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日々雑感(ミステリ感想中心)

魍魎の匣(京極 夏彦/講談社)

81.魍魎の匣(京極 夏彦/講談社

総評:★★★★☆

オススメ:姑獲鳥の夏を読んだ貴方へ。

 

あらすじ(引用)

匣の中には綺麗な娘がぴったり入ってゐた。箱を祀る奇妙な霊能者。箱詰めにされた少女達の四肢。そして巨大な箱型の建物ー箱を巡る虚妄が美少女転落事件とバラバラ殺人を結ぶ。探偵・榎木津、文士・関口、刑事・木場らがみな事件に関わり京極堂の元へ。果たして憑物は落とせるのか!?日本推理作家協会賞に輝いた超絶ミステリ、妖怪シリーズ第2弾。


サクサク読めるのに、読了するまでにえらい時間かかってしまった。うーん。

ある意味、姑獲鳥の夏と同じですね。困ったもんだ。ミステリとしては好きじゃないけど、展開は面白いし謎も突飛で意表を突いてくるし、何より文章がうまいんだよね。
京極夏彦」というジャンルなんでしょうな。

(この前本屋に行ったら、ホラー・オカルトとミステリのジャンルの間に京極夏彦というジャンルが設定されていて、やっぱりな...と思った)

姑獲鳥の夏、面白かった!こういうの読みたい!!」という人にはたまらんのだと思う。延々似たようなもの書いてくれるんだろう、この人は。

いや、マンネリというわけではなかったんだけど...なんていうか......誤解を恐れずにいうと、やっぱりミステリではないな…という一言に尽きる(個人の感想です)。

 

良かったところ

・相変わらず事件が派手で良い。衆人環視の中からの消失事件!!次々と起こるバラバラ殺人!しかも大長編なのに謎が小出しにされるので全くだれない。

・魅力的な登場人物。印象的な場面描写。映画化・コミカライズされるのも分かるわ〜  。ラノベチックなんだよね。長くて重いラノベ(ライトではない)。

・伏線自体は結構張ってあるので、謎解きでそれらが回収されていくのは痛快。

 

うーん...なところ

・謎解き不可能。

京極堂がねぇ...姑獲鳥もそうだったけど...詳しくはネタバレ感想にて。

 

ミステリではないと割り切れば、エンタメ純文学として傑作だとは思う。気が向いたら続編も読むかも?でもまぁ、ノリは同じなんだろうな...

 

 

 

 

※以下ネタバレあり感想

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まぁ、姑獲鳥の夏と同じ。アンフェアということに尽きる。

そんでもって、個人的に私はアンフェアなミステリは嫌いじゃなくて、むしろ大歓迎なのだけど、京極夏彦、少なくとも姑獲鳥と魍魎のアンフェアさは肌に合わなかった。麻耶雄嵩殊能将之はいいんだけど...という話は姑獲鳥の夏の感想で散々書いたので読んでください。

zakkan0714.hatenablog.com

それと、今作ではより一層、ホームズたる京極堂が何の証拠もなしに真実を見抜く異能力者になってしまっていて......うん。

榎木津と同じで「そういうもんよ」と言われたらそうなんだけど。でも、京極堂は一応「探偵役」じゃないですか。推理の過程を見せてほしいんだよなぁ。

姑獲鳥の夏の時は、叙述トリックで「信頼できない語り手(ワトソン)による目眩しをどうやって看破するか」という点において、ある種安楽椅子探偵京極堂と読者は対等っぽくなっているので、

「こんなん絶対分かんないよ〜...でも京極堂の推理を聞けば、まぁそうなのかも...」

くらいには感じてた。いや、アンフェア極まりないけどね??

のだが、こと今回に至ってはそういった引っ掛けもなく、ただ単純に(?)、

バラバラ殺人の犯人は関口の著作を批判した久保で、フランケンシュタインの怪物を作る研究をしていた博士が黒幕で、加菜子ちゃんも久保も生きながら箱の中にすっぽりと収められてしまったのだった...!&隠された人物関係が何やかんや、という。

 

うーん......

 

まず、久保があんな小説を書いていて、そこから犯人だと導くのがまず飛躍ですよな...実際、頼子を探しに来ていたんで、どちらかというとそっちが決め手?

久保を捕まえにいった青木も、証拠はないと言いながら探しにいって、住居で少女たちの死骸を発見し犯人と確定するので、やっぱり推理にしても乱暴といえば乱暴。

 

美馬坂幸四郎が陽子の父親であるとともに、加菜子は幸四郎と陽子の子供だったというところ。京極堂は「美馬坂絹子...」と口走ってもいるので、二人が縁者であるのはまぁ、うん、フェア(フェアかな?)。

でも、加菜子が二人の間の子って推理可能ですか??無理だと思う。というかその設定必ずしも要らんよね...ラストの盛り上がり&インモラルさを醸し出すためだけに作った感が否めない...

 

美馬坂の研究により、人体を箱の中に収めながら延命することが可能になっていた、というのを前提とした消失トリック。

まぁ...こっちはむしろどストレートでビックリした。推理もへったくれもない。フランケンシュタインの怪物みたいな研究をしてるという説明も繰り返し出てきていたし、伏線といえば伏線はあったのだけど。

ただなぁ、姑獲鳥もそうなんだけどこの手の「一応伏線張った超科学的技術によるトリック」は最早魔法と同じなので......ミステリで使うのは本来劇薬だと思うんですよ...京極夏彦じゃなければ壁本だよ壁本

 

なお、頼子による加菜子殺しは、あまりにもあまりにもで正直投げそうになりました。あのさぁ!叙述トリック(ですらない気がするが)にしてもさぁ!!そのまんまじゃねぇか!!!!

...いや、姑獲鳥の夏に比べたら、うん、うん...(この辺でいったん読むのを中断したので読み切るのに時間がかかったわけです)

 

ここは非常に個人的な好みの問題で、アンフェア自体は全然ダメではない。「推理してねーじゃん!orできねーじゃん!」なんて麻耶雄嵩ミステリでは定番なので。神様ゲームは推理放棄してるし、翼ある闇も夏冬も推理なんて無理だしね。

でも、なんというか...アンフェアならアンフェアで、読者にカタストロフというか衝撃を与えてほしいのだ。麻耶雄嵩殊能将之のように。脳天を直撃する忘れられないアンフェアが欲しいのに、なんか妙にミステリぶっているのだ、京極夏彦は...

 

で、ダメっぽいところばっかり挙げたけど、あくまで「ミステリとしては」な部分なので、重ねて言う通り、ミステリとして読まなければ文句のつけようがない快作ですね。

一番好きなのは電子版3巻、久保が犯人と特定され事件は一件落着ーー...と見せかけてからの

久保竣公のバラバラ遺体が発見されたんです」

...というドンデン返し。いや、ここは見事。

 

ここ以外にも、本当に京極夏彦はドラマティックな場面の描き方がうまい。

続く、木場が美馬坂研究所を訪れ、殺す気はなかったのに拳銃を出して危うく打ちそうになるところ、場面が交互に移り変わり関口たちが研究所に向かうところ、ハラハラしてテンションが上がる。

頼子に向けて榎木津が言った「君の大事な人」の意味が、

 

陽子の視線は、木場──を通り越して、

美馬坂に注がれていた。

 

で一転するところ(最後の最後にもう一度関口が真意を問いただすのも憎い)。

京極夏彦は(ミステリ作家というよりは)演出家ですなぁ。

ミステリじゃなく京極夏彦が読みたくなった時に3作目も手を出そうと思う。