89.木製の王子(麻耶雄嵩/講談社)
総評:★★★★☆
オススメ:麻耶雄嵩が好きな方へ。最低限、「名探偵 木更津悠也」を読んでからどうぞ。初麻耶本としてはあまり勧めません...
あらすじ(引用)
比叡山の麓に隠棲する白樫家で殺人事件が起きた。被害者は一族の若嫁・晃佳。犯人は生首をピアノの上に飾り、一族の証である指環を持ち去っていた。京都の出版社に勤める如月烏有の同僚・安城則定が所持する同じデザインの指輪との関係は?容疑者全員に分単位の緻密なアリバイが存在する傑作ミステリー。
初期麻耶はほんとに話が複雑すぎ&超展開かつ難解で、ライトなミステリ読みの自分にはついていけないですね。ちまちま読んでたせいもあって読解に大変苦労しました...結局解説サイト見て、やっと理解できたような気になった感じ(仮にもミステリ読みが恥ずかしいですね)。
こうしてみると、最近のミステリはなんて親切に真相を解説してくれるんだ。
「翼ある闇」はともかく、「名探偵 木更津悠也」がめちゃめちゃ好きだったので、木更津&香月ペアの長編にあたる本作はぜひぜひ読みたいと思っていて、わくわくしながら購入を決意した(もちろん絶版なのでプレミア価格)。
それも煽り文句は「容疑者全員に分単位の緻密なアリバイが存在する傑作ミステリー」!
あの麻耶雄嵩がそんな、真っ当にパズラー的なミステリを書いたというのか?!しかも木更津シリーズで??!とかなり疑心暗鬼な気持ちで読んだのですが。
結果から言うと、まぁ非常に麻耶雄嵩らしい一作でした。これは間違いない。
何言ってもネタバレだから、うーん、その、「翼ある闇」が許せる人が読むべきです。
私は好きだけど、人によっては壁本。これもアンチミステリの類ですね。
いや、きちんと合理的解決も見るし、投げっぱなしな謎はないし、「翼ある闇」や「夏と冬の奏鳴曲」よりはトンデモではないんだけど...
ただ、こんなミステリの書き方あるんだなっていう驚きはきちんとあって、やっぱ麻耶は特別なんだなと思いました。入手困難だけど、最近名探偵木更津悠也も夏と冬の奏鳴曲も電子化したし、これもワンチャンあるかも。そしたらぜひ読んでみてください。
※以下ネタバレあり感想
冒頭でも述べた通り、一読だとなんだかよく分からなくて(特に名前がごっちゃになって混乱した)、結局、「黄金の羊毛亭」さんとそこにリンクされてた以下の解説サイトを見てやっと理解しました。正直、自分から追加で説明できることは何もないです……考察されてる先駆者ニキすごすぎ。
黄金の羊毛亭:木製の王子/ネタバレ感想
悪魔祈祷書:「麻耶雄嵩『木製の王子』徹底解剖」
買ったら積みます:麻耶雄嵩『木製の王子』講談社文庫
にしても、「1分単位の緻密なアリバイ!」を煽り文句にしておきながら、実際にはそのアリバイトリック自体には意味がなくて(被害者が人の目を盗んで殺害現場まで自発的に来るという真相だし)、「なぜそんな異常なアリバイトリックが成立したのか」というワイダニットが本質だというのは、ほんと麻耶ミステリは人を食ってるなと。
アリバイトリック自体を解くのは、「名探偵」たる木更津ではなく吉村だしね。
解説サイトの中でも言及されてるけど、緻密なアリバイトリック「自体」に狂喜乱舞して飛びつくミステリマニアを嘲笑ってるようでほんと性格悪い(褒め言葉)。
あと、今回も香月の「ドラマのような家族」がヒントになって、木更津が真相に気づくわけだけど、香月はいつどの時点で真相に至ってて木更津を誘導し始めたんだろうね。
最後の謎解きする場面でも、
この事件に関しては自分は幸運だった。事件の終焉に立ち会うことができたのだから。
とかなんとか言ってるあたりからも、自分の蒔いた種がようやく芽吹く瞬間を楽しみにしてたように読める...読めない?
崇拝するホームズの活躍を切望するあまり、真相に関するヒントをそれとなく小出しして誘導する歪んだワトソンという、木更津・香月コンビ本当好きだなぁ。
麻耶で単行本化してるのはこれでざっと一読終わったはずなんで、あとは投げちゃったやつ(隻眼の少女とか貴族探偵vs女探偵、友達以上探偵未満…)を読もうかなぁ。
追記:女探偵めっちゃ面白かったわ。これを投げちゃってたのは反省。