好きなものだけ食べて生きる

日々雑感(ミステリ感想中心)

メルカトル悪人狩り(麻耶雄嵩/講談社)

75.メルカトル悪人狩り麻耶雄嵩講談社

総評:★★★★★

オススメ:期待を裏切らないメルシリーズ最新作。シリーズ未読でも読めるので、「なんじゃこりゃ」なミステリを読みたい方にはオススメです。短編集。

 

あらすじ(引用)

悪徳銘探偵メルカトル鮎に持ち込まれた「命を狙われているかもしれない」という有名作家からの調査依頼。“殺人へのカウントダウン”を匂わせるように毎日届く謎のトランプが意味するものとは? 助手の作家、美袋三条との推理が冴えわたる「メルカトル・ナイト」をはじめ、不可解な殺人事件を独自の論理で切り崩す「メルカトル式捜査法」など、驚愕の結末が待ち受ける傑作短篇集!

 

あらすじの「悪徳銘探偵メルカトル鮎はひどい。笑 いや、間違っちゃいないけど。

 

みんな大好きメルカトル鮎シリーズ最新作。いやぁ待ちどおしかった!勤務時間中に電書で買って、すぐ読み終えちゃったくらい。

麻耶はほんと短編上手いなーと思ったんだけど、今回の作品集は実質、「さよなら神様」ですね。

前作の「メルカトルかく語りき」があまりにとんでもない怪作だったんで、次回作はなかなかハードル高いなぁと思ってたけど、こう来たか...という。

個人的には「かく語りき」の方が破壊力凄まじくて好きだけど、アンチミステリの毒が強すぎて「苦手な人には壁本だろうなー」と思われるのに対して、今回の悪人狩りは一般受けしそうというか、もうちょっと勧めやすいというか。笑

 

どうなのかな、自分が麻耶作品に盲目すぎて高評価つけてるのかもしれんのだけど、メルシリーズに求めてる「異様なミステリ」をきちんと詰め込んでくれてて個人的には好きでしたね。

 

本作が一番近いのは神様シリーズだけど、「危ないおじさん」とか「化石少女」でやりたかったこともこれの延長線にあるのかなーと思った。

自分はメタフィクションや常識破壊系、異様な構成で書かれた小説が好きなので、メルシリーズみたいな挑戦的な作品は本当に好きですね。面白いなぁ、こんな文法のミステリ、ほかにあるのかな。

 

あと出典見て気づいたけど、1997年の作品とかもやっと収録したのね。2020-2021年の作品と並べても遜色ないのはさすが。

 

参考リンク

zakkan0714.hatenablog.com

zakkan0714.hatenablog.com

 

 

 

 

 

 


※以下、ネタバレあり感想

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「メルカトル式捜査法」が最たるものだけど、「囁くもの」「天女五衰」なんかでもやらかしてる通り、メルの行動がミステリ文法における因果律を作り出していて、そのうち1ページ目冒頭から犯人言い当てたりしちゃうんじゃないかと思った(神様シリーズじゃん)。

「バレンタイン昔語り」のウルトラC級のカタルシスには及ばないけど、メルなら何やっても「まぁ"銘"探偵だしな...」で納得させられる迫力があるのがすごい。笑

 

ほか、「愛護精神」「名探偵の自筆調書」は雑誌に単発掲載されたもののようで長らく入手が非常に困難で、ググってみると色んな人が「図書館で写本して読んだ...」などと苦労の跡を残していた。

今度出る予定の「夏と冬の奏鳴曲」の新装版といい、こうやって出し直してもらえるのはにわかファンにとって大変ありがたい限り。

 

以下、感想というか箇条書きのメモなど。

 

「愛護精神」1997/9初出

・「琢磨を埋めてるんです」の出だしがやばい。麻耶は掴み上手いよな...

・「人を殺すのは結構だが、そのために犬を殺すのが気にいらなかっただけだよ」

メルの倫理観のなさ好き。

あと美袋くんへの扱いの酷さが「メルカトルと美袋のための殺人」収録の「彷徨える美袋」を思い出す。1997年発出なだけあって、初期メルみがある。

・オチも好き。

「危惧したとおり聡子逮捕の報は入ってこない。」

解決してねーじゃん。笑

 

「水曜日と金曜日が嫌い」2017/9初出

・「7人の名探偵」に収録されてた短編。これだけは既読。

(参考リンク:7人の名探偵 新本格30周年記念アンソロジー (綾辻行人 他4名/講談社ノベルス) - 好きなものだけ食べて生きる

・本来なら長編ミステリになりそうな題材・舞台であっても短編に収めて解決してしまうメルの活躍ぶりにニヤニヤする話。

・「ブラとケットは仲良しこよし。ブラとケットでブラケット♪」
かわいい。
※元ネタよく知らんかったので調べました。カバトットというタツノコプロのアニメーションだそうで。

www.youtube.com

・さりげなく美袋邸が全焼してるオチも好き。ひどすぎる。

 

「不要不急」2021/3初出

・コロナをネタに小噺書いてくるとは思わなかった。不要不急な殺人事件の解決より五重塔の完成を優先するメルが最高ですね。

 

「名探偵の自筆調書」1997/8初出

・これも小噺。調べたら有栖川とかも出てきたし、同タイトルでいろんな探偵の話をやってたのかな?経緯がよく分からん(これは「名探偵の自筆調書 其の六」だそうです)

ツイッターで色々掘ってみたら、これ「美袋三条」名義で書かれた作品で、かつおそらく「翼ある闇」の前日譚(?)として書かれてるんですね...

ミステリ的に云々より、メルと美袋の関係性オタ的にはなかなか......燃料だな......まぁわたしは翼ある闇の世界線とそれ以外のメルシリーズは別物と理解してますが...

・「なに。君も私が殺したがっているように思えたからさ」

これ日本語がよく理解できなかったんだけど、「君も私を殺したがってる」で合ってる?美袋がメルに殺意を抱いてるのに感づいてるって意味かね。

 

「囁くもの」2011初出

・これめっちゃ好き。

・事件の顛末自体は単純なアリバイ偽装もので、(真相や依頼主に降りかかる悲劇的な結末は麻耶らしいなと思うけど)まぁまぁ小品というところ。

しかし、メルの些細な気まぐれがーーそれも、普段らしからぬ行動によってーーアリバイを絞り込むのに大きく役に立ち、結果としてスピード解決につながる。

 

「私は銘探偵故に常に囁かれているんだよ。それは神かもしれないし、他の理外のものかもしれない」 メルカトルとは思えない、地の底から響くような深く落ち着いた声だった。

 

探偵とは、ただ事件を解決するだけではなく、(読者にフェアな形で犯人を1人に絞り込むことができるように条件を整える行動を取り)その因果律をも設定する存在...なのだろうか?ミステリに対するメタ的な解釈がすごく好き。

これをさらに煎じつめたのが、後述の「天女五衰」「メルカトル式捜査法」なんですが。

 

「メルカトル・ナイト」2019初出

・これもめっちゃ好き。

・「囁くもの」に比べると超人的な動き方というよりは、探偵が実は黒幕でした的なオチなので、普通にミステリの枠内に収めながら秀作というか。
・言うまでもなく、タイトルが「ナイト(夜)」と「ナイト(騎士)」のダブルミーニングであることがラスト二行で分かる仕掛け。

 

「天女五衰」2019初出
めっちゃ好き。

・冒頭、美袋が偶然みてしまった「天女」が最後の解決にきちんと収束する構成も綺麗。「メルカトルと美袋のための殺人」収録の「遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる」を思い出す。

・「囁くもの」はまだアリバイの絞り込みに「偶然」役立っただけで、メルの行動がなかったにしても事件の解決を見た可能性があるが、「天女五衰」はラストに美袋が指摘している通り、メルの異常な行動が引き金となって事件が発生している。ある種これも後期クイーン問題か。ていうか、ほぼ「神様」ですわね。

 

「...里沙はともかく、牧の死に関しては君の行動がすべての原因じゃないのか」
しかしメルは歩みを止めることなく心外そうに片眉を上げると、
「... そもそも私は探偵だよ。そんな神様みたいな芸当ができるわけないじゃないか」

 

「メルカトル式捜査法」2020初出

・「メルカトルかく語りき」でも、異様な解決を見る短編を積み上げていくことで、「答えのない絵本」「密室荘」のようなアンチミステリ作品へと徐々に読者を誘った麻耶雄嵩だが、本作品でも「囁くもの」〜「天女五衰」を経ての「メルカトル式捜査法」は実にお見事。

なんじゃこりゃですよ。大好き。

・解説するのも無粋なんだけど、まぁ一応。ほんと、読んでもらうしかこの凄さは伝わらないと思うんですが。

一般的には、探偵は、客観的に事件を傍観するものとして無秩序な手がかりを拾い集めて真相を組み立てていくが、「メルカトル式捜査法」では、銘探偵の行動一つ一つには何らかの意味(必然性)がある」という異常な前提のもとで事件の犯人を特定する

「囁くもの」でも書いたが、これはミステリをメタ目線で描いた異様な構成の作品であろう。


フェアなミステリにおいては、「真相を見抜くために、必要な手がかりは全て作中において描写され、また手がかりは必要十分なだけ示される」、裏を貸せば「描写されなかった現場状況(また発生しなかった事象)は事件の真相に資さない」という大前提がある。


何故、今回に限ってメルは普段し得ないミスをしたのか。それは、ミスも必然であって、すべて事件を解く手掛かりに資するから。

この論理は現実のカオスな世界では成り立たない。しかし、「メルの存在する世界がミステリ小説の論理で構築され、またメル自身が「銘探偵」である」という前提のもとでは成立する......と言っている。


何じゃこりゃなんだけど、この因果律を超越したロジックが展開されるの、すごい脳味噌灼かれる快感があって最高にシャブい。

神様シリーズと似てるって冒頭書いたけど、あれともまた違う切り口で新しいミステリを作り上げてくれて、本当にすごい(語彙の喪失)。

 


「囁くもの」以降がまぁとんでもなくて最&高なんだけど、それ以外がダメかと言うと全くそんなことはなくて、メルの嫌味ったらしさや人を食った言動がビシバシ感じられて、メル&美袋シリーズのファンとしては最初から最後まで満足感たっぷりの最新刊でしたね。

叙述トリックみたいなあざといことしてないのに、麻耶はなんでこんな異様なミステリが書けるんだろうね...


発売日当日に絶対感想載せよう!と思って勢いで書いたけど、そのうち改訂するかも。