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日々雑感(ミステリ感想中心)

そして誰も死ななかった(白井智之/KADOKAWA)

94.そして誰も死ななかった(白井智之/KADOKAWA

総評:★★★★★
オススメ:孤島の連続殺人モノ。少々のグロ描写に耐えられるなら断然オススメです。

あらすじ(引用)

覆面作家・天城菖蒲の招待で、絶海の孤島に建つ天城館に集まった5人の推理作家。しかし館に主の姿はなく、食堂には不気味な5体の泥人形が並べられていた。不穏な空気が漂う中、かつて彼ら全員が晴夏という女性と関係していたことがわかる。9年前に不可解な死を遂げた彼女の関係者が、なぜ今になって集められたのか。やがて作家たちは、次々と異様な死体で発見されー。ミステリ界の鬼才が放つ、絶対予測不可能な謎解き!

 

名探偵のはらわた、いけにえに続いて白井作品が読みたくなり手に取った一冊。いや、これは面白かった。

イデアがとにかくユニークで、物語後半からのかっ飛び具合がすごい。何も情報をいれないで読んで欲しいので紹介がしにくいのが難点だが、孤島・連続殺人・特殊設定モノ・パズラーが好きな人なら間違いなく読んだほうがいい。

 

白井作品につきもののゲテモノ要素は若干あるのだが、本作はそこまでグロ描写もなく読みやすい方。自分が読んだことがある作品で比較するとグロい順に、

名探偵のはらわた<名探偵のいけにえ<本作<<<人間の顔は食べにくい

という感じか。

 

あと、白井作品は伏線が丁寧で読者にフェアだなぁと思う。推理難易度は高いので全然真相には至れなかったが、「あーこの描写は伏線だな」という箇所は随所にあって、再読するとより面白い。いけにえ同様、一気読みしたくなる良作。

 

zakkan0714.hatenablog.com

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※以下、ネタバレあり感想

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


全員死んでからが本番、なのだがそこから更に全員復活するとはさすがに思わなかった。

いやたしかに「そして誰も死ななかった」ってタイトルだけども!まさかの変化球ゾンビ(?)もの。

 

晴夏とセックスすると体内に寄生虫を生みつけられ、死んでも復活できるようになるというトンデモ設定の下、「誰がどうやって全員を殺したのか?」を推理することになる。

 

白井作品お得意の多重解決モノになっていくのだが、面白いのは「死んだ順に並べて最後の人が犯人のはずだ(フーダニット)」→「どうやって殺したのか(ハウダニット)」に焦点が当たっている中、最後の最後に「何故孤島で、生き返ってしまうと分かっている5人を殺したのか(ワイダニット)」に辿り着くところ。

最近のミステリはフーダニットとハウダニッドをやり尽くしてしまい、残る開拓分野はワイダニットだけという言説も目にしたことがあるが、本作の動機である「晴夏と本当にセックスしたのは誰か知りたかった」はなかなかに壮絶(ていうか他にも候補がいそうなものだが)。

「そして誰も死ななかった」ことは、斉加年にとって最悪の事実ではあったが、それ以上人殺しをする気にもならなかった。しかし肋が不用意にも「全員事故で死んだ説」の隙を突く指摘を斉加年に突きつけてしまった結果、「誰も死ななかった」はずの物語唯一の死者が出る(全員帰還エンドはちょっと肩透かしだなと思ってたので本当にびっくりした。死の間際に煙草を渡す描写、エモくて良かったな)

 

若干ネタバレになりそうなので反転するが、名探偵のいけにえの展開と重なるところがあり、いけにえは本作のどんでん返しを更にブラッシュアップしたように感じられる。やっぱり多重解決モノは最後のどんでん返しがあってこそ

 

立て続けに当たりの作品を引いてしまったので次に読むものが悩ましい。何を読もうかな。