彼女が死んだ夜(西澤保彦/幻冬舎)
52.彼女が死んだ夜(西澤保彦/幻冬舎)
総評:★★★★★
オススメ:どんでん返し系ミステリといえば。読みやすく明解ながらもトリック難易度は高いので、万人にオススメです。
あらすじ(引用)
門限六時。家が厳しい女子大生ハコちゃんはやっとアメリカ行きの許しを得た。出発前日、親の外出をいいことに同級生が開いた壮行会から深夜帰ると部屋に女の死体が!夜遊びがバレこれで渡米もふいだと焦った彼女は自分に気があるガンタに遺棄を強要する。翌日発見された遺体は身元不明。別の同級生も失踪して大事件に。匠千暁、最初の事件。
西澤やっぱミステリうまいな〜〜〜〜〜???
どんでん返し系ミステリだったか、どっかでオススメされて積んでいた一冊。
本作はタック&タカチシリーズの時系列的には1話目に当たる。
自分はこのシリーズをきちんと追ってないので(2話目の麦酒の冒険だけは10年くらい前に読んだくらい)、その辺何ともコメントできないが、少なくとも「シリーズもの特有の臭さ・メタ推理」は一切ないので、いきなりここから読んで大丈夫。
個人的な好みなんだけど、シリーズものってあまり好きじゃないんですよね...(※1)
どうも一見さんお断り感があって...あと探偵役・ワトソン役が死なない&犯人にならない故に緊張感がなかったり、謎に絡まない変な恋愛模様が繰り広げられるのが性に合わない。
(※1ただし麻耶を除く)
その点、少なくとも本作はそういうのがあまりなくて非常によい。
なんならいきなり、本作探偵役ポジションが犯罪の片棒担いでしまうので。いいぞーもっとやれ。
とにかく序盤から非常にテンポがよく、ぐいぐい謎に引き込まれていくところが、さすが西澤節といったところ。ボリュームも短めなので、ご一読いただきたい。
あ、でも「こんなん真相推理できんの?」みたいなところはちょっとキズかな?ミステリ好きなら気付くのかな...アンフェアではないけど、発想にいささか飛躍が必要かもしれない。
なお、電子書籍版で購入すると解説がついていないので注意。法月先生の解説とか読みたかったぞ...
※以下ネタバレあり感想
「彼女の死んだ夜」の彼女とは、実はハコちゃんだったのでした。というのが大ネタ。
いや〜〜〜上手いし美しい。
一番最初の視点人物であり、その後も渦中の人であり続けたハコちゃんこそが「身元不明」の死体だったとは。これこそ盲点というやつ。
だってこれ、金田一やコナンじゃ絶対できないトリックだし。笑
警察から死体の写真を見せてもらったが最後、完全にカラクリが判明してしまうので。
いうまでもなく、警察が認識している「真の死体」と、タック・ボアン先輩が認識している「ハコちゃん宅に突然現れた死体」が実は異なっていたというところがミソ。こんな前提中の前提が崩れるなんて思い至らないよね...
それにしても、西澤が描くとどのキャラも可愛くコミカルに見えてしまうけど、真相はなかなかえぐい事件だ。
宮下と高飛びする予定のハコちゃんは、死体の処理要員にちょうどよかったガンタを、全く気がないくせに誘惑して手伝わせる。
ここ、酷いなぁと思うのはほんとは宮下呼び出したっていいと思うんだよね。死体片付けたあと呼び出してるし。でも「汚れ役」はどうでもいいガンタに押し付けた...
ハコちゃんが宮下と高飛び予定だと知って、逆上したガンタは思わずハコちゃんと宮下を殴り殺す。
「いつも僕ばっかり除け者なんです」がここで伏線として生きてくるとは。上手い...!!!
逆上したと一言で書いたけど、ここのガンタの心の機微はめちゃくちゃつらい。ガンタ氏、自殺するっていうのにポアン先輩やタックに気を使ってるし、一番の被害者って感じだ...
しかし宮下は実は死んでおらず、これ幸いにと別の死体をでっち上げ、自分の身代わりとして現場に遺棄しドロンしたのだった。
山田一郎のキャラクターも良いよね。最初はボアン先輩とタックを理由も告げずに暴行するヤクザかと思ったら、最後の最後で宮下を追い詰めるのに一役買っている。
山田に限らず、ハコちゃんや宮下、ルミさんなど、表の顔と裏の顔というか同じ人物なのに印象が二転三転していくのが非常に面白い。
ストーリー構成といいキャラの描き方といい、隙なく作られた傑作だった。西澤また読もう。