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日々雑感(ミステリ感想中心)

密室殺人ゲーム王手飛車取り (歌野晶午/講談社文庫)

4.密室殺人ゲーム王手飛車取り (歌野晶午講談社文庫)

総評:★★★★★

オススメ:ゲーム感覚で色んなトリックを楽しみたい方へ

(何となく、ダンガンロンパとか好きな人には趣味に合ってると思う)

 あらすじ(引用)

〈頭狂人〉〈044APD〉〈aXe〉〈ザンギャ君〉〈伴道全教授〉。 

奇妙なニックネームの5人が、ネット上で殺人推理ゲームの出題をしあう。 

ただし、ここで語られる殺人はすべて、出題者の手で実行ずみの現実に起きた殺人なのである……。 

リアル殺人ゲームの行き着く先は!? 

 

歌野本格の粋を心して堪能せよ!

 

いや、これは本当に面白かった。6つ星つけたいくらい。個人的には大好き。ラストだけは賛否両論かもしれない。

『葉桜の季節に君を想うということ』が非常にインパクトがあったので、同作者の有名タイトルとして購入。てか、葉桜〜があんな綺麗なタイトルなのに、『密室殺人ゲーム  王手飛車取り』って酷すぎる笑  まぁ読み終わると意味はあるんだけども。

連作短編集で、1話ごとがあまり長くない上軽快な会話で話が進んでいくので非常に読みやすく、ミステリを読み慣れてない人でも楽しめるはず。

ただ、ゲーム感覚で実際に殺人を犯していき、そのトリックを推理し合う話なので肌の合う合わないはあるかもしれない。でもミステリ好きならその程度の設定に「不謹慎!」なんて怒らないと思う。むしろ、この設定のおかげでしちめんどくさい動機の推理が不要になるので、個人的には最高の設定だとすら感じる。長々と犯人の動機でページが埋まってるミステリ好きじゃないんだよね。

また、事件が終わった後で感想戦を行なうのも面白い。普通のミステリーだと犯人目線でトリックの出来不出来を話し合う展開はそうそう見られないので、ニヤニヤしながら読めると思う。

惜しいのは、1話目2話目があまり良い出来ではないので、そこで見限っちゃう人が出てきそうなところ...3話目が非常に良い出来なのでそこまで読んでもらいたい...

シリーズ物になっており現在三作品出ているが、続く第二作も傑作なので是非オススメしたい。

 

密室殺人ゲーム王手飛車取り (講談社文庫)

密室殺人ゲーム王手飛車取り (講談社文庫)

 

  

 

※ 以下、ネタバレ感想

 

 

 

 

 

 

 

 

フーダニット、ワイダニットを殆ど排除した作品で、なおかつ特殊な設定を活かしたミステリなのが新鮮で良い。実際に殺してきたから謎解いてみて〜なんて如何にもミステリにありそうな設定なのに、類似作品は見たことがない。もっと書いてほしいものである。

この作品の特殊な部分は、

①犯人は既に特定されている→アリバイ崩しがポイントになりやすい、最終話では逆にそれを使った「意外な犯人」のトリックにも使われる

②犯人自らが事件の手がかりを提供する→警察には分かり得ないヒント・謎による事件の解明がされる(新しい!)

③推理ゲームの体をとっているので、チャットメンバーが必ず真相に辿り着けるようにヒントが提示していること、推理が当たったかどうかが保証されている(クイズのために殺人を犯した犯人が出題するという形式によって、後期クイーン問題が解決されている)

らへんか。個人的には②が非常に面白い。特にシリーズ第2作では、これを活かしたトリックが見受けられ、普通のミステリとは頭の使い方が違っていて好印象。葉桜〜といい、歌野晶午は小説というスタイルを存分に活かしていると思う。

 

1話目はまぁ、うーん、ミッシングリンクってあんまり好きじゃなくて正直微妙。aXeのキャラは好き。話し振りがなんというか、お仲間っぽいなぁ(公務員の匂いがする)と思ったらやっぱりだった笑  推理でもなんでもないけど笑

2話目も微妙。というか箸休めだからね。時刻表トリック好きじゃないんだよなー、単なる知識問題になってしまうので。

3話目で盛り上がってきた感じ。ザンギャ君好きだわ、コミカライズとかしたら絶対人気出るよ、と思ったら、pixivにザンギャ君受けタグがあるらしい笑(感想をググってたら引っかかった)分かる気がする。

今見返すと3話目6話目は章タイトルも上手いんだよね。

4話目は、うーん、トリック自体はちょっとしょうもないけど、ラストの伏線になってるのでまぁアリかな?と思った。

5話目は、なかなか大掛かりなトリックかつそれまでに提示されていた044APDのキャラが活かされていて上手い。チャット形式の推理ゲームという本書だからこそのミステリー。

7話目は、いつも通りの推理ゲームと思いきや前述した「意外な犯人」を当てる趣向で、ここにきてフーダニットという構成の妙に唸る。頭狂人が女性というのは何となく察していて、工学に興味があってそっちへ進んだという文章がミスリードくさいこと、第1章で女子高生に難なく取材を申し込めたあたりから推測していた。ザンギャ君は気づかなかったけど。犯行が終わったところで044APDが兄ということも推測できた。

というか、私は暫く叙述トリック本ばかり読んでて、ちょっと趣向を変えようと思って本書を選んだのに結局叙述トリックだったことに笑った。まぁチャット形式だからそんな気はしてたけど。

また、6話目小休止の章タイトル「究極の犯人当てはこのあとすぐ!」というのが上手い。3話目の「生首に聞いてみる?」同様、トリックの肝を章タイトルでさらっと示している。

 

問題は最終話。

正直、第2作に繋げるに当たって、こんなオチが必要だったのか首を傾げてしまう。ネットの感想を見ていてもこの第1作の彼らは非常に評判が良く、頭狂人による訳のわからないゲームに巻き込まれあたふたする姿は見たくなかったというのが個人的な見解。クレイジーに人殺しをしていた彼らも頭狂人を殺すことはできず、結局一般人と変わりませんでした、というのは腑に落ちない。クールに事を対処して欲しかった。

 

一応2作目を読む前にこのゲームがどうオチたのか色々考えたが(推理はしてない)、爆発解除成功したと思った。何となく、頭狂人が明らかに出口のないゲームをするとは思えなかったので、わずかに助かる方法があったのではないかという希望的観測。(←ミステリ読みとは思えないまるで根拠のない推測)

うーん、2作目で一応真実は明らかになるが、私は今でも受け止めきれていない。