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日々雑感(ミステリ感想中心)

NO推理、NO探偵?(柾木 政宗/講談社)

56.NO推理、NO探偵?(柾木 政宗講談社

総評:★★☆☆☆

オススメ:バカミス、メタミスを読みたい方へ。ノリが合わないととことん辛いと思います。

あらすじ(引用)

私はユウ。女子高生探偵・アイちゃんの助手兼熱烈な応援団だ。けれど、我らがアイドルは推理とかいうしちめんどくさい小話が大好きで飛び道具、掟破り上等の今の本格ミステリ界ではいまいちパッとしない。決めた!私がアイちゃんをサポートして超メジャーな名探偵に育て上げる!そのためには…ねえ。「推理って、別にいらなくないー?」NO推理探偵VS.絶対予測不可能な真犯人、本格ミステリの未来を賭けた死闘の幕が上がる!


いや〜読みにくい。笑

なんだろう、オチについては評価できるしやりたいことも分かるけど、とにかく全体にわたってすごいつらい。お勧めいただいたknkwさんに、「つまらないところも多いがラストが素晴らしい」と言われていなければ正直投げていたかもしれない。

自分は、ライトめの文章も読むほうだと思ってるけどそれでもしんどかった。ほぼ拷問(失礼)。正直星1だけど、オチの評価で星2にした感じ。

 

※本作は「評価するべき点」がすべてネタバレにあたるので、必然的にネタバレナシ感想ではかなり辛口になります。すみません。面白いところはあるといえばあります。

 

個人的なスタンスとして、ミステリにそこまで文学的な流麗さ、美しい文章は求めないことにしている。また、トリックさえ良ければ人物が書けていなくても気にしない(トリックにかかわる場合には「その人物らしい行動がとれているか」は気にするけど)。

どちらかといえば文体についてはかなり甘めに評価するほうなのだが、それでもなお、本作は何がこんなにダメだったのか挙げると以下の通り。

・とにかく会話が寒い。これがつらい。他の方の感想にあったけどツッコミが致命的に下手。ボーボボ系の勢い任せのツッコミなんだけど、これを小説でやるのはそもそも無理があると思う。行数稼ぎでしかない上に頭の痛くなる会話なので、フラストレーションが溜まる。

・主人公2人の書き分けができてない。ほとんど会話劇なのに、どっちが喋ってるのか結構分かりにくい。というか、どっちもテンション高めのツッコミ属性だと会話が単調になる。

・地の文が異常に少ない。もうちょいちゃんと状況説明したり動作を挟んだりしないと、何が起きているのか分からない。何というか、漫画でいうと全部大ゴマ&顔アップ、みたいな感じ。ミステリなので、一応最低限の情報は書いてくれているのだが、どんな状況なのかイメージするためにももう少し場の説明を入れて欲しかった。

 

あとは好みもあると思うが、自分はノリが合わなかった。特にエロミスの回。いや、ああいうトリック?にしたかった故の悪ノリ回なのは分かる、分かるけど...

 

とはいえ、ラストの方の目新しさはまぁまぁ評価したい。最初からメタネタオンパレードかつ異常なオチという意味で、THEメフィスト!という作品。良い意味でも悪い意味でも。

バカミスだけど、そしてあの文体に耐えられるのであれば(自分は何度も読むのが辛すぎて手が止まった)、一読の価値は......あるだろうか。

正直、加筆修正して出しなおしてしてほしいけど...

 

NO推理、NO探偵? (講談社ノベルス)

NO推理、NO探偵? (講談社ノベルス)

 

 


※以下、ネタバレあり感想

 

 

 

 

 

 

 

 

本作のミステリ的な意味で評価できる点は2つ。

①今までの足で解決した事件はすべて、「捜査が始まる前から十分に真相を推理することが可能だった」こと。

②最終章の犯人の特定方法。非常にメタを含みながら異様な動機であるものの、読者にもフェアな形でたった一人を推理することができること。

 

まず①。これは構成が面白い。

推理のできなくなった探偵を引き連れて、アホな捜査を行った末に謎を解くという展開を重ねた挙句、最後の最後「安楽椅子探偵」の章では今まで封印してきた「ロジカルな推理」を爆発させ、「実は捜査なんていらなかった、最初から答えは分かっていたんだ」と伏線を回収する。

試みは非常によいし、連作短編でも最終章になって「解決したと思っていたあの事件の、真・解決編」をやってくれるのは普通にテンションがあがる。のだが。

惜しむらくは、ネタが割れている事件をもう一度解き直すということなので、あまり驚きがないところ。

唯一「エロミスっぽいやつ」は更に「犯人はSMを楽しんでいた」という裏の真相を暴くが、他は完全に解き直すだけ。ちょっともったいない。全部の事件が、実は偽の解決で、本当の真相は……という展開の方がよかったと思う。まぁ難しいけども...

あと、結論が分かってから「実はアレもアレも、真相を示す手がかりだったんだ」と言われても、推理力の証明になってないんだよね。実は。

探偵の推理がすごいのは、真相が隠されている段階にもかかわらず、無数にある手がかりから必要なパーツだけ選んで真実に辿り着けるところだ(当たり前ですが…)。

言ってみれば、ダミーも大量にあるパズルピースを見て、適切なパーツだけを選び正しい絵を作ることができるか、完成図を見てからそのパーツを選ぶことができるか、くらいに難易度が違う(例えがあまり例えになってないけど...)。要するに、必要条件と十分条件の違いなんですが(真にロジカルなミステリの解決は、きちんと必要十分条件として推理を完結してくれているので読み手もほっとする)。

まぁでも、「目新しいことをしてみたかった」という心意気は買います。

 

次に②。こっちはまぁ...面白い伏線の張り方するなーと思ったし、意外な犯人の条件もクリアしているし、メタミステリとしては盲点だったと思う。

ただ、本作は①②とも、かなりパズラー的な要素を含んだロジカルな絞り込みのテクニックを特徴としているのに、②の推理においてもっとも根幹の論理にあたる「メタってどうしても言わずにはいられない」の部分の信用性がきちんと担保されていないのは少々不満。

「メタ発言をしなかった人でもメタを認識している可能性があるのではないか」への答えは、上記のユウちゃんの発言以外に、もっと別方面から潰す根拠が欲しかったなぁ。

例えば、「そうだとしても、他の証拠からソーセージおばちゃんが犯人だと指摘できる」とか「メタ発言自体から精査しても、このメンバーが積極的に犯人だと言える」とか。後者は論理がちょっと苦しいか?

とはいえ、②もかなりのバカミストリックな感じがあるので、人を選ぶかな。

早坂吝といい矢野竜王といい、メフィストこんなんばっかかよ〜もうこりごりだ〜(でも、玉石混交なところが面白いんだけど)