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日々雑感(ミステリ感想中心)

扉は閉ざされたまま (石持浅海/祥伝社文庫)

19.扉は閉ざされたまま (石持浅海祥伝社文庫)

総評:★★★★☆

オススメ:一風変わった倒叙ミステリを楽しみたい方へ

 

あらすじ(引用)

大学の同窓会で七人の旧友が館に集まった。“あそこなら完璧な密室をつくることができる…”伏見亮輔は客室で事故を装って後輩の新山を殺害、外部からは入室できないよう現場を閉ざした。自殺説も浮上し、犯行は成功したかにみえた。しかし、碓氷優佳だけは疑問を抱く。開かない扉を前に、息詰まる頭脳戦が始まった…。

 

構成の妙が光る作品。

自分は元々あらすじや目次をしっかり読まない方なんで、余計に「こうくるか〜!!!」と唸らされた。なので、ネタバレなし感想にもあまりはっきり書かないでおくが、ミステリのお約束を覆す形の「謎の提示」が美しいと思った。分かる人には分かるヒントをいうと、『まどか☆マギカ』タイプのミステリという感じ笑

因みに1ページ目から分かると思うので書いてしまうと、倒叙形式の作品である。犯人と探偵のスリリングなやり取りにドキドキしつつ、締めくくりも予想の斜め上で思わず溜息が漏れた。

とにかく発想が面白かったので褒めちぎりたくなるが、一点難をつけるとやっぱり(一応ネタバレ避けで反転)ここまで込み入った殺人をする動機(ここまで)に無理があるというところか。個人的には然程気にならなかったが、メイントリックにも関わる部分なので惜しいといえば惜しい。

あと、文章も上手くてサクサク読めるのがありがたい。舞台が一つの館の中で完結する上、ある事情から人物に動きが少ないので基本的に会話だけになってしまい冗長になりそうなのに、定期的に「謎」をばらまいてくれるのであまりダレることなく読めた。

ドラマ化もされているそうで、確かにぴったりな作品だと思う。最近、「ドラマ化は無理」みたいな本ばっかり読んでたので新鮮だった。

シリーズものらしいので(でもどうやってシリーズにするんだろう…)、他のもぜひ読んでみたい。

 

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※  以下、ネタバレ感想

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや、まさか密室殺人物でドアが開く前に推理が終わるとは思わないでしょ...

というかドアが開くの最後の最後だし。まどマギじゃん...()

変形タイプの安楽椅子探偵モノになるんだろうけど、それだけで終わらせず「ドアを開けさせない」=「死体の発見を遅らせる」こと自体にも意味があるのはお見事。

まぁ、ネタバレなしで感想も書いた通り動機がちょっと弱いけど......うーん...「買春してる奴がドナー提供しているのが許せなくて、ドナー提供できないほど死体発見が遅れるようにするため密室を作って時間を稼いだ」って、確かにそんな理由で人殺さないだろって批判が出るの分かるけど...

以前『密室殺人ゲーム  王手飛車取り』のレビューでも書いた通り、自分はワイダニットにこだわらないので、動機に無理があるかどうかは気にならなかった。というか、動機で長々自分語りされるタイプのミステリがむしろ好きじゃない。

どちらかというと、「動機の不自然さ」を押してでも「トリックに意味を持たせるために特殊な動機を作る」作者の苦心を評価したい。

 

倒叙モノだとどうしても犯人が確定するので、「謎をどうやって読者に提示するか」がミソになってくる。

金田一少年シリーズの短編にもよく倒叙があったけど、あっちの場合トリック部分は見せないで犯人だけ分かっている(金田一少年の推理に怯えながら誤魔化そうとする犯人をコミカルに書いてるものが多かった)みたいな形式にしてたと思う。

ところが今回は冒頭から偽装方法や密室を作った手段まで全部明らかにしてしまう。えっ、ここまで読者に見せちゃって謎はどうすんの?というところからスタートするというのがとても面白かった。むしろ本当の謎はぼやかしながら小出しに見えてくる感じで、その采配が上手い。以下、読み進めながら登場する謎についての整理。

 

①何故仲のいい後輩だった新山を殺す必要があったのか?

→割と序盤から提示される謎。文庫版p87

殺人をすると決めたときから、それも仲の良い後輩である新山を殺そうと決めたときから、自分は独りになった。

新山を殺したシーンのあとで、生前の新山を疑り深く見ることが出来るわけだが、どう見ても「良いやつ」なのでより謎が深まる。殺人の動機の謎。

 

②伏見は骨髄移植提供で何があったのか?

→話としても唐突なので何か関係あるかと思ったら、伏見の心内文においても「触れたくない」感じを匂わせる。最終的には動機の謎と結びつく。文庫版p136

伏見はこの話題(骨髄移植)に関して、自分が制御できるかどうか、考えながら口を開いた。

 

③密室がなかなか破られない・伏見がやたらと時計を気にするのは何故か?

→伏見は殺す際に、新山が事故で死んだように細やかな細工を施しているので、ドアが破られても問題ないように見えるのに、なかなか「ドアが開かれない」。動機の謎とトリックが結びつくポイント。

正直、「窓を破ろう→いや、セキュリティシステムが...→ドアを壊そう→年代物なのに早々そんなことはできない」みたいな会話があって、初めて「いつまで経ってもドアが開かないことの不自然さ」に自分は気付いた。

本書の面白い点は物理トリック自体は陳腐ながら、「犯行後ドアが開かれるまで時間を稼ぐことまで計算に入れたトリックである」こと。つまり、「殺し自体より殺されてからが本番」という点。

様々な偶然も重なったとはいえ、伏見による自然な「ドアを開けさせない」誘導に読者も騙されていると言えるだろう(倒叙のおかげで読者は「室内にも偽装工作で事故死に見せかけている」準備を知っている=「犯人はドアが開かれることを予想している」と思い込んでいるのもポイントか)。

 

実は、この本は叙述トリックものとして買ったつもりだったので自分は終盤まで「本当の犯人は伏見じゃないのでは...」とか定番の叙述トリックを片端から疑っていた笑

本書は叙述モノと言っていいのかなぁ...

なかなか開かないドアの不自然さに気付かせないのは、犯人視点ならではなのかもしれないけど、いわゆる一行どんでん返し系ではなかったし。変則的な叙述トリックといったところか。

 

あと、締めくくりもなかなか見事。米粒のトリックを回収しつつ、優佳の恐ろしいまでの推理力に伏見が未来を直感する。多分伏見は犯行が露見することからは逃れてほぼ完全犯罪を達成するものの、優佳との未来はあまり好ましいものにはならなさそうで、この辺の微妙な苦笑感が上手い。というのも、優佳は美しい上頭もキレる才女として描かれているのに、伏見が直感的に避けているという描写ただ一つで「どこか恐ろしさを秘めたヤバい女」に感じられるからだ。

いや、この辺の説明は上手くできないんで、読んだ人に委ねたいけど...

普通は、「才色兼備でミステリ小説における探偵役」とかいうメタ的に見てズバ抜けた存在の女性に、「この事件を完全犯罪にしたいなら、私の口を塞がないといけませんよね...?」とか言われて迫られるとか、どう考えても美味しいじゃん。犯行は隠せるし女は手に入るし。でもそんなハッピーエンドには到底思えない「ぞくっと感」があるのが、人物描写が巧みだなと思うところ。

私、この作者女性なんじゃね?と思ったんだけど男性だった。まじか〜、男性のが逆にこういうキャラ書けちゃうのかなぁ〜