貴族探偵 (麻耶雄嵩/集英社文庫)
24.貴族探偵 (麻耶雄嵩/集英社文庫)
あらすじ(引用)
信州の山荘で、鍵の掛かった密室状態の部屋から会社社長の遺体が発見された。自殺か、他殺か?捜査に乗り出した警察の前に、突如あらわれた男がいた。その名も「貴族探偵」。警察上部への強力なコネと、執事やメイドら使用人を駆使して、数々の難事件を解決してゆく。斬新かつ精緻なトリックと強烈なキャラクターが融合した、かつてないディテクティブ・ミステリ、ここに誕生!傑作5編を収録。
「こうもり」が読みたくて購入。
先に言うと「こうもり」だけが飛び抜けて素晴らしい作品で、残りは悪くないけど平凡というところ。ラストの「春の声」も割と衝撃的だったけどこれは他作品との関連性という意味でニヤッとした感がある笑
正直、麻耶作品の毒に慣れつつあるので綺麗なミステリとか出されても、「え、普通の作品も書けたの?へー」としか思えなくなってしまった。麻耶雄嵩は自分で自分のハードル上げてるなって改めて思った次第。大変な業を背負ってる作家だ。今思うと私内大絶賛だった『螢』が、麻耶ファン的には「ちょっとしょぼい」とか言われちゃうの分かる気がする。でも『螢』は名作だから。
短編なので、さくさく読めるのはいいところだと思う。ちゃんと人が死ぬミステリなのも個人的にはグッド。本格ミステリ読みたいときに日常の謎系ミステリ引いちゃうと理不尽な怒りを感じてしまうので。
あと冒頭でも述べた通り、基本的にはお行儀のいいミステリという感じ。麻耶初心者向けだったかも。『翼ある闇』とかがとんでもなく一見お断りミステリだったのと比べると、大衆ウケを狙ったのかな〜と思わせる飲み込みやすい話ばかりだった。「こうもり」は別(良い意味で)。
レギュラーキャラは「貴族探偵」と使用人達だけなので、いちいち名前とか覚えらんないわ〜って人でも読みやすそう。私のことだ。良いキャラしてるんだけど、私はメルさん派なのでそこまでキャラ萌えはできなかった。あと謎解きが割とあっさりしてるので、どの短編も薄味になってしまったのが残念だった。重ねて言うが「こうもり」は別。
総評として麻耶らしからぬ小綺麗なミステリ短編集だが、「こうもり」を読むために買っても惜しくはない作品だったと思う。どんだけ「こうもり」推すんだよ笑
どうでもいいけど、ドラマ化したせいで書籍の感想がヒットしにくくて悲しい。
普段は読んだ順に更新していて、幾つか記事にしてない作品が溜まってるんだけど、せっかくドラマで盛り上がっていることだし順番を入れ替えて先にレビューを置いておくことにした(なので表題のナンバーが「?」になっている)。
※追記)8/15 間の作品をレビューに追加し終わったので順番を直しました
※ 以下、ネタバレ感想
あまりにあっさりしてたので思わず感想ググったけど、やっぱり普通だったよね。いや、短編集に過剰な期待をかける方がどうかしてるのかもしれないけど。
というか、思い返してみるととんでもないカタストロフィを与える作品は書くけど、きわどいエログロ・イヤミス系を書く作家でもないから、アンチミステリ感を除いたらむしろ正統派ミステリになっちゃうのかもしれない。うーん。
とりあえず作品ごとの感想を並べてみる。
「ウィーンの森の物語」
正直ごちゃごちゃしてていまいちピンとこなかった。というかまぁ、犯人ほぼ分かりきってたしなぁ...残した糸がわざとだったっていうのは面白かったけど、ややこしいなって感じ(ミステリ読みとは思えない雑さ)
「トリッチ・トラッチ・ポルカ」
刑事のキャラが可愛かったよね。「カッポンの古さん」笑 この話に限らず今回の短編集に共通してる「無能な警察」の描き方はめっちゃ好き。この話の古川は、強引な推理と証拠の捏造(!)とかやらかすので、ストーリー自体よりそっちの印象のが強い。
バラバラ死体の活用は面白いけど死体の頭ってさすがに顔見たら異常なのバレそうだし、和菓子屋のアリバイは被害者の顔写真でも見せれば崩れちゃうんじゃないかと思った。
「こうもり」
最高。これだけでも読んで、って言いたいけどここまでに「貴族探偵」のイメージが固められてるからこそ面白く感じるトリックなのでそうもいかないか。しかも正統派ミステリ短編集に、いきなり高度な叙述トリック挟んでくるからよりびっくりできるわけで。
麻耶雄嵩お得意の「逆叙述トリック」が光る名作。4人しかいない状況を5人に誤読させる離れ業も見事ながら、「読者にフェアな叙述をする」ことで逆に叙述トリックにはめるというのが本当によく出来ている。
何作品も叙述トリックものを読んでて感じることだが、普通の叙述トリックは「読者が叙述にハメられる必然性がない」ところが惜しい部分であり、何故地の文でアンフェアな叙述をするのかまで説明できている作品は稀である(その稀なる作品の代表は「密室殺人ゲーム」)。
でも「こうもり」は、読者に対して真摯にフェアな地の文を書き「トリックを目の前に晒しているのに、かえって目眩しになる」というとんでもない荒技を完成させた。麻耶雄嵩凄い。これを超える叙述トリックとか今後出てくるのか?ってレベルにぶっ飛んでる。短編だからこそピリッと効いた感もあるね。
「加速度円舞曲」
これもちょっとごちゃっとしてて個人的にはいまいちだった。図があるのは有り難かったけど、文章で説明するにはいまいち難しいトリックだった気がする。
あと被害者とその周辺のキャラがさっぱり掴めないまま種明かしなので、クイズ本っぽさがあった。登場人物も極端に少ないので、意外な犯人でもないし。些細な現象が大きな真相に繋がるのは面白いけど、取り立てて印象に残る作品ではなかったかな。
「春の声」
これな〜〜〜笑
麻耶雄嵩作品幾つか読んだ人ならニヤッとするんじゃないかと思うんだけど、ナイフで刺されたのにその場で死なずに他の人物を殺しに行くっていうの、(某作品のトリックに言及しているのでネタバレ回避のため反転)『翼ある闇』の木更津の推理思い出すよね。首が繋がって生き返ったので予期せぬ密室が出来てしまったのです!な、なんだってー!!(笑)(反転ここまで)
正直一番アホな真相だったので、もしかして皐月や弥生を守るために、皐月が考えた真相通り鷹亮が犯人だったけど別の推理を作り上げたんじゃないかと最後まで疑ってた。他の短編に比べて、推理が終わった後もしばらく話が続いて、わざわざ鷹亮や弥生のことにも触れているので、もしかすると読者に「この推理本当に正しいのか...?」と思わせるのも作者の狙いだったり?考えすぎか...(『神様ゲーム』がかなり尾を引いている模様)
結局「こうもり」の一言に尽きるかな!次点はとんでもトリックの「春の声」(麻耶雄嵩が書いてるんじゃなかったらクソミス認定間違いないけど)。
ちょっと期待はずれだったので、女探偵は置いといて次はメルさんシリーズを買うつもり。