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日々雑感(ミステリ感想中心)

世界は密室でできている。(舞城 王太郎/講談社)

66.世界は密室でできている。(舞城 王太郎/講談社

総評:★★★☆☆

オススメ:ミステリではない...かなぁ。舞城王太郎節が好きな方へ、爽やかな青春小説。

あらすじ(引用)

十五歳の僕と十四歳にして名探偵のルンババは、家も隣の親友同士。中三の修学旅行で東京へ行った僕らは、風変わりな姉妹と知り合った。僕らの冒険はそこから始まる。地元の高校に進学し大学受験ーそんな十代の折々に待ち受ける密室殺人事件の数々に、ルンババと僕は立ち向かう。

さて、どうしたもんかねぇ。

舞城王太郎は「煙か土か食い物」を読んだ時もどう評価したものか悩んだんだけど(と言いつつ面白かったので星5をつけた)。うーん。有栖川有栖みたいなガチガチ上品ミステリ読んだ後だと食い合わせが悪かったというか。笑

煙か土か食い物」もミステリじゃねえよこれ〜〜〜ガチガチの純文学じゃん...と思ったけど、本作もミステリとして読むよりはジュブナイルとしての側面が味わい深い気がする。

なので、「よぉぉしミステリ読むぞぉ!」という気分の時に本作を読むと、自分のように肩透かしを食らう。他の方の感想も読んでいてなるほどと思ったのだけど、この小説における「ミステリチックな事件」の本質はどれも謎にあるんではなくて、すべてなんらかのメタファーなんだろうね。密室もメタファー。殺人もメタファー。やたら見立てが多かったのもそういうこと。びっくりするようなトリックと華麗な謎解きを求めるもんではない。ていうかミステリとしてはナンセンスすぎて壁本ギリギリな気がする。

 

まぁそれでも、舞城王太郎節自体は割と嫌いではないのでサクッと読んじゃえるんだけど。
そもそも、キャラがエキセントリックで全然感情移入できないのに、ポツリポツリと現れる彼らの悲しみや寂しさ、喜び、怒りは切実に想起されてしまう。すごい。

メフィスト賞つながりで京極夏彦も、(方向性は違うけど)なんか本質的なところは近しい気がする。舞城王太郎も文章の上手さで読ませるというか、アップテンポで異常なノリの文体がクセになってくるので。嫌いな人はとことん合わないだろうなぁ。

(と思ったら芥川賞候補に「好き好き大好き超愛してる」が入選した時、石原慎太郎に酷評されてるんですね。分かる。)

 

舞城は素直に純文畑やってる方が向いている気がしないでもない。奈津川サーガはまた読みたいような、うーん、まぁでもテンション高い時に読みます。

 

世界は密室でできている。 (講談社文庫)

世界は密室でできている。 (講談社文庫)

 

 


※以下、ネタバレあり感想

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

解けるわけねーじゃん。というのが舞城王太郎ミステリよなぁ。

解けないミステリも嫌いではないんだけど、本作に関して言えば第1章と最終章以外はなんか個人的には合わなかったな。

趣味の問題だとは思うんだけど、エドワードホッパーに見立てて殺す何だか芸術家気取りの殺人鬼とか(何で彼は警察に捕まらずに福井まで行けたんですかね)、よく分からんけど地獄のようなストップモーションアニメを作るツバキさんとか、更には謎の死体芸術に怒ってトンチキな四コマを作り直して第五の密室を作る奈津川さんとか。いやもう、お腹いっぱいです。油がきつい。

 

まぁでも、ネタバレなし感想に書いた通り、表面的にそういった現実離れした人を描きたかったんじゃなくて、多分メタファーなんですよメタファー村上春樹の羊男とかそんなんと一緒ですよ(メタファーって言っときゃいい感)

言葉にすれば陳腐だけど、最終章はなんの密室もないように見えて、過去の楔という密室からルンババが解き放たれたという話なわけで、「世界は密室でできている。」なんですよ。物理的な意味ではなく。ミステリじゃねぇじゃん〜〜〜

しかしほんとに、第1章とそれに繋がる最終章は綺麗だった。最終章のラストシーン描きたかっただけでしょう。ルンババが屋根から飛び降りて号泣するシーン。綺麗だったな。

本作は上記のような常軌を逸した人々(ここ駄洒落ですよ)がやたらと出てくるので映像化はむりだろうが、あの最終章はぜひ映像で見てみたくなった。でもまぁ、煙か土か〜もエログロすぎて絶対映像化できないし、舞城は「小説」でしかできない表現、「小説」という媒体に矜持を持ってるのかもしれんですね。

しかし、煙か土か〜であんな目に遭わされたルンババだけど、こんな天才的な名探偵だったんすね。あの世界どうなってるんだ。