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日々雑感(ミステリ感想中心)

貴族探偵対女探偵(麻耶雄嵩/集英社)

100.貴族探偵対女探偵(麻耶雄嵩集英社

総評:★★★★★

オススメ:異常な探偵モノを読みたいあなたへ。「弊もとりあへず」は必見。ただし、順番通りによむこと。

※前作「貴族探偵」より断然面白いので本作を先に読んでも大丈夫ですが、せっかくなら前作もぜひ読んでください。前作収録の「こうもり」も傑作。

 

あらすじ(引用)

新米探偵・愛香は、親友の別荘で発生した殺人事件の現場で「貴族探偵」と遭遇。地道に捜査をする愛香などどこ吹く風で、貴族探偵は執事やメイドら使用人たちに推理を披露させる。愛香は探偵としての誇りをかけて、全てにおいて型破りの貴族探偵に果敢に挑む!事件を解決できるのは、果たしてどちらか。精緻なトリックとどんでん返しに満ちた5編を収録したディテクティブ・ミステリの傑作。

 

前作「貴族探偵」より趣向が凝ってて好き。

というか、貴族探偵という存在の異常性が際立ってて、神様シリーズやメルカトルみたいな新しい探偵をやりたかったのかな...というのが分かる。よくこんな設定思いつくなぁ。

短編集であり、前作と明らかに連続する話はないが、前述の通り(ある趣向のため)できれば前作「貴族探偵」読了後に読むことをお勧めしたい。

 

zakkan0714.hatenablog.com

白眉なのは「弊もとりあへず」(こんなん麻耶しかかけねぇ)。

最終話の「なおあまりある」は短編集のまとめとしてあまりに綺麗で、「貴族探偵」シリーズで続編も読んでみたいけど、これで完成されちゃった感もある。でもそこをひっくり返してくるのが麻耶雄嵩なので、期待してます。

 

ていうかさ、貴族探偵シリーズってドラマだけじゃなくて、みらい文庫で子供向けにも出版されてるけど、メディア展開担当してる人、本気???

いや、子供向けをバカにしてるわけじゃないんだけど、これをいきなり読んだ子供、今後へたくそなミステリ読めなくなると思うんですが…特殊性癖がついてしまう……(まぁでも、「神様ゲーム」も子供向けに出されてるくらいだからいいのか…)

 

 

 

 

※以下ネタバレあり感想

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「従者に推理させる探偵」という一見ギャグのような設定だが、「貴族探偵」ではその設定がそこまで活かされていなかったところ、ライバルキャラたる「女探偵」の登場により、本作(特に最終話「なほあまりある」)でその「異常性」がやっと見えてきたような気がする。

 

すなわち、「推理の絶対性を決めるものこそが探偵」であるということである。

従者たちは外型的には推理をしているから「探偵」であるように見えるが、あくまで「道具」にすぎず代替が効く。絶対性をもっているのは、この物語における「神様」は、やはり、他ならぬ「貴族探偵」自身なのだ。

だからこそ、それまで貴族探偵に全敗してきた女探偵は、貴族探偵に雇われて(絶対性を付与されて)初めて「なほあまりある」では、正しい推理をすることができる

 

この辺、神様シリーズやメル、木更津と比べると異常性がまだ際立ってないのでうまく説明できないのだが、とにかく「異常な探偵」を作ってアンチミステリをやってやろうという気概は感じられる。あーーー麻耶雄嵩の描く「異常な探偵」シャブいんじゃ~~~!!!!

前作だとよく分からなかったけど、「なほあまりある」がきっとやりたいことなんだと思う。もうちょい突き詰めていくと、従者が犯人のケースとかで変な短編も作れそうなんだけど私には思いつきません...

 

以下、各短編の簡単な感想。

 

「白きを見れば」
本作の趣向説明用の一作という感じ。「被害者が実は加害者で、犯人に返り討ちにあった」というのがポイント。推理のひっくり返り方が綺麗で好き。

 

「色に出でにけり」
白き〜と趣向は大体一緒。①携帯に遺書を残した理由、②何故タオルによる絞殺だったのか、それぞれによって犯人から外れる二人による共犯というのは分かりやすいヒントで面白い。示と豊で「禮」というのも言われてみれば確かに、という感じで気づけなかったのが悔しい。

 

「むべ山風を」
これ一番推理わかりにくかったな。ちょっとこじつけ感もあったけど、パズラー的だったね。

 

「幣もとりあへず」
本作の「こうもり」枠。

「あなたなら理由を付けて浴場に入っても怪しまれません。あなたが田名部さんを殺したんですね」

ここほんとすごい破壊力よな。

だがその夜、事件は起こってしまった。その意味で愛香の直感は正しかった。半分だけだが...。
なぜなら、殺されたのは田名部優紀ではなく、赤川和美だったからだ。

ってわざわざ地の文で書いておいてこれ、すごすぎん???というかこの地の文は誰の語りなんだ。神様目線か?

「地の文は正しいことを書きながら作中人物は誤認させられている」という「逆叙述」なんだけど、本作は誤認のさせ方がさらに凝っててよく出来ている。

読んでほしいとしか言いようがないんだけど、これ麻耶読み慣れてない人が読んだら混乱しかないやろ...(だからこそ、これを児童向け書籍として出版する集英社意味わからんのですが)

叙述トリック麻耶雄嵩作品でしか見かけたことないんだけど、これを使いこなせるのは麻耶しかいないんじゃなかろうか。

 

「なほあまりある」

前段で色々書いた通り。本作短編集の締めにふさわしい一作。

潔癖症やコッタボス、喫煙者であること、薔薇に造詣が深いことと、これまでの短編で挙げられてきた貴族探偵の特徴を活かして推理を詰めていくのもよく出来ている。

しかし、貴族探偵本人を殺すことは出来なかったけど、罪をなすりつけることはしてるし、その上貴族探偵本人が部屋の入れ替えに言及したら完全にトリックが崩れるのがいまいち納得は出来ないけどまぁ...貴族探偵というジョーカーなんだということで、ギリギリ許容範囲という感じではあります。