金雀枝荘の殺人(今邑彩/講談社)
85.金雀枝荘の殺人(今邑彩/講談社)
総評:★★★★★
オススメ:怪しげな館で起きる連続殺人。ドンデン返しが好きなあなたへ。
あらすじ(引用)
金雀枝(えにしだ)の花が満開に咲くころ、1年に1度、かれらがこの館を訪ねる。また、あの季節が巡ってきた……。完璧に封印された館で発見された、不条理極まる6人の死。過去にも多くの命を奪った「呪われた館」で繰り広げられる新たなる惨劇、そして戦慄の真相とは。息をもつかせぬ、恐怖と幻想の本格ミステリー。
自分は時折「バトロワ的なガンガン人が死ぬミステリが読みてえ〜〜〜!!!」という衝動に駆られる悪癖を持っています。多分ミステリ読みならよくある衝動だと思うんですが。
その点、本作は連続殺人×館モノ×サスペンスと三拍子揃った、まさに「今読みたいミステリ」という感じで最高の一冊だった。非常に優等生かつドキドキワクワクの展開で良き。
強いて言えば、フェアに手がかりを出しすぎてちょっと展開が読めちゃうとか、最後のまとめ方がやや強引だったみたいな部分はあるものの、良作の類ではなかろうか。
構成が少し捻ってあるのと、登場人物が多いので(でも関係ない人物の描写は極力省いていてその辺情報の取捨選択は上手い)、読むのにちょっと体力がいるかもだけど、後半1/4あたりからのゾクゾクする展開は見事。今邑彩はホラーの人のイメージ強かったんだけど、その強みが生かされている気がする。
ただ、まぁ(読めばすぐわかるんで書いちゃうけど)最後に序章に戻ってくる構成を以って、ネバーエンディングストーリーというのは言い過ぎでは。それ自体はよくある構成だし(コピーライトがよくないだけだけど)
いずれにしても、いろんなところでお勧めされてるのがよく分かる一冊でした。
※以下ネタバレあり感想
過去の大量虐殺事件を、現在の視点から推理し直すタイプの構成だと思っていたら、謎の霊能力者笠原は出てくるわ、意味ありげな闖入者瀬川も登場するわ、しかも笠原は殺されてしまうわ、後半の怒涛の展開には大いに驚いた。
冒頭述べた通り、「ガンガン人が死ぬ話読みてぇ!!!」タイプの読者的にはあまりにサービス精神たっぷりの作品でとてもよかった。予想以上に人が死ぬ驚きはリラ荘に似てるかもしれない。
また、「瀬川が犯人」と見せかけてからの乙彦が真犯人と発覚する流れは、実に華麗かつ伏線の回収の仕方も美しい。
色弱の話はミステリを読みなれたものなら、「遺伝的な障害→隠された血縁関係・取り替え子・養子」などの伏線だと見抜くだろうが、そこから弥三郎が全ての黒幕で、乙彦も操られていたにすぎなかったという更なるどんでん返しはちょっと予想がつかなかった。
「そんな上手く操れるだろうか、都合主義すぎないか」と思わないでもないけど手がかりの残し方がフェアなので個人的には許せる範囲。
また、最後の最後、プロローグに出て来た夫妻が誰だったのかをほのめかす粋な会話が入って終わるのも美しい。なんていうか、上品だ。
読み終わった後にエピローグに戻ると、エリザベートの見え方が変わっていることに気付かされるのも構成の妙を感じる。良い一冊だった。