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日々雑感(ミステリ感想中心)

教室が、ひとりになるまで(浅倉秋成/KADOKAWA)

64.教室が、ひとりになるまで(浅倉秋成/KADOKAWA

総評:★★★★☆

オススメ:伏線回収系青春ミステリ。孤独を愛するあなたへ。

あらすじ(引用)

北楓高校で起きた生徒の連続自殺。ひとりは学校のトイレで首を吊り、ふたりは校舎から飛び降りた。「全員が仲のいい最高のクラス」で、なぜー。垣内友弘は、幼馴染みの同級生・白瀬美月から信じがたい話を打ち明けられる。「自殺なんかじゃない。みんなあいつに殺されたの」“他人を自殺させる力”を使った証明不可能な罪。犯人を裁く1度きりのチャンスを得た友弘は、異質で孤独な謎解きに身を投じる。新時代の傑作青春ミステリ。

「六人の嘘つきな大学生」が大変面白かったので続けて読了。

いや、この作者ほんっと人物描写がうまい。で、巧みな伏線でも有名なのね。寡聞にして知りませんでしたわ...評判通りの出来だった。

ただまぁ「六人の〜」に比べると、ちょっとミステリとしては出来が落ちるかなと思う部分もあり(好みの問題ですが)、星4にした感じ。まぁトリックの部分がメインなんじゃなくて、人物の気持ちや揺らぎを描きたかったんだろうから、青春小説としては100点満点だと思う。

 

それにしても、「六人の〜」でも意識高い系就活生(いわゆるナチュラ陽キャ属性の人々)の書き方が上手いなぁと舌を巻いたが、今作でも陽キャ陰キャの描写がまぁお上手。いるよなぁ、こういうやつ。

また「六人の~」と比較してみると、

「きっと大学生になったら、高校までのように馬鹿らしい集団生活に付き合わされることもなく、自由になれるんだろう」と思っている高校生、

「憧れのこの会社に入ったら、きっとかっこよくて素敵な社会人生活が待っているんだろう」と思っている就活生

という、社会人になった今振り返ると苦笑いしてしまうような、でも当時は本当に切実にそう思っていたんだよな、という一瞬のきらめきと切なさの描き方がとても上手い人だなと思う。

今作の主人公の造形も、うん、ミステリ好きな人間って200%陰キャだから(暴論)なかなか感情移入しながら読めるのではないか。

 

参考リンク:

zakkan0714.hatenablog.com

 

教室が、ひとりになるまで (角川文庫)

教室が、ひとりになるまで (角川文庫)

 

 

 


※以下、ネタバレあり感想

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラスの支配者が次々「調律」されていくことを、八重樫が「到底理解できない」といったその動機を、果たして理解してしまえるか。

この著者は「小説を読むような人なら、きっと誰もが一度は感じるひとりにしてくれ」という痛切な気持ち」を丁寧に丁寧に積み上げて、あのクライマックスを描いたと思う。

読書は孤独な作業だ。

読書はたった一人でないと没頭できない。共有できない。そんな娯楽が好きな人なら、その善悪は一切抜きにして、壇の「意味不明な動機」に共感してしまう、と思う。

しかし、自分と違う人間だからといって殺していいわけでは当然なく(しかも殺害方法は極めてファンタジーなので、司法が裁くわけにもいかない)、壇を一体どうやって「処罰」するのか、と思いながら読んでいたのだがーー...

「私は今日、死にました」

 

煩わしい同調圧力、分かり合えない「別種の」人々、しかし孤独を好む人たちはどうしても「みんななかよく」のお題目の前では勝つことができない。だからどうするか......自分を殺すのだ。

 

エピローグでは、ずっと欲しかったアコギをとうとう買えたのに、色んなものに幻滅してーーそれは垣内が勝手に見ていた「幻」にすぎなかったのだがーーそしてアコギを捨てると言って家を飛び出す。

でもそのあと、美月とのやり取りがあるのは… 本当にこの作者は、人が大好きなんだなと……。

六人の〜を読んだ時にも感じたけど、この作者はなんと達観しているのだろう。「いやいや、人ってこんな優しいばっかじゃないですよ」と言って否定するのは簡単だけど、あくまでイヤミスで終わらせず、綺麗な余韻を残して終わる。完璧ですわ。

まぁこうした青春モノとしての味わい深さは解説するのも無粋なレベルなので、こんなもんで。

 

で、肝心のミステリ部分ですが。

うーん。異能力モノなのはまぁ、うん、アリなんだけど。

犯人もかなり最初の段階で特定されるので、「犯行に使われたのはどんな特殊能力かを推理する」というやや特殊なハウダニットという感じ。

でもな〜〜〜これ、可能性が広すぎて、推理して正解を絞るのがかなり不可能な気がするんだよね...

一応、岸谷の自伝がきちんと示されて特殊能力の伏線にはなってるけど、うーん、提示された条件を全部を疑ってかからないといけない読み手としては、そんな曖昧な理由で推理できないですし...

その他にも「幻覚を見せていた」&能力発動条件の伏線は色々張られてるし丁寧なんだけど、こう、十分条件だけど必要条件ではないですよね...という......

あとまぁ、自分のような捻くれたミステリ読み的には

・八重樫の能力って本当に自己申告を信じていいのか?(なお八重樫を疑い始めると壇犯人説自体から疑わないといけない模様...)

・そもそも垣内の特殊能力も全部信用していいのか?あの手紙や「テスト」で検証は十分なのか?

まで疑っていたので、その辺もうちょっと上手いことロジカルに潰してほしかったかなぁ...特殊設定ミステリは可能性の狭め方が難しいよね。

 

それと、この辺はずるいかもしれないけど、小早川が壇と親友だったという一手だけでかなりの部分がひっくり返るのに、文集今まできちんと見てませんでした笑 はちょっと無理があるじゃろ〜〜〜
大体、幻覚を見せる能力って普通に強すぎでしょうよ。精神誘導系とあんま変わらんわ。

 

とまぁ、この辺はどこまでギリギリとロジカルさを求めるかという趣味の部分もあるんで、あれですが...そんなわけで、ミステリとしては好みは分かれる気がする。

いずれにしても、同作者の新作が出たらまたチェックしたい。楽しみ。