キマイラの新しい城(殊能 将之/講談社)
65.キマイラの新しい城(殊能 将之/講談社)
総評:★★★★★
おすすめ:必ず「鏡の中は日曜日」を読み終わった後にどうぞ。
あらすじ(引用)
「わが死の謎を解ける魔術師を呼べ」フランスの古城を移築後、中世の騎士として振舞い始めた江里。750年前の死の真相を探れ、という彼の奇想天外な依頼で古城を訪れた石動戯作は、殺人事件に遭遇する。嫌疑をかけられた江里が向かった先は…。ミステリの枠に留まらない知的エンタテインメントの傑作。
うーん、面白かった。
これで殊能将之の長編は全て読み終わってしまった。なんとも悲しい。でもこれを最後に読んでよかった。傑作揃いの殊能将之作品の中でも非常によい出来だった。
あ、ただし、「鏡の中は日曜日」の重大なネタバレと「黒い仏」の一部設定のバレがあるので、少なくとも「鏡の中は〜」は先に読むことを推奨します。「黒い仏」はまぁ…読まなくていいです。笑
まずあらすじを読めばわかる通り、設定が異様。亡霊に取り憑かれたおじいさんが主人公で、750年前の自分の死の真相を解きあかせという。なんじゃそりゃ。笑
しかし、その後の展開も非常にスリリングかつ予想外な方向に進み、最後はなかなか意表をつく形で終幕する。
序盤〜中盤少々冗長な部分はあるけども、伏線回収が実に見事なので個人的には結構好きですね。殊能将之作品が好きなら絶対に読んだ方がいい。ただし前述した通り、石動シリーズを読破して、一番最後に手をつけるべきです。
自分内殊能将之作品の序列としては、
美濃牛>鏡の中は日曜日>キマイラの新しい城>ハサミ男>>黒い仏>>>>子供の王様
かな。美濃牛の評価が高すぎる気もするけど笑、石動シリーズはどれも非常に出来がいい。黒い仏も万人向けじゃないけど、技巧という面では秀作だし。
それにしても、殊能将之先生の夭折はミステリ界にとっての大損失ですね。こんなに素晴らしい作品ばかりなのに、もう新作が読めないとは。
心よりご冥福をお祈りします。
<殊能将之作品 感想リスト(作品発表順)>
※以下ネタバレあり感想
まさか水城名探偵が再登場するとは。笑
いや、石動シリーズ好きだけど石動の名探偵らしい名探偵なところってほぼ見たことがないような...美濃牛くらいだよね。今作では水城に泣きつくし、いやぁひどい名探偵もいたもんだ。笑
あとは、多重解決モノとも思わなかったなあ。
①750年前のエドガーの事件
②イードメの事件
が似たようなシチュエーションで引き起こされ、①②合わせて4つの解法が示される。
(1)①に対する石動の解:騎士が犯人
→一見論理的に見えるし現実味はあるが、エドガーによって否定される。
(2)②の真相:金瀬が犯人
→非常口があったとか。笑
禁じ手くさいけど、①の事件が頭に残っていると確かに盲点になってしまうのと、冒頭から伏線はあったし、フェア...なのか?笑
壁にくっついた箱の青白い光はいっかな消えぬのである。円卓の掛け布で隠しても、鬼火のごとくちろちろと光が漏れだし、気にさわってしかたない。
いや、確かにこれ何かなって思った。テレビか何かかなってスルーしたけど、「いっかな消えぬ」の部分がおかしいし、後々カゲキの家で初めてテレビを見てびっくりするシーンもあるもんね。
今回、亡霊の取り付いたおじいさん視点なので「どっかしらに認識誤りによる叙述トリックあるかな」と思いながら読んでいたのに気づけなかったのは、少々悔しいような。
(3)①に対する水城の解:お供の修道士が犯人
→塔が90度回転して再建されてしまったとかいうトンデモトリック。笑
でも解法としては面白い。おどろおどろしい塔モノならやっぱり破天荒な物理トリックはほしいよね。再建された城というシチュエーション、幽霊は重力を感じない(?)という2つの離れ業を活かした解法。
(4)①の真相:エドガーの自殺
→語り手が犯人だった、というある種定番中の定番。
自分の死の真相を知りたい、と言い続けていた部分は少々アンフェア感もあるけども、まぁこのタイプの信頼できない語り手はいくつもあるので、見抜けなかった私が残念という感じかな。
結局成仏できなかったエドガーが、「ロッポンギルズに行ってみようか」などと楽しげな未来に胸を膨らませるハッピーエンドだったのも非常に読後感爽やかでよかったですね。殊能将之は締め方が本当に上手い。
また、本作は
・黒い仏で大活躍したアントニオの超人的能力
に加えて、殊能将之作品ならではの個性豊かな警察の人々も登場し、なんというかファンサービスがすごい一作だと思った。
殊能将之の描く警察って独特じゃないですか?探偵と反目するでもなく、ミステリにありがちな無能警察でもなく、割とリアリティのある動き方をするけどそれぞれキャラも立ってて印象的というか。ハサミ男の時から警察の存在感が強い(と、個人的に思う)。
ていうか今回もおっさんたちが非常に愛らしくてよいですね...美濃牛でも書いたけど、殊能将之はおっさんの造詣にこだわりすぎなのでは、というくらい絶妙にかき分けててほんと最高。
主人公のエドガーは終盤の大立ち回りがかっこいいし、実はロマンチストだった大海さんもギャップが大変よろしかったです。端役ながら、ディクスン・カーの非常な信奉者だった明神さんもインパクトがでかい。
それにしても、もっとたくさん作品を読みたかった、本当に...
(悲しすぎてこの後未発表作品集にまで手をつけました。これで本当に読み切ってしまった......ああ...)