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日々雑感(ミステリ感想中心)

姑獲鳥の夏(京極 夏彦/講談社)

67.姑獲鳥の夏(京極 夏彦/講談社

総評:★★★★☆

オススメ:ドラマティックな事件と展開、薀蓄とオカルトが好きな貴方へ。

 あらすじ(引用)

この世には不思議なことなど何もないのだよー古本屋にして陰陽師が憑物を落とし事件を解きほぐす人気シリーズ第一弾。東京・雑司ケ谷の医院に奇怪な噂が流れる。娘は二十箇月も身籠ったままで、その夫は密室から失踪したという。文士・関口や探偵・榎木津らの推理を超え噂は意外な結末へ。

 


京極夏彦。噂通り厚さを感じさせない一冊。でも紙だと手が疲れるので電子書籍推奨(割高になるけど)

いや、面白いか面白くないかでいったら面白いけど、ミステリではない...か...?いやギリギリミステリ?うーん?と、なんとも評価が難しい...

 

でも、オカルト一本の話ではないし、一応理にかなった解決を見るのでその点は安心されたい。薬師寺涼子シリーズとは違うのだよ(あれはミステリじゃなくて怪奇サスペンスアクションですが)

冗長な薀蓄、異常なキャラクター、禍々しい真相と、好きな人はめちゃくちゃハマる独特の作品。

京極堂、榎木津、関口の3人組っていうのもなんかミステリとしては珍しいよね。通常のホムワト的な立ち位置からちょっとズレてるというか。

 

ただ、自分は麻耶雄嵩殊能将之的なアンチミステリやある種の壁本(失礼)を期待していたのだが、それとはちょっと違うかも。

アンフェアな部分が多いので正統派ミステリでは全然ないし、アンフェアの方向性も上記の二人とは違うタイプだったかな。うーん。かなり期待してただけにその辺は残念。
詳しくはネタバレ感想にて。

 

しかしこれがデビュー作ってとんでもないな。

 

 

 

 


※以下ネタバレあり感想

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実はこれも叙述トリックと聞いて手に取った(ので、地の文の書き方はかなり注意して読んだ)。

とはいえ、「死体を見てるのに認識できなかった」って何?!あり????笑 これは...叙述トリックといっていいのか...??

 

いや、「信用できない語り手」というか「信頼できないワトソン」は全然いい。むしろ好き。そういう型破りなミステリは大歓迎。

しかも、関口くんは情緒不安定な描写がしつこいほど出てくるので、そういう意味では布石はまいてある。関口を疑え、とずっと作者は語りかけている。

かつ、榎木津が部屋に入った時の「君は見えないのか」「警察を呼べ」のくだり。ここあからさまに「関口は何かを認識できていない」っていう信号ではある。あるんだけどね?でも。

その「認識できないもの」が最大の謎になっていた牧郎の死体っていうのはあまりにあまりにすぎませんかと。

しかもほぼ推理不可能だし。

一応京極堂が「ナイフが見えていたはず云々」って言ってたけど、いやいやいや。笑 無理があるでござるよ。

 

まぁでも、個人的にはフェアとかアンフェアはあまり評価基準にしていなくて、そこに驚きがあれば素晴らしいミステリだと思っている。

推理不可能でいうなら、大概麻耶雄嵩殊能将之もアンフェアですよ。

本作は見えなかった死体よりもその先が本編だと思うしね。

「それじゃあ、藤牧さんが刺されてから絶命するまでの十五分から三十分の間に──密室に入ってとどめを差した者がいるってことじゃありませんか!」
「そうなるね」
「おい、待てよ里村。それはあり得ねえ。そんなことは不可能だよ!」
...(略)...
「こりゃあいい。これでやっと普通の密室殺人事件になったじゃないか!」

ここ。ここよかったなー!

実に後編の7割くらいまで進んだところ(全体で言えば後ろから15%付近)で、やっと「本当の密室殺人」の全容が明かされるという。とんでもない構成だな!!!好き!笑

 

まぁでも、その後の推理も全くフェアではないんだけど。

個人的に一番ダメなのは多重人格を出しちゃったところかなあ。ミステリでこれやっちゃうともうなんでもありなんで。

一応、関口が手紙を届けた相手=涼子と気付ければ(散々梗子が「恋文なんて知らない」みたいな話をするので、ここは読者でも推測可能)、記憶を失ってる間に別人格が行動しているかも、という予測は立てられるかもしれないけど。

 

なんというか、アンフェアがあまりに重なりすぎて「それ言い出したら何でもありやん...」という読後感になってしまったのかなと。

 

まとめると、

久遠寺家の異常な風習

・登場人物がそれぞれみんな気が狂っていること(狂い方の描写はめっちゃ上手いしダメなわけではないんだけど)

・ワトソンが死体も認識できないので、最早読者としては何を信用すればいいのか分からなくなってしまうこと(信頼できない語り手を作るなら、読者がそれを推理できて、かつ「何については信用できないのか」が分かるような伏線を張らないと、やっぱりずるいとは言われると思う)

・三重人格者が犯人

これらすべて「物語にとって都合が良すぎる」ように思われてしまうのが残念かなと。1つだけを使うなら全然ありだけど、全部載せは贅沢すぎんよ京極先生〜

 

あと、アンフェアへのスタンスが麻耶雄嵩とか殊能将之とはかなり違う気がしていて。

まず、この二人のアンフェアさや破天荒さは「ミステリ独特のお約束を守りながら、真相でそれを全く崩す」というカタルシスにある。

(具体的なイメージとしては、翼ある闇、神様ゲーム鏡の中は日曜日黒い仏

彼らは、アンフェアをかなり慎重に扱っていて「アンフェアだけど、そこを見て欲しい、そこがテーマ」という描き方なのだ。

 

一方、本作はアンフェアをあくまでアンフェアには見せない描き方にしていると思う。

・「死体が見えないなんておかしい!」→精神異常もナイフも伏線張ってます

・「奇形児が生まれやすい家系ってなんだよ!牧郎の研究もほぼオカルトやん!」→伏線張ってます、人工授精はオカルトじゃなくて科学です

・「多重人格者が犯人はずるい!」→手がかりはちゃんとありました

...的な。

しかも文章が上手いから読まされちゃうし、なんか納得しちゃうんだよね。これトリックだけ抜き出したら、メルカトルシリーズ並みにトンデモトリックだから。笑

 

そんなわけで、麻耶や殊能を求めていた自分としては少々残念な気もしつつ...

まぁでも一作目だしね。魍魎の匣も気になっているので、手を出すつもりです。

(手を出しました。うーん。姑獲鳥と大体同じ感想というか。そのうち感想アップします)