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日々雑感(ミステリ感想中心)

双頭の悪魔(有栖川有栖/東京創元社)

72.双頭の悪魔(有栖川有栖東京創元社

総評:★★★★☆

オススメ:有栖川有栖の代表作。巧みな構成と怒涛の展開に圧倒されることでしょう。出来れば孤島パズルを読んでからどうぞ。

 

あらすじ(引用):

他人を寄せつけず奥深い山で芸術家たちが創作に没頭する木更村に迷い込んだまま、マリアが戻ってこない。救援に向かった英都大学推理研の一行は、大雨のなか木更村への潜入を図る。江神二郎は接触に成功するが、ほどなく橋が濁流に呑まれて交通が途絶。川の両側に分断された木更村の江神・マリアと夏森村のアリスたち、双方が殺人事件に巻き込まれ、各々の真相究明が始まる…。

 

有栖川有栖3冊目。本作はミステリ史上にも傑作と名高く、有栖川有栖の代表作とも聞いていたので満を持して手に取った。

そして期待を裏切らない出来!さすが「このミスベストオブベスト」8位(まぁベストオブベストの面々自体には色々不満はありますが...)

 

あらすじや目次でも謳われているので先に言ってしまうと、なんと3回も読者への挑戦状がついている。こういう仕掛け、好きだなあ。

それと、有栖川有栖そんなにたくさん読んでるわけではないけど、本作を読んで改めて、非常にフェアでロジカルな作家と言われるのがよく分かった。

正直な話、自分は叙述トリックをはじめとする一発逆転大ホームラン的な作品が好みで、ちまちまとアリバイ崩しをしたり小手先の物理トリックで翻弄するようなミステリは趣味ではないのだが、有栖川有栖は何故か読めてしまう。読まされてしまう。

 

それは氏の卓越した文章力に加えて、謎がとにかく魅力的なことに尽きるだろう。

 

上述したような挑戦状に加え、クローズドサークル、死体に施された謎の装飾や一癖二癖もある木更村の住人、立て続けに起こる殺人事件とミステリファンの心をくすぐるエッセンスがこれでもかと詰め込まれている。

本作はやや分厚めの一冊ではあるが、どんどん引き込まれてあっという間に読んでしまった。

 

双頭の悪魔は、描写力のせいか読みながらまざまざと映像が浮かんできたので、これは絶対に実写向きだな〜と思ったら1995年に実写化されてたんですね。当時なのでVHS。笑
香川照之主演ということでめちゃくちゃ観てみたいけど、DVD化は..…….しないだろうなぁ。
学生アリスは全般的に実写化向きだし、リメイクで作り直してもウケそうなもんだけど、どうなんだろう。

 

 

 

 

※以下、ネタバレあり感想

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3回の読者への挑戦状全て見抜けなかったけど、木更村の事件は「香り」がポイントになっていたので、香西が何かしらキーマンになるんだろうとは思った。

とはいえ、犯人心理として自分を示すような小道具を殺人現場に残すのは抵抗があるよなぁ、むしろ香西は犯人から外せるのかしらんと思っていたら、まさかの交換殺人とは。なるほどなぁ。


八木沢の使った香りのトリックは、香西の指示ではなく自分で考えたんだろうけど、香西と契約したからこそ思いついたものだったのかな。

もし香水瓶を取り出す現場を見られたり、香水独特の理由から(実際に匂いを元に犯行時刻を割り出せるかもという提案が出てしまったわけだし)八木沢にとって不覚の事態が発生しても、共犯者である香西なら自分に有利な証言をしてくれると踏んだ可能性は高いよね。

 

今回の殺人事件は3件とも容疑者ほとんどにアリバイがない中、ロジカルに推理していくことで、たった一人の犯人を絞り出すというタイプ。

手品のタネあかしをみるような、江神の鮮やかな推理披露は圧巻なのだが、個人的にはややロジックに重きを置きすぎた感も否めない。

 

他の評論サイトでも度々指摘されることだが、まず動機が弱い。

特に八木沢が相原を殺す理由(千原をズタズタにしたという恨みは勿論あるだろうが、憎むべきは相原だけではなくマスコミ全般だろうし、彼の描写を見ていてもどちらかといえばポジティブに千原を外へ連れ出そうとしていたので...)。

自分は、面白いトリックが使われていれば動機は二の次三の次という主義なのだが、本作は「犯人と被害者の組み合わせが動機の面でチグハグ」ということから「交換殺人」を導く推理なので、ちょっとその辺は丁寧にやってほしい感じもあった。

 

あとは、香西がそんなに効率よく室木と八木沢をだまくらかせるのか...?ということ。

特に室木。江神も指摘していた通り、交換殺人が成立するためには強い信頼関係が必要。香西が殺人を決意したのは、木更夫人と小野が婚約を発表してからになるわけだから、一日で二人の信頼を取り付けたことになるが......うーん。

 

有栖川有栖って、人間関係のこじれや人物描写に結構ページを割いてるから、トリックが華麗に決まっても、なんだかその辺がふわっとしているのはちょっと違和感を持ってしまうんだよね。

とはいえ、謎解きを読んでいる最中は怒涛の展開に圧倒されてあまり気づかなかったんだけど。思い返してみると少々無理があるというか。

結局室木が捕まった後自白してしまうし、完全犯罪には程遠いトリックなわけだけど、まぁでも演出は上手かったからやっぱりお気に入りの一冊ではあります。

 

 

以下完全に雑談。

キャラ小説という意味では、正直学生アリスシリーズハマれそうにないです。

特に、「孤島パズル」の時以上にマリアが個人的には苦手......そもそも設定自体「お嬢様で推理研の姫ですかぁ...(苦笑)」という感じなんだけど、今回の自分勝手な家出はちょっとフォローしようがないね...

村でなんか酷い目にあっていて帰れないとかならともかく、(一応絵のモデルになっていたからという理由はあるものの)ほとんど現実逃避で村に居座るというのは...そりゃ両親が泣きますよ...

孤島パズルのラストで、マリアがショックの余り大学を休学することになるエピローグはビターで良かったんだけど、まぁ...人物造形の好き嫌いは個人の趣味ですかね...

 

あと、アリスとマリアが恋愛的にくっつきそうなのも、解釈違いで暴れそうになった。笑

いや、「孤島パズル」の時は「僕たちは恋愛じゃなくて良き友、良き盟友!」みたいな感じじゃなかった?!あっちの方が腑に落ちますが!!?

むしろ、本作でもそうだけど、マリアは度々江神の方にうっすら恋心めいたものを感じてなかったか??!(父性っぽさもあるけど、お嬢様だからこそファザコン寄りの恋愛はあると思うんですよね!!(熱弁))

 

ミステリとしては面白いのに、レギュラーキャラの造形でひっかかるのは本当よくないよね...だから探偵・ワトソン固定のシリーズものはなるべく手に取りたくないのですよ...

次は作家アリスシリーズ読もうかね。

(そのあと「46番目の密室」も読みました。うーん。嫌いじゃないけどnot for meかもなぁ…)