好きなものだけ食べて生きる

日々雑感(ミステリ感想中心)

アリス・ザ・ワンダーキラー 少女探偵殺人事件(早坂吝/光文社)

54.アリス・ザ・ワンダーキラー 少女探偵殺人事件(早坂吝/光文社)

総評:★★★★★

オススメ:不思議の国のアリス×ミステリ。遊び心あふれるパズル的なミステリの好きなあなたへ。

 あらすじ(引用)

十歳の誕生日を迎えたアリスは、父親から「極上の謎」をプレゼントされた。それは、ウサ耳形ヘッドギア“ホワイトラビット”を着けて、『不思議の国のアリス』の仮想空間で謎を解くこと。待ち受けるのは五つの問い、制限時間は二十四時間。父親のような名探偵になりたいアリスは、コーモラント・イーグレットという青年に導かれ、このゲームに挑むのだがー。

 

文句なしの星5!面白かったー!!(knkwさん、オススメしてくださりありがとうございました!)

 

設定は完全に現実離れしているので、地に足のついたミステリを求めている人には全くオススメできないが、パズル的なものが好きなら絶対楽しく読めるのでは。趣向は違うけど、『密室殺人ゲーム』や『どんどん橋、落ちた』とかが好きな人向け。

参考リンク:

密室殺人ゲーム王手飛車取り (歌野晶午/講談社文庫) - 好きなものだけ食べて生きる

どんどん橋、落ちた (綾辻行人/講談社文庫) - 好きなものだけ食べて生きる

 

でも、他の方の書評を見る限り、案外賛否両論だったのは少々意外。

キャラが薄いとかオチがいらない的な感想も見かけたので、人によっては壁本なのかもしれない。個人的にはあのオチこそ全てなんだけど。キャラが薄いのもまぁ、アリスワールドの雰囲気づくりと思えばそんなに気にならなかったかな。

 

ラストまで読んだ後に、色々伏線を読み返すとかなり綱渡りしていて、気付けなかったことがちょっと悔しくなった。

 

早坂吝は「○○○○○○○○殺人事件」で低評価つけて以来避けてきたけど、評価が一変した。笑
というか文章もうまくなったよね?!「○○○○○○○○殺人事件」の時みたいな稚拙さがなくて読みやすかった。状況説明がちょっと分かりにくいところはあったけど、適宜図解も入ってるし、読んでて引っかかるところは少なかった。とはいえ、ラノベ的な文体ではあるのでこちらも好き嫌い分かれるかも。

本作は文庫化済みかつさくっと読める内容でもあるので、気軽に読んでもらいたいタイプの一冊。

参考リンク:

○○○○○○○○殺人事件 (早坂吝/講談社文庫) - 好きなものだけ食べて生きる

 

 

 

※以下、ネタバレあり感想

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんといっても白眉は最終章のどんでん返しの嵐。

 

①女王殺しは実は探偵役が犯人という、(ある種定番の)叙述トリック

②からの、仮想現実と思っていたら実は現実でも母親を殺してしまっていた(殺させられた)という壮大な殺人トリック(トリックかな?)

③と思ったら母親は生きており、各ゲームの共通点とは「実は生きていた」だったこと判明

④でもクックー・ドレイクは死んでいた!母親の職業とは殺し屋だった!教育ママは狂育ママだったのだ!!(なんじゃそりゃー)

 

...こうやって並べると、まぁまぁバカミスの様相を呈しているような。笑 でもこういうの好き。こだわりぬいたバカミスは全然許せますね。

 

①は結構有りがちとはいえ、いや〜すっかり騙された。でもかなり用意周到に伏線を張っていて良かったな。

「信用できない語り手」をよりによって連作短編最後に持ってきたこと(「探偵役」への信頼度を上げまくってからの落とし)

・言わずもがな、クッキーとシロップの効果期限に関する伏線「ガラスの向こうにいた9」の記述

・最後の課題は「女王を殺した犯人当て」ではなくて「白ウサギを捕まえる」であること

特に、クッキーとシロップは非常によい伏線。クイズ集みたいになっていた序盤をきちんと活かしてくれた。連作短編はこうでなくては。

ガラスの向こうにいた9の記述はまぁややアンフェアな書きぶり(剣を振り下ろした後の「大変だ――」のあたりとか)なんだけど、大目に見ます。

 

②④もよかった。というか、②だけで終わったら壁本認定だったかな。

仮想現実と現実をごっちゃにさせて母親を殺させるってなんやねん、成功するわけないやろと思ってしまうので。しかも最後の事件でだけ《ホワイトラビット》の使用者を現実でも操れるようにできるというのが、さすがに現実離れした世界観の作品とは言え、ちょっと都合よすぎる。

と思ったら、手ぐすね引いてたのは当の母親で死んだふりでした〜オチだったので、なんかもう一周回って笑ってしまった。うん、許す!笑

ネタバレなしの方で、綱渡りといったのはここの伏線のことなんだけど、「挿話 アリスの母親とクックー・ドレイク 現在」のラスト、

「もう寝ましたか?」

きちんと行数を追えば母親の発言だと分かるんだよね。これ悔しいなぁ。

三点リーダーが続いた後いきなりこれだったから、ドキッとしてしまって「うわ〜単純ながら効果的だなぁ、結構ゾクッとするセリフだ〜」とか思って読み飛ばしちゃったんだよね(ミステリ読みとしてどうなのか…)。

ていうかこの手の会話文だけみたいな章は、もう1人紛れ込んでるかもとかの話者の錯綜を疑ってかかるべきだった。オムライスにそっとマスタードをかける母親とか、命に関する仕事だけど医者じゃないとかの伏線も怪しいなとは思ったんだけど。うーん。色々読み手として心構えが足りなかった。反省。

 

蛇足といえば蛇足だけど、③もなかなか唸ったなぁ。確かにね。

「○○○○○○○○殺人事件」のタイトル当てみたいな、なんというか事件を俯瞰させるようなクイズ的謎の作り方がうまいな、この人。

 

また、「探偵とは何か」に触れているのも新本格らしさがある。

麻耶雄嵩殊能将之ほど、真面目にその存在意義を掘り下げるタイプのものではないが、

・本来敵対関係にあるはずの殺し屋と結婚した探偵(父)

・あろうことか、殺し屋に殺人を依頼する探偵(父)

・事前に犯行を予測して殺人を食い止めても、結局は犯行に走ってしまう犯人の存在を認め、「探偵の限界」を悟る探偵(父)

・探偵を自負し、謎を解くと豪語していたのに、自らの目的のために手を汚しまた誤った推理で真実を捻じ曲げる「探偵役」(アリス)

と、大きく4つ、いわゆる「探偵」像を崩すような設定が根幹に配されている。

そして、探偵よりも殺し屋の方が適正があると判断されてしまうアリス。トリックを見抜く機転はそのままトリックを思いついて実行することと表裏一体、探偵と犯人は紙一重というのを見せつけるような構成になっている。

あと、「ワンダーキラー」に二重の意味を持たせて、タイトル回収するところもよき。

 

叙述トリックがそもそも好きなので、それだけで結構高評価なんだけど、上述の通り探偵役自体にも皮肉っぽさを添えているところが個人的には好みですね。

シリーズ化は不可能だろうけど、アリスちゃん可愛かったしこういう感じのまた読みたいなぁ。