水車館の殺人 <新装改訂版>(綾辻行人/講談社)
88.水車館の殺人 <新装改訂版>(綾辻行人/講談社)
総評:★★★★☆
オススメ:館モノ、連続殺人、怪しい仮面の主人と薄幸の美少女、そして探偵。本格ミステリのギミックが好きなあなたへ。
あらすじ(引用)
仮面の当主と孤独な美少女が住まう異形の館、水車館。一年前の嵐の夜を悪夢に変えた不可解な惨劇が、今年も繰り返されるのか?密室から消失した男の謎、そして幻想画家・藤沼一成の遺作「幻影群像」を巡る恐るべき秘密とは…!?本格ミステリの復権を高らかに謳った「館」シリーズ第二弾、全面改訂の決定版。
読みおわってから感想サイト回って知ったんだけど、迷路館の前に読むべきだったなー!直接繋がりはないけど、もし初めて手に取る人がいたら、普通に十角館→水車館→迷路館の順に読もうね。
綾辻行人にしてはすごい素直というか、適度に自分でも推理できたし驚きもあった。秀作という感じ。良い意味でフェアだし、ミステリ読み慣れてる人には普通に見抜かれるんじゃないかな。
でも文章もさっぱりしてて読みやすかった。
オチも好きだな。十角館よりケレン味はないけど、万人受けしそうな2作目という印象。オチのびっくり度や見取り図や設定から溢れるワクワク感は迷路館のが上だけど、舞台装置が如何にも「the本格ミステリ!」なのは水車館の方かな。
今のところの個人的な評価は
迷路館>>水車館>>>十角館
ってところ。
※以下ネタバレあり感想
まぁこれも叙述なんだろうなと思ってたけど、こんなストレートな入れ替わりとは思わなくて逆に予想外だった。
まぁでも、焼死体が出てきたところで「あ、正木生きてんな」とは思ったかな。百合恵と通じてるところまでは予想できなかったんで、完全な回答にはなってないんだけど。
あとよく言われてるけど、「なぜ殺したのか(ワイダニット)」がきちんとしてて好印象。
被害者と犯人まとめ
1985年(過去)
・根岸文江:塔から転落死
・古川恒仁:密室から失踪
・正木慎吾:古川を追ったのち、焼死体として発見
1986年(現在)
・野沢朋子:百合恵の部屋の前で絞殺
・三田村則之:百合恵の部屋で撲殺
いずれも正木慎吾(と共犯者の藤沼百合恵)によるもの。
正木は藤沼紀一を殺し自身が成り代わることを目的に、1985年に計画を実行した。即ち、本物の紀一を知る文江を殺し、古川を偽の犯人に仕立て上げると同時に、バラバラ死体にして密室から外に運び出して焼死体として葬り去った。本物の紀一は殺そうとしたのだが、すんでのところで隠し通路から逃げられてしまった。
翌年の1986年は、偽装のために指を切り落としたことをきっかけに、入れ替わりに気付きそうになった三田村を殺害。「歩けないはずの紀一が立っている」ところを見られたため、野沢も殺害。
まぁ正直、百合恵が共犯だったとはいえ「こんな簡単に入れ替われるのか?」というのと、焼死体の偽装ってさすがに警察が調べたらバレそうなもんなんだけど、その辺は野暮だろうか。
あと、ちゃんと過去編は三人称、現在編は紀一の一人称にして、うまいこと入れ替わりを隠してるのは見事。読み返すとちゃんとフェアな叙述になってんのね。
個人的には、あんなに神秘的で現世離れした美少女の百合恵ちゃんが、1985年の時点で紀一をあっさり裏切った上、1年後の1986年には三田村にしれっと乗り換えてるとこが印象ガラッと変わって面白かったな。
1986年の「紀一(=正木)」が百合恵の不貞や裏切りをすぐに疑うのは、一回自分に裏切らせてるからだよね。
脅迫状の存在を色盲で気づけなかったと言うのは、一応紀一と正木の入れ替わりに対する伏線の一つなんだろうけど、でもちょっと色盲とはいえ気づかないかな?どうなんかな?とは思いました。ギミックの一つなんだろうけど。
オチもちょっとホラーみというか不気味な余韻があって上手いよね。好きな感じでした。
次は時計館を読もうと思います!