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日々雑感(ミステリ感想中心)

満願(米澤穂信/新潮社)

98.満願(米澤穂信/新潮社)

総評:★★★⭐︎⭐︎

オススメ:動機にぞくりとするイヤミス短編集を読みたい方へ

 

あらすじ(引用)

「もういいんです」人を殺めた女は控訴を取り下げ、静かに刑に服したが…。鮮やかな幕切れに真の動機が浮上する表題作をはじめ、恋人との復縁を望む主人公が訪れる「死人宿」、美しき中学生姉妹による官能と戦慄の「柘榴」、ビジネスマンが最悪の状況に直面する息詰まる傑作「万灯」他、全六篇を収録。史上初めての三冠を達成したミステリー短篇集の金字塔。山本周五郎賞受賞。

 

米澤穂信が合わなさすぎる...

史上初のミステリランキング3冠の作品なのかこれが??!?まじで???

いや、だとすると自分の感性が、あまりに米澤穂信作品についていけてないんだろうな...「ボトルネック」とか「儚い羊たちの祝宴」とかもあんまりだったんだけど、同じ感じだった。逆にいうと上記2作が好きな人は多分本作も好きだと思う。

短編集として出来が悪いわけじゃないんだけど、どれも小粒というか...後味悪い時の「世にも奇妙な物語」っぽい話というか、とんでもない驚きみたいなのはなかったので......うーーーん分からん。

 

シチュエーションとか題材はわくわくするんだけどなぁ、何でなんだろう。米澤穂信が好きな人には申し訳ない。若干辛めの星3つ。

 

〜〜〜
他の方の感想を読んでみて、表題作の「満願」は「ミステリというより文学作品」という評価がしっくりきた。

確かにね、びっくりドッキリの仕掛けを楽しみにしてる人向き作品ではないけど、しみじみと人の情緒に浸りたい人向けかもしれない。米澤穂信、文章上手いし。

でも自分はミステリとして読んでいるので、いずれにしても星3つは変わりません...すまんな…

 

zakkan0714.hatenablog.com

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※以下、ネタバレあり感想

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以下短編集それぞれの感想。

 

⚫︎夜警

トリック自体とは全く関係ないんだけど、個人的には一番身につまされた作品。

警察官だけでなく、教師や医者など、品行方正を求められがちな職業はある(特に「公」を背負うような人間は)けれど、当たり前のことながら誰もが誠実でその資質を持った人間ばかりではない。

社会人になって、部下を持つ立場になると、「ああこの人はこの仕事に向いてないし、いつか問題を起こすかもしれない」と思う人を引くことが稀にある。

主人公も問題のある人物だとは思うけど、上司ガチャと同じく部下ガチャというのもあって、主人公の運の無さにも同情してしまった。最初から嫌な予感はあったのにね。

でもこういう人って矯正しようがないことが多いからなぁ。

三木のエピソードなんかまさにで、パワハラの極みだから、主人公を正当化は全くできないんだけど、「こいつのために」と現場から遠ざけようとしたり向いてる仕事を振らせようとしても、メンタルやっちゃったりするんだよね。

部下が不祥事を起こしても、それを未然に防ごうとした結果部下が鬱になったとしても、全部それは上司の責任になるわけで(もちろん役職としてそれは受け入れないといけないことだとおもうけど)、部下ガチャ外しちゃったんだな〜ということもあって、なんていうかね、難しいよね...

 

⚫︎死人宿

また後味悪い系か〜と思いながら読んでたら、ちゃんと自殺を救えた上に主人公も改心するから「おぉ!」と思ったらやっぱり後味悪い系。どうしようもなさすぎんか。

 

⚫︎柘榴

儚い羊たちの祝宴」に入ってても違和感ない話。

すごい失礼なんだけど、ネタ自体は中高ぐらいの学生に受けそうというか、Gファンとかのダークファンタジー短編集とかにありそうな話だった...(夢喰見聞とか由貴香織里の短編集とかにありそうじゃない...?)(分かりにくい例え)

もう大人になっちゃったのかな...この手の話読みすぎて全然だったな...

強いていうと、お母さんの子供を思う描写は流石の文章力で良かったです。

 

⚫︎万灯

「夜警」と同じで会社員頑張る主人公にめっちゃ同情しちゃって、心から「酷い目に遭わないでくれ...」って祈ってた。

まぁでも、検疫で引っかかったシーンと、「今病気が流行ってるらしいですね」のところで、「あー主人公病気で死にそう」とは思っちゃったからオチが驚けなくてね...

 

⚫︎関守

世にも奇妙な物語」の当たり回みたいな話だった。

いや、下手とかでは全然ないんだけど作り話感が凄すぎて(ミステリだから別にいいんだけどね)「ほーんなるほどね〜」で終わるんだよな...こういう感性のなさが米澤穂信合わないんだろうな。

 

⚫︎満願

これラストに持ってくる上表題作ってことは作者の自信作なのかな。期待しすぎだったとは思うんだけど、動機があまりにぶっとんでて苦笑しちゃったわ...

なんなら妙子が夫殺しを完全に成し遂げるために工作したのかなとか思ってたけど、全然違った。まぁそんな話だったら陳腐すぎたとは思うけど。

 

 

全体的にミステリ的な驚きやどんでん返しはあんまり感じられなくて、自分は好きではないんだけど、「夜警」や「万灯」でも書いたように、やっぱり米澤穂信は描写力があるから、どうしようもなく追い詰められた人間の描きかたが上手い。文学作品として読む分には良いと思う。基本的にワイダニットだしね。

ただねーーー「柘榴」、「満願」、「死人宿」らへんで感じるんだけど、薄幸そうな女性のイメージがあまりに虚構くさいというか、サラリーマン男性のリアリティと格差ありすぎて笑っちゃうんだよね。よねぽの性癖なのかな。

インシテミルは再読したいけど、もう米澤穂信は読まないかも...