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日々雑感(ミステリ感想中心)

『アリス・ミラー城』殺人事件 城シリーズ (北山猛邦/講談社文庫)

23.『アリス・ミラー城』殺人事件 城シリーズ (北山猛邦講談社文庫)

総評:★★★☆☆

オススメ:クローズドサークルものと魅力的な探偵たちに心惹かれるあなたへ。

 

あらすじ(引用)

鏡の向こうに足を踏み入れた途端、チェス盤のような空間に入り込むー『鏡の国のアリス』の世界を思わせる「アリス・ミラー城」。ここに集まった探偵たちが、チェスの駒のように次々と殺されていく。誰が、なぜ、どうやって?全てが信じられなくなる恐怖を超えられるのは…。古典名作に挑むミステリ。

 

 

先に書いておくと、私はこの作品ダメだった。

というか期待しすぎたのかもなぁ。ネットの評判は上々だったし、導入〜序盤がもうミステリ好きにはたまらん魅力的な設定盛り沢山なんだよね。

登場人物が全員探偵で、しかもキャラが立ちまくってる。私は観月が割と好みだったかな。山根もなかなかいいキャラしてた。でもその魅力的な探偵たちがバッサバッサと殺されていくのが、もうクローズドサークルの良さ満点という感じ。これぞミステリー。というか序盤だけじゃなくて最後までドキドキハラハラな展開なので、オチ以外はめちゃめちゃ好み。

ダメだったのはこの作品の肝とも言える、「意外な犯人」についてだけ。「盛り上げといてこのオチかよ、許せん」感は『十角館の殺人』以来だった(『十角館の殺人』を非難したいのではなく、割と好みが分かれるよねって言いたいだけです)。

私、麻耶雄嵩が好きなので分かってほしいんだけど、アンフェア自体は別に構わないんだよね。アンフェアというかミステリの枠から外れそうなミステリは大好物。でもな~~~、ごめん、この作品はちょっと粗が多すぎた。他の部分が魅力的なだけに脱力。

 

あと、玄人好みの作品ではあると思う。特に序盤のミステリに関する蘊蓄が私は非常に面白かったんだけど、ミステリ普段読まない人はポカーンって感じでしょ。物理トリックが最早持て囃されないとかさ。まぁ実際私がレビューしてる作品の中でもまともな物理トリックで感心したのって『密室殺人ゲーム』シリーズだけだと思うし、 物理トリックって説明されても今や驚きがあんまりないんだよね。

 

ただ、この辺の蘊蓄でさらにこの作品のオチについてハードル上がっちゃったから、余計にあの犯人どうなの...ってなっちゃったわ...

まぁ逆にいうと、まず間違いなく犯人は当てられない。究極のフーダニット。ある種アンフェアの限界にチャレンジした作品なので、一読の価値はあるかと思う。

 

『アリス・ミラー城』殺人事件 (講談社文庫)

『アリス・ミラー城』殺人事件 (講談社文庫)

 

 

 

※  以下、ネタバレ感想

 

 

 

 

 

 

終盤まで、何でこの作品が叙述トリックでオススメされてたのか全く分からなかったけど、最後の最後で「それかよ...」って脱力した。

実は今まで殆ど描写されてなかった人物が犯人でした、って、もうね。色々突っ込みたいよね。まぁでも凄いのは、このアイディア、小学生でも思いつきそうなほど単純だけど、そこに物理トリックやら面白い展開やらを挟むことでなんとか長編一本に仕立て上げたところだよ。普通思いついてもこんな形に消化できないって。

まぁでも長々読んできて、作中1シーンしか叙述のない「アリス」が犯人でした、はないわ〜...

この叙述トリックについてはネットの感想調べれば散々粗が指摘されているのでわざわざ書くほどじゃないけど、一応アンフェア感の強い理由をあげると以下の3点。

 

①「アリス」の存在を示す伏線の少なさ

...一番決め手になるのがチェス盤くらいしかない。しかも入瀬が探偵役ではないという前提がないと分かりにくい。

 

②「アリス」についてあまりにも誰も言及しない&海上が「アリス」を犯人だと指摘したのに誰も疑わない

...特に後者。海上を狂わせることで、供述に信憑性を持たせなくしたかったんだろうけどさすがに不自然。というか自己紹介シーンでも海上、「まだ誰かいたっけ?」とか言ってんのさすがにアンフェアすぎる。

 

③「アリス」登場シーンを示す部分が初日のディナーにしかない

...①とほぼ同じだけど、長編なんだからもうちょっと出番を紛れ込ませるとか出来たんじゃないのか?っていう。

 

要するに、このトリックをやりたいならもっと繊細かつ大胆に伏線を張るべきところを、あからさまに不自然な隠し方をしているので、種明かしの時の唐突感が酷い。

冒頭でも述べた通り、魅力的なキャラでもがんがん殺されちゃうのとか凄く面白かったのになぁ。残念。

あと動機の酷さもよく批判されてるけど、個人的にはそこは特に気にならなかった。他の作品の感想でも言ってるけど、余程トリックに関わる訳でなければ動機に比重を置いていないので。まぁ、トンデモ系の動機ではあるけど。