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日々雑感(ミステリ感想中心)

迷路館の殺人<新装改訂版>(綾辻 行人/講談社)

69.迷路館の殺人<新装改訂版>(綾辻 行人/講談社

総評:★★★★☆

オススメ:見取り図、怪しい館、連続殺人、作中作ーーミステリファンの「これ好き!」が詰まった一作。

あらすじ(引用)

奇妙奇天烈な地下の館、迷路館。招かれた四人の作家たちは莫大な“賞金”をかけて、この館を舞台にした推理小説の競作を始めるが、それは恐るべき連続殺人劇の開幕でもあった。周到な企みと徹底的な遊び心でミステリファンを驚喜させたシリーズ第三作、待望の新装改訂版。初期「新本格」を象徴する傑作。

 

いや〜〜〜悔しい!!!
何が悔しいって、根幹のトリックには気づけたんだよ!でもあと一歩足りなくてグギギってなったあと、最後の最後に「あぁ〜お前か〜〜〜!」ってなったのが本当に悔しい。ぐぅ...

正直私レベルの浅いミステリ読みがこのように推理できてしまうので、多分、「最近のミステリをそこそこ読んでいる人」なら真相に肉薄できる…かもしれない。

でもそれはこの本のミステリ難易度が低いのではなく、本書が非常に良くできているために類似作品がいっぱい出てきてしまったのだろうと。綾辻御大はさすがの影響力ですなぁ。

やっぱりミステリは先駆けたもの勝ちという。

 

ていうか、今更こんな往年の名作を履修することに少々の気恥ずかしさがありますね...(孤島パズルもそうだけど)

 

あと、館の地図が出てきたときはめっちゃ興奮した!見てこれ!!酷い見取り図でしょ?!笑(褒めてる)

 

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見た瞬間爆笑した迷路館見取り図

 

館での連続殺人、密室、ダイイングメッセージ、作中作...こういう「ミステリ読みのためのミステリ」的な構成や道具が最高にワクワクするよね。すごい面白かったなぁ。

個人的には十角館より好き。綾辻苦手だったけどちょっと好感度が上がった。

 

迷路館はあまりに評判が良かったので、十角館の次にこれを読んでしまったけど、水車館もきちんと履修しようと思います。

 

 

 

 

※以下ネタバレあり感想

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鮫島の性別誤認と鹿谷のアナグラムは気付いたんだよ!!!いやまじで。

鹿谷のアナグラムはまぁよくある手法というか、泡坂妻夫先生もPNは本名のアナグラムという話を聞いたことがあったので。でも島田本人が読んでるしエピローグで鹿谷と会食もしてるし「???」ってなってたら、まさかの島田兄とは...笑

なんだよそれ!!!ずるい!(ミステリへの最高の誉め言葉)

思いっきり騙されたなぁ...ここは気持ちよく引っかかってしまったので、素直に脱帽。

 

鮫島の性別誤認も今ではありふれた叙述トリックなので、

瘦身中背。短くした髪に彫りの深い知的な顔立ち。白いスーツでも着こなせば、若い頃は"美青年"で通用しただろうなと思わせる。

でわざわざ「美青年」に引用符をつけてるのが怪しいな〜とか、そう思って読んでみると

鮫嶋智生は、非常に手堅い仕事をコンスタントに続けている文芸評論家で、今日集まった五人の中では最も宮垣の信頼を得ている、というのが宇多山の見解だった。二人でこの館にこもり、ミステリ談義に明け暮れて一夏を過ごしたという逸話もある。
(中略)
それまでは、都内の高校で数学の教師をしていたという。

もかなり怪しい。

二人でこの館にこもり:男性か女性かで意味合いが変わってくるが、ミスリードくさい
数学の教師:理系=男性、という古典的な性別誤認誘導
喫煙描写:女性はタバコ吸わないという、同じく古典的な性別誤認誘導
人妻である桂子の部屋に訪れる:女性だからこそ、宇田島もとくに気にした様子がなかった

という散々見てきた叙述のやり方なので、注意してみていくと鮫島だけは「彼」という言い方は一切してなくて「評論家」って書き方に固執してるんだよね。

 

そんで、「あーこりゃもう性別誤認、役満ですわ(ドヤ顔)」みたいな感じで読んでたんだけど、「...で、誤認させる意味はなんだ?」でつまづきまして。

 

「鹿谷=女性」みたいな匂わせがあれば、そこでどんでん返しかな〜とも思ったんだけど、鹿谷はどうも島田のアナグラムみたいだし、なんかそういう引っ掛けでもなさそうだし、???と思ってたらまさかの真犯人で、直球だな?!っていう。笑

 

ただまぁ、いろんなとこで言われてる通りトリックや犯人の絞り込みはちょっと微妙かな。

①密室トリック:全部秘密の通り穴がありました←いやいやいや、それでいいのか?!笑 親指シフトの「かがみ」は気付いたけど、ミステリとしての難易度は低いというか、うーん。

②首切り死体の理由:生理の血を隠すためでした←いや〜これも散々言われてるけど、妊婦の不正出血の方がありそうだし、作中ではともかく、実際は現場検証でバレないか??

特に②は本書の最大の見せ場、性別誤認にも関わるポイントなんだし、もうちょいうまいこと調理してもよかった気はするよね。

 

とはいえ、冒頭でも述べた通り叙述の先駆けだったことを考えれば、試行錯誤していて面白いのかもしれない。うん。後続の人たちが真似るのも分かる。

あと、トリック自体より雰囲気づくりがとにかくよかったので、そういう意味でも個人的には好き。

作中作の立て付けも非常に凝ってるし、「史上最大の懸賞小説」とか、館からみんなが帰れなくなる理由とか、ミステリ作家が次々見立てに乗っ取って死んでいくとか、いや〜ワクワクしたね!水車館も面白いといいなぁ。