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日々雑感(ミステリ感想中心)

ラミア虐殺(飛鳥部勝則/光文社)

84.ラミア虐殺(飛鳥部勝則/光文社)

総評:★★★★☆

オススメ:雪に閉ざされたクローズドサークルで引き起こされる連続殺人。ホラーサスペンス寄りのミステリが読みたい方へ。

 

あらすじ(引用)
「僕は自分が犯人ではないことを知っている。つまり殺人鬼は他の、誰かだ。それを突きとめられないなら、全部殺してしまえばいい。その方が、自分が殺られるよりは、はるかにいい。疑わしきは、罰せよです」吹雪の山荘で起こった連続殺人。残された謎のメッセージカード。犯人を探そうとしない滞在者たち。ここには、人倫も尊厳もなかった。殺すか、殺されるか。その二つだけがあった。極上にして凶悪。鬼才渾身の「背徳の本格」、出現。

 

クローズドサークルものが読みたくて調べていたところ、琴線に引っかかった一冊。

飛鳥部勝則は本書のほか、「堕天使拷問刑」「殉教カテリナ車輪」で名前は知っていて、奇書寄りの作家ということだったのでいつか読もうと思っていた。

なんだけど。

いや...この人の本、ほんっと全作品プレミア価格で参った。笑

私の使ってる電書サービス(booklive君)で販売されてるのは「バベル消滅」くらいで、さっき挙げたような有名作品は中古で大体定価の4〜5倍くらいの価格で売られてますね。麻耶の夏冬や木製の王子よりきっついな(最近どっちも電書化されましたね)。てなわけで久々に図書館で借りました。

 

閑話休題

結論としては結構好きだけど、期待していたほどのカタルシスはなかったというか...毎度同じようなこと言ってるけど、わたしは麻耶雄嵩的なミステリを常に求めてるんですが、あれとは違うね。

でもちょっと初期麻耶や殊能将之の衒学的な雰囲気というか、今回でいうと「怪物」に関する非常に詳細な解説が要所要所に挟み込まれるんだけど、その辺は似てるかな。

文体は結構好みだし、ラストにかけての構成もお見事。ミステリ的には...うーん、自分は初読で「ポカーン」だったけど、読み返すと意外と伏線が綿密に張られてて読み返し系ミステリとしては出来いいのかも。

 

ただ、とある要素のために嫌いな人は嫌いかもなーというところと、キャラ設定がややライトノベルチックなんでその辺が飲み込めるかどうかで好き嫌いが分かれる気がしますね。文体はそんなにラノベラノベしてないけど。自分は美夜ちゃん萌〜だったんで結構サクサク読めました。

 

奇書・アンチミステリというほどではないにせよ、普通によい一冊でした。入手困難なのがネックだけど、読む機会があればぜひ。

 

 

 


※以下、ネタバレあり感想

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


怪物が実際に出てきてしまうのが人によっては「ミステリじゃない」ってなっちゃう要素かもなぁという感じ。

でも本作の面白いところは、怪物は一切殺しに加担せず、全ては唯一の人間である美夜が引き起こしたものであったというところ。

これは沢口も言及している。

 

美夜さんって、変身しないけど、怪物みたいでしたね。この世界には色々な怪物がいます。例えば、美夜さんみたいな人間でありながらの怪物、あなたみたいな人造の怪物、僕みたいな天然の怪物......このままでは世界は怪物天国ーーいいえ怪物地獄ーーになってしまいますね......

 

本作品はこのセリフに凝縮されるだろう。

 

「怪物としての特性が生かされていなかった」というネガティブな批評も見かけたが、むしろ、本作ではそういう怪物だからできるトリックを排除して、仮に怪物設定がなくともミステリとして通用する作品に仕上げたことが評価ポイントではないか。

最初読んだときには、美夜が犯人というのがあまりに信じられなくて(あとその前後で妖怪大戦争が起きていることもあり)突拍子のなさに呆然としてしまったが、読み返してみるとわりときちんと伏線は張られている。しかもご丁寧にラミアも解説してくれてるし(濡れた靴の描写、ちゃんとありましたね)。

動機もそういえば語られてるし、そもそも美夜、保母辞めた理由とかもかなりサイコパスだったし...

 

主に杉崎視点で語られるんで、なんとなく美夜を「怪物の館に放り込まれた、か弱くワガママなお嬢様」くらいに思わされる。それがミスリードとして完璧だったね。

 

特に終盤の中村一郎殺し、あれはサオリがきちんと犯人を言い当ててるのに、その直前、杉崎の「依頼人は守る」発言や、美夜視点からの理不尽に見える展開に惑わされて、サオリや宏へのヘイトにしかならないという。

伏線がどんだけ丁寧に張られてるかは、以下が非常に詳しいのでぜひ。

gamp.ameblo.jp

あとは一応、池上の動機として「佐藤薫」の性別誤認トリックがあるけど、あまりにあっさり使われてるので、ドンデン返し要素にすらしてないのは贅沢(?)ですね。

 

それと、あらすじのところに書いてある「僕は自分が犯人ではないことを知っている〜」の下り、本編のかなりラストの方のセリフなんで、あらすじに使うのはちょっと不適当な気がするなぁ。

まぁ自分が、このあらすじに期待して読んでしまったせいなんだけど。

結局きちんと推理はしてくれるし(あらすじだけ読むと、探偵が推理放棄するようなアンチミステリなのかなって思っちゃうよね)、そもそもこのセリフ主人公のじゃないし、ここがこの作品の本質かと言われるとうーんって感じだし。現場保存しないわ警察呼ぶ気ないわで、確かにちょっと異常なクローズドサークルではあるんだけど。


犯人の美夜ちゃんですが、私はラストの豹変ぶりも合わせてめっちゃ好みですねぇ。

お前ちょっと前まで「杉崎しか頼れないの♥」みたいな顔したり、杉崎に結婚迫ったり、なんなら命救ってもらったりしてるくせにすげぇよ。

全く理解できない行動ばっかりなんだけど、一応美夜視点の章もあるせいで「サイコパス的には理路整然とした行動なんだな...」と納得させられてしまうのは描写の妙ですかね。

 

本作の後日談?らしい「黒と愛」、この作者といえばの「堕天使拷問刑」くらいは読んでみようかと思います。また図書館かな。