硝子の塔の殺人(知念 実希人/実業之日本社)
83.硝子の塔の殺人(知念 実希人/実業之日本社)
総評:★★★★☆
オススメ:theドンデン返しミステリ。クローズドサークル、怪しい館、密室殺人が好きなあなたへ。
あらすじ(引用)
雪深き森で、燦然と輝く、硝子の塔。地上11階、地下1階、唯一無二の美しく巨大な尖塔だ。 ミステリを愛する大富豪の呼びかけで、刑事、霊能力者、小説家、料理人など、一癖も二癖もあるゲストたちが招かれた。 この館で次々と惨劇が起こる。
館の主人が毒殺され、ダイニングでは火事が起き血塗れの遺体が。さらに、血文字で記された十三年前の事件……。謎を追うのは名探偵・碧月夜と医師・一条遊馬。
散りばめられた伏線、読者への挑戦状、 圧倒的リーダビリティ、そして、驚愕のラスト。 著者初の本格ミステリ長編、大本命!
ミステリを愛するすべての人へ
当作の完成度は、一斉を風靡した
わが「新本格」時代のクライマックスであり、
フィナーレを感じさせる。今後このフィールドから、
これを超える作が現れることはないだろう。
島田荘司ああびっくりした、としか云いようがない。
これは僕の、多分に特権的な驚きでもあって、
そのぶん戸惑いも禁じえないのだが――。
ともあれ皆様、怪しい「館」にはご用心!
綾辻行人
初っ端から引用ばかりですみません。
島荘、綾辻がこんな書評を寄せるほど鳴り物入りで発売された割に、評価が賛否両論と聞いたので、思わず購入。普段は文庫落ちしてから買う派なんだけどねぇ、まんまと出版社の思惑に乗せられちゃいました。笑
結論から言うと、思ったより全然面白かった。
ちょっと煽りは誇大広告すぎるかなと思ったけど、まぁミステリなんて煽ってなんぼですからね。
無理あるところはいくつかあるんだけど、ロマンを突き詰めました!みたいなオチなんでやりたいことはめっちゃ分かるし個人的に結構好き。
ただ、作中に出てくる「ミステリオタク」の名探偵の御託が薄っぺらいのはもったいなかったかな...核心に触れるような作品の紹介の仕方はできないんだろうけど、あらすじなぞっただけの蘊蓄なら無理に入れなくてもよかったのになーと。
作者がお医者さんなだけあって、薬物とか病気に関する描写は細かくてよかったんだけどね。
まぁ文庫化したらオススメしやすい作品かな。
※以下ネタバレあり感想
賛否両論の「否」の人的には多分、本作が「いろんなミステリのトリックの寄せ集めにしかなっていない」ところが評価下げてるポイントなのかな。
物理トリック部分は目新しいものはないし(作中でも大したトリックじゃないと言われてたけど)、一番の大オチであるところの「実はお芝居だった(フィクションだった)」もいくらでも前例あるしね。
でも、「フィクションだった殺人事件を本当にしてしまう」、それもよりによって「名探偵」が、という構造はやっぱ面白かったな。
これやるためにかなり無理のある話にはなってるし、やっぱ月夜はキャラが浮きすぎてるんで絶対犯人なんだろうなって見え見えではあるんだけど、でもまぁロマンは分かる。
「ライヘンバッハの滝で名探偵と心中したかったんだろ」のところ、本当よかったなぁ。
月夜も名探偵・名犯人の二役やってるけど、主人公も犯人・ワトソン・名探偵の三役やってんだよね。詰め込んだなぁ。
まぁ、細かいとこ挙げたら割と穴はある気がするけど。
そもそもこの手の「自作自演」殺人劇をやるなら医者だけは呼んじゃダメ(もしくは最初から仲間にしておく)とか。
加々見が死体に触れないよう牽制したことになってるけど、普通は医者に検死させるだろうし。一応「検死してない死体なのに、死んでいるかのようにミスリード」するために、第一の殺人は倒叙にしてたんだと思うし、その辺は構成の妙だと思うけど。
島太郎殺害時に折角電話かけたのに犯人の名前言わないのは不自然だとか、巴の死体を斜めの壁を使って下の階に滑り込ませるというのも「無理あるだろ...」と思ったら「自作自演でしたー」だったのはちょっと笑った。ダンガンロンパv3の某事件を思い出しちゃったよね。
最初はウザい探偵役だった月夜が、モリアーティも兼ねてたのが分かったあたりから超いいキャラになっていったのも良かったな。やっぱ魅力的な探偵に魅力的な犯人が必要ですよね。
あと綾辻行人褒め称えすぎやろと思ってたら、最後に麻耶雄嵩の神様ゲームも出てきて笑った。あんま文脈に沿ってない気もしたけど。
トリック自体がどうこう、考察してどうこう、というよりは一発ネタに近いエンタメ作品だったので、感想も短めに。話題になるだけの魅力のある作品でしたねぇ。