてしまう(誘導させられる)ので、叙述定番の「信用できない語り手」を忘れちゃってたので、性別誤認トリックは本当にびっくりした。こうきたか。

いや、だってあんな美しく初潮が来たみたいなくだりあったやん…お父様に異性としてときめいてたやん……(困惑)


まぁ今回の場合、主人公本人も自分自身を女の子と思い込んでるから叙述といえるかどうか。


しかし、さらってきた男の子を女の子として大切に育てた結果、「お父様」に対して性的な好意を抱いてしまう男の娘って...もうなんか...エロ漫画かよ......
ストーリーを雑にさらうとめちゃくちゃ厨二っぽいキャラ立てと展開なんだけど、ここまでの文章力で書き上げられると、もうため息しか出ない。うーん。


しかもあのラストが良い。
最終的に「お父様」=「ダフネ」=原口 であると怜は確信して会いに行くが、本人は曖昧に否定しておしまい。

 

「君が何を言おうと、私は君が気に入りました。君もそうでしょう? レイア」

 

怜をレイアとわざわざ呼ぶのは、怜の推理が合っていることをほのめかしているのだが、この推理は一切証拠がない。
部屋の間取りやダークなど、怜の記憶とは完全に一致しているのだが、確たる証拠は何もない。

すべては藪の中...

「お父様」に再会した怜が完全に「レイア」になっちゃってるのも、ポイント高いよね...いやもう、オチまで込みでこの話は耽美ミステリでした。