解体諸因(西澤保彦/講談社)
87.解体諸因(西澤保彦/講談社)
総評:★★★★☆
オススメ:魅力的なバラバラ殺人9作からなる連作短編集。パズラーが好きなあなたへ。
あらすじ(引用)
六つの箱に分けられた男。七つの首が順繰りにすげ替えられた連続殺人。エレベーターで16秒間に解体されたOL。34個に切り刻まれた主婦。トリックのかぎりを尽くした九つのバラバラ殺人事件にニューヒーロー・匠千暁が挑む傑作短編集。新本格推理に大きな衝撃を与えた西沢ミステリー、待望の文庫化第一弾。
よくもまぁ、バラバラ殺人のハウダニットとワイダニットを、こんなバラエティ豊かに作ったなぁ!という一冊。
いやこれ、すごい執念ですよ。全9編が全てバラバラ死体の出てくる事件。シチュエーションを考えるだけでも普通は行き詰まりそうなものを、よくこんなレパートリーで書けるなと。
そして全然気が付かなかったんだけど、これ、西澤保彦のデビュー作なんですね。まじかよ。文庫化に際して改稿されているのかもだけど、こんな最初から西澤節が確立されてるとは思わなかった。
ご本人が巻末の解説でも書いてる通り、ホワイダニットは大分馬鹿馬鹿しいものもあって、ちょっと間違えればギャグなんだけども、それでも本書が面白いのはやっぱり、きちんと「パズラー」してるからだろう。ミステリとしての出来の良さはやっぱり、納得ある伏線の張り方なんだなと良い勉強になった。西澤保彦すごいなぁ。
※以下、ネタバレあり感想
・解体迅速
連続するバラバラ殺人。犯人は捕まったが、容疑を否認している。手錠をかけた上で死体をバラバラにする理由は何か。真犯人は誰か。
西澤保彦の上手いところは、冒頭の関係なさそうな小話が最後に動機へつながるなど伏線になっているところ。本作の場合はもちろん「自動車事故」である。
バラバラ殺人にしたのは車で轢いて殺してしまったことを隠すため。また、手錠という共通項目によって、真犯人が被害者に偽装するため。
「バラバラにするには時間がかかるから、その途中で見つかってしまって諦めた」という状況を作り上げるための「バラバラ殺人」なのも面白い。ホワイダニットに意外性があって良かった。
・解体信条
彼氏がバラバラ殺人の容疑者になってしまった。真犯人は誰か。
自分を殺そうと画策していた被害者が、逆に誤って毒薬を飲んでしまい、自分の遺書を握りしめたまま死んでしまったので、指を切り離すために切り刻んだことをカモフラージュするため死体をバラバラにしたというのが真相。分かりにくいなこの説明。笑
犯人にとって不都合なものを握りしめていたためにバラバラにした、というのは割と良くあるホワイダニットだけど、そこに至るまでの経緯がややこしいので結構上手いこと真相が隠されてる良作。
・解体昇降
エレベーターに乗った女が、地上階に着く一瞬の間にバラバラ死体になり、あまつさえ死体の一部が階段に転移していた…。
事件としては一番派手で良かったな。ただまぁ、ホワイダニットとしては大分無理があるが。笑
真相は、乗ったのを見た時と降りたのを見た時は同じ日にちだと思われていたが、実は一日ずれていたというもの。これ、実際にはすぐ閏年のことばれちゃいそうよね。ポルノDVDのダビングのためだけに人を殺してバラバラにするかというと...うーん。笑
・解体譲渡
バラバラ殺人と、無関係そうに思われるヌードピンナップを買い漁る老婦人の話が意外な線から一つにまとまっていく話。
スケープゴートの男に「死体の入ったゴミ袋を捨てさせるため」、死体をばらばらにするとともにヌードピンナップを買い集めて部屋に貼りまくったというのが真相。
読んでる時はなるほどぉ!と思ったけど、こうやって読み返してみると、死体の入ったゴミ袋、ヌードピンナップくらいで誤魔化せる気がしないし、結構無理矢理な推理よなこれ。でも、一応「解体順路」で偽の解決だったのが分かるので、まぁ多少無理があっても良かったわけですが。
・解体守護
ぬいぐるみがバラバラにされる話。殺伐とした話ばかりの本作で唯一ほっこりするエピソード。
初潮で出血した沙貴ちゃんがハンカチを汚してしまったことを庇うため、ぬいぐるみが出血したと証言してバラバラにしたという真相。狂気的な事件に見せかけて真相は家族愛によるものというギャップも面白いし、冒頭から登場する「お赤飯」がきちんと伏線になっているのがめちゃくちゃ上手い。
・解体出途
バラバラにした死体を持ち去る現場を目撃してしまうが、果たして本当にそれは叔母だったのか?という話。
バラバラにする理由が「血まみれの部屋を印象付けることで、犯行現場がそこだったと誤認させること」というのが面白い。これはあんまりギャグっぽくないホワイダニット。
事件自体より叔母さんのキャラが強烈すぎて好き。西澤保彦は自分勝手なキャラの造形がクッソ上手いよなぁ。
・解体肖像
ポスターの顔だけが切り取られるが、さて誰が犯人なのかという話。
真相自体は、復讐を恐れた万里子の自作自演という、飛び抜けてびっくりするものではないが、ラスト、無邪気な語り手だった麻紀子と亜紀子にぴしゃりと言って終わる感じが西澤らしいというか、良いオチだったと思う。
・解体照応
劇中劇。部長刑事の性格が胸糞すぎて読むのがしんどかったやつ。笑 あと連続殺人が長すぎてちょっとダレたかな。本短編集の中で一番長いよね?4つくらいの事件で良かったと思うんですが。あと動機があまりにもあまりにもすぎる。笑
まぁでも、ラストに繋げるための前哨戦みたいな回なので仕方ないか。
・解体順路
正直、最後の2編(スライド殺人事件とこれ)はちょっと蛇足というか、結構読みにくいのだけど、でもこれまで、それこそ「バラバラ」だったバラバラ殺人が一つにまとまる「解体順路」は見せ場として欠かせなかったんだろうなぁ。短編集としてこういう趣向は好きなんだけど。
でもちょっと、「解体照応」の劇中劇を読ませることで殺人を操るっていうのは無理があった気はするかな...