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日々雑感(ミステリ感想中心)

アリス殺し(小林泰三/東京創元社)

74.アリス殺し(小林泰三東京創元社

総評:★★★☆☆

オススメ:グロ耐性があり、メルヘンチックな不思議の世界のミステリを読みたい方へ。文体の相性が合えば、ほかに類を見ないタイプのびっくりを経験できるでしょう。

 

あらすじ(引用)

“不思議の国”の住人たちが、殺されていく。どれだけ注意深く読んでも、この真相は見抜けない。10万部突破『大きな森の小さな密室』の鬼才が放つ現実と悪夢を往還する“アリス”の奇怪な冒険譚。


非常に高評価だったのでいつか読もうと積んでいた作品。作者が最近逝去されたのもあり、ようやく手に取った。

蓋を開けてみると、やや肩透かしというか、うーん、好き嫌いが分かれそうというか...

 

個人的には、文体が稚拙で、読むのに支障があるレベルだったのであまり好きではない。トリックは実際斬新で面白いけど、でもなぁ...

文の好き嫌いは人それぞれだと思うので、個人的に読みにくいと思った点もちゃんと挙げておこうと思う。以下の3つ。

①地の文がほとんどない

カギカッコで繋げた会話文が作品の7割くらい占めるんじゃないかな。

個人的には、場の状況説明が挟まってくれた方が読みやすいし、想像もしやすい。3人以上話者がいると誰が喋ってるのか混沌としてくる。しかもあんまり会話劇が上手くない...
とはいえ、ある程度は作者の狙ったものでもあると思う。特に原作アリスを彷彿とさせる「まどろっこしくてイライラする会話の応酬」にはなっていた(そこが好きでない人にはさらに読むのがつらくなると思う)。

②グロ表現がくどい

しかもあんまりグロみを感じない。なんでだろうなぁ…

感想サイトもいくつか見て回ったところ、「表現が無機質」というコメントを散見した。無機質な怖さもあると思うが、自分はあまり...むしろギャグっぽく見えてしまってダメだった。
あとくどい。ミステリとして必要な描写ならともかく、不必要に入れてくる。

③描写が稚拙

叫び声や語彙がださい。

地の文が少ないせいだとも思うけど、「ぐぉぉ」みたいに叫び声をそのまま書くより「悲痛な金切声が響いた」とか描写した方が雰囲気壊れないと思うんだけどなぁ。

 

文章を別問題とすれば全体的に、アリスネタと西澤保彦綾辻行人を足して3で割ったようなミステリといった印象(伏字は国内作家名ですが、念のためのネタバレ避けです)。

でも、ミステリでは散々使い古されているアリスネタなので、なんか一捻りないとインパクトには欠けるかな。個人的には、最近だと「アリス・ワンダー・キラー」がすごく良かった印象が強くてそれに勝てなかったし...大本命のトリック部分ももっと見せ方あった気がする...。
積極的に読むのを勧める感じの一冊ではないかな...という感じ。

 

参考(以前のレビュー):

zakkan0714.hatenablog.com

 

 


※以下、ネタバレあり感想

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


まぁ、言ってみれば十角館ですよね、という。

(十角館は至る所でネタバレされるから読んでおこうね!)

 

アバター(アーヴァタール)が地球世界における誰に該当するのか?というフーダニットがメインのネタになっているところ、

・広山准教授が公爵夫人ではなくメアリーアンだったこと

・白うさぎがアリスとメアリーアンを混同していること

 (+亜理をメアリーアンだと思っていること)

が絡み合いながら、大オチは亜理が眠りネズミであったというどんでん返し。

 

本作品がこれほど高評価を得ているのも、一重に上記のウルトラC叙述トリック部分について、かなりフェアな形で伏線が張られまくっている点だろう。

 

特に「亜理=眠りネズミ 」については、冒頭一瞬しか出てこなかった眠りネズミ、突然挿入されるハム美のエピソードと、かなり不自然な形で伏線になっていたので気づけなかったのは少々悔しい。

 

とはいえ、関係者全員がこんな近場に集まってるって何...???と思わなくもないし(地球側が夢なので、まぁご都合主義でもいいのだろうが)、知性のないハムスターを持ってきて「ハム美=アリス」に気づかせるのはかなり無理がある気はする。

まぁあとは、地球とアリス世界の主従が逆だった(地球が夢だった)というのも、面白いといえば面白いんだけど、SF超えてファンタジーのような話なのでなんというか...「そうですか……」で終わってしまったなぁ...ここをカタルシスとして描けるといいんだろうけどね。うーん。

 

広山准教授のパワハラシーンとかメアリーアンの犯行の様子とか、普通に面白くなさすぎて読み飛ばししちゃったしな。やっぱり相性が良くなかったのかもしれん。

一応、シリーズ後続が出てるみたいだけどちょっと読まないかも。でもどうやってシリーズ化してるんだろう…