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日々雑感(ミステリ感想中心)

新装版 46番目の密室(有栖川 有栖/講談社)

73.新装版 46番目の密室(有栖川 有栖/講談社

総評:★★★★☆

オススメ:作家アリス一作目。正統派の本格ミステリを読みたい方へ。

 あらすじ(引用)

日本のディクスン・カーと称され、45に及ぶ密室トリックを発表してきた推理小説の大家、真壁聖一。クリスマス、北軽井沢にある彼の別荘に招待された客たちは、作家の無残な姿を目の当たりにする。彼は自らの46番目のトリックで殺されたのかー。有栖川作品の中核を成す傑作「火村シリーズ」第一作を新装化。


密室を愛し、密室を憎む、すべての人々に──

 

有栖川先生はロマンティストだなぁ。

冒頭の献辞が最高に気取ってんなぁという感じなんだけど、まぁそもそも作者名でワトソン役やらせてるくらいの人だからな...(法月先生もそうだけど、普通に小っ恥ずかしいよね...ミステリとして、作品に相当の自信がなかったら出来ないですぞ)

※以下、作中の「有栖川有栖」と区別するため、著者の方は「有栖川先生」と表記。

 

密室の大家が密室で殺されるという何とも皮肉な構図を描いた一作で、どちらかというと謎解き部分より道中が非常に魅力的な作品。

以下作者あとがき引用。

 

率直に言って、本作のトリックは〈輝ける密室トリック第一号〉という出来のものではない。読者のこれまでの密室トリック体験のどこかしらに落ち着くものだ。ただ、私は〈未在の輝ける密室トリック〉という幻想を伝えたかった

 

ミステリクラスタなら否応なく興奮する題材の一つ、密室。数々の書き手がそのバリエーションを模索しながらも、結局は物語のラストに密室は開かれ「幻想」は霧散していく。

本作はその幻想を限りなく追い求め、そしてまた数ある密室ミステリと同様に暴かれはするものの、ほんの少し夢のある余韻を残していく。

 

まぁこれ、このラストが書きたかったんだろうな。ミステリとしての出来自体は、びっくりするほど良いわけじゃないんだけど、密室幻想を追い求める姿勢がすごく好きなので星4。

 

しかし、学生アリスもキャラ小説としては次第にうーんってなっていったんだけど、作家アリスはさらにnot for me感が......そもそもホムワト固定ものはなぁ......まぁ...気が向いたらシリーズ攻めていこうと思います。

 

 

 

 

※以下ネタバレあり感想

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんといっても、

ミステリ小説の大家が手掛けた最後の密室トリックを使って、構想した本人が殺されたのかもしれないーー

という構図がもうね、ロマン溢れますよ。しかも、結局その「究極の密室トリック」は燃やされ、犯人たる石町の頭にしかもう残っていないという。

 

「あれはすごかった。俺は人を二人も殺した直後だということを忘れて、そのトリックに酔ったよ。これまで読んできた密室トリックとまったく違って……まるで世界が、世界を守るためによってたかって一人の人間を抹殺するかのようなものなんだ。〈世界自身〉という表現があった」

 

どんなトリックやねん!!!笑

 

しかしネタバレなし感想にも書いた通り、密室の魅力は、まさにそのトリックが暴かれ「密室がこじ開けられた瞬間」、ゆめまぼろしと消えてしまう。マジックのタネを明かされた時のように、「なぁんだ」で終わってしまう。

有栖川先生は密室を密室のまま、夢幻をそのままに作品の幕を引いたのだ。

 

まぁーー正直なところ、密室を密室のまま閉じ込めた作品は某ミステリの極北作家(敬愛なる麻耶雄嵩先生)でも見たことがあり、しかも彼の場合容赦のないアンチミステリで読者を殴り殺しに来ているため、ぶっちゃけインパクトではそっちの方が優っている。

有栖川先生はね〜〜〜良い意味でも悪い意味でも、フェアプレイ・秀才・お行儀のいい作品、といった感じで…勿論面白いしやっぱり名作を書く人は違うなと思うんだけど……まぁ自分は結局ミステリの場外乱闘が好きな人なので...(悪趣味)

 

今作は、有栖川先生のあとがきが三つも付いているのがまたお得感があってよかった(電子書籍版なので、残念ながら綾辻先生の解説は読めなかったけど…)
先生はメタミステリ、というか言葉遊び的なミステリはお嫌いなんですね。笑

以下あとがきより引用。

 

推理小説の極北のテーマは「私は探偵であり、犯人であり……」などというお遊びではなく、「最後の密室」を描き切り、推理小説の誕生以来、ぬけぬけと生きのび続けてきたそいつの正体を、白日の下に晒して見せることではないのか?

 

いや〜カッコ良すぎん?

使えるトリックが枯渇しているといわれている現代の本格ミステリで、叙述トリックをばっさりぶった切って、こういうこと言えちゃうのは、自分には相当眩しいものがありますね。誇り高きミステリ作家だぁ…