97.十戒(夕木 春央/講談社)
総評:★★★★★
オススメ:同作者の「方舟」を面白く読めた方へ。孤島モノミステリ。
あらすじ(引用)
殺人犯を見つけてはならない。それが、わたしたちに課された戒律だった。
浪人中の里英は、父と共に、伯父が所有していた枝内島を訪れた。
島内にリゾート施設を開業するため集まった9人の関係者たち。
島の視察を終えた翌朝、不動産会社の社員が殺され、そして、十の戒律が書かれた紙片が落ちていた。
“この島にいる間、殺人犯が誰か知ろうとしてはならない。守られなかった場合、島内の爆弾の起爆装置が作動し、全員の命が失われる”。
「方舟」が好きすぎたので早く読みたかったんだけど、ようやく買いました!読みました!!
いやー...自分は好きだな、こういうの…「方舟」で上がりまくったハードルをちゃんと超えてきてくれた感あって、とても良き。
ただ、「方舟」もそうといえばそうなんだけど、ミステリ読み慣れてる人はちょっと展開分かっちゃうかもしれない。
自分も正直いうと(方舟を書いた人だから多分こういう展開が好みそうかな〜的な若干のメタ読みもあり)、うっすら読めちゃったんだけど、でも料理がうまいのと、何と言っても設定がめちゃめちゃ魅力的で「読ませる」展開だったので、個人的には文句なしの星5で。
だってさ、孤島に閉じ込められて殺人が起きてるのに「犯人を探してはならない」だよ???
いや、方舟の時もそうだったんだけど、この人シチュエーションの作り方が独特で上手いわ......その手があったか...みたいな悔しさまで感じる...
しかも主人公が実の父親と一緒に島に閉じ込められるんだけど(母親などの家族は本土に残したまま)、あんまりない設定じゃない?
まぁただ、「方舟」初読のインパクトには負けるかな〜と思ったので、もし読んでなければぜひそちらを読んでからどうぞ。
※以下、ネタバレあり感想
ミステリ好きなら読んでないことないと思うけど、倉知淳の(以下反転でタイトル)「星降り山荘の殺人」だよね。いやあの作品が偉大すぎるんだけど。
指示の細かさから、中盤らへんで「誰か特定の人を犯人に仕立て上げて全員に納得させ、真犯人が逃げおおせる」的な展開かなとは薄々読めてしまってて、綾川さんが1人だけ最初の殺人にアリバイがあるのも怪しすぎて、ラストの展開はびっくりというよりむしろ答え合わせ感がすごかった。
あと「方舟」の時も言われてたけど、夕木先生、各キャラクターの描き方が淡白だから、「誰が犯人だと意外か?」を考えると逆算できちゃうところはある(よくない読者ですね)。
今回の作品は「方舟」以上に、綾川さん以外のキャラほとんど掘り下げないからね。
とはいえ、犯人が爆弾という手段で島の人々を強制的にルールに縛りつける「十戒」システムや、貝殻と石を使った「こっくりさん」、最終夜の事細かな指示等、なんというか駒の動かし方がすごく面白かった。
こんなうまく行くわけないだろ?!とも思うんだけど、まぁでもミステリですから笑 細かいことを突っ込むのは野暮というもの。
綾川さんの推理開陳は面白いんだけど、どこまでいっても「藤原さんを犯人にするために敢えて真犯人がそういう行動をとった」と考えても支障がないので、証拠としては不十分なんだよね。
論理構成甘いミステリだとよくある破綻だけど、ちゃんと最後でどんでん返ししてくれてたね。
で、問題のラストシーン。
「方舟」読者へのサービスですね。笑
(ネタバレナシ感想の方でも「絶対方舟読んでから十戒読んだ方が面白いです!」って書きたかったけど、そんなの書いたら台無しなので遠回しに書いたつもり。笑)
確かに下の名前出てこないな〜とは思ったけど!あっこういう仕掛けも使ってくる?!みたいな。演出うまー。
「方舟」も、それまでの展開とか何より、ラストの締め一行が大好きなんだよね。「十戒」はそこまでのカタルシスはなかったけど、最後にしてやられた感があった。笑
いや〜「方舟」も「十戒」も映像化してほしいなぁ。で、しれっと同じ役者使って欲しい...バレないように他の演者も重ねたりして良いんで...
参考:公式ネタバレ解説サイト