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日々雑感(ミステリ感想中心)

夜想曲(ノクターン) (依井貴裕/角川書店)

16.夜想曲(ノクターン) (依井貴裕角川書店

総評:★★★★☆

オススメ:まるで手品のような奇抜なトリックを楽しみたい方へ

 

あらすじ(引用)

同期会が催された山荘で三日三晩に三人のメンバーが絞殺された。俳優の桜木も会に参加していたが、なぜか、その間の記憶が抜け落ちていた。ただ、ひとつロープで他人の首を絞めた生々しい感触を除いては…。そしてその追い打ちをかけるように何者かからワープロ原稿が送られてきた。そこには空白の三日間が小説として再現され、桜木を真犯人として断罪していたが…。トリック&ロジックの本格派が新たに叩きつける「読者への挑戦状」。長編ミステリ。

 

Kindleで300円以内だったので購入したが短かった。後で調べたら寡作の奇術師作家で泡坂妻夫の弟子だとか。トリックというかロジックが奇抜かつ美しいのでなるほど、という感じ。因みにしっかり「読者への挑戦」があったので、ミステリ読みとしてはテンションが上がった。

大きく分けて2つの目眩しが仕掛けられており、1つ目は気づいた。普通に読んで入れば端々に違和感を感じるので、多分推測できる。犯人当てに関わる2つ目はさすがに気づかなかったなぁ。正直反則気味かと。ただ、設定の段階で疑うべきではあった。つい最近似た設定の本を読んだことだし、頑張って当てるべきだったかもしれない。

レビューでも言われている通り文章がやや読みにくく(山田悠介的なのではなく、ちょっとぎこちない感じ)、淡々と話が進む上人物には感情移入しにくいので、ミステリ初心者向きではない。パズラー的なミステリを読むにはオススメ。

 

因みに紙の書籍では入手困難らしいので、Kindleで購入する方がベターだと思われる。

 

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※ 以下、ネタバレ感想

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時系列誤認トリックは気付いた。というのも、わざわざ犯人が小説という形で記憶を失った主人公に事件を伝える段階でその辺は怪しいなと思ったから。確信したのは、初日の3人が妙にぎこちなく話が弾まないのに、二日目三日目は楽しげに会話しているところ。また、三日目の地の文で語られる、春眠会設立の経緯などを見ていると「これ、初日にあるべき文章なのでは?」と思った。そもそも二人も人が死んでるのにこんな楽しく喋っているわけがない。そう考えると、二日目に残されたテープの中に満が生放送でTVに出てるのも奇妙。奥さんが殺されて突発的に館を出て行った満が、何食わぬ顔で生放送のTV討論に出れるとは思えない。

一応、本の中では曜日や日付を元に時系列誤認を見破っている(読者でも見破れるフェアさの確保)が、そこまで深く観察しなくとも小説内の人間なら新聞で調べればすぐ分かるトリックなのがやや弱いか。

ただ、それをさらにひっくり返す、「桜木剛毅は二重人格で、女性の人格である桜木和己が剛毅を殺すために小説を送りつけた」という真相にはやられた。というか、この設定のおかげで、1つ目のトリックの甘い点である「桜木剛毅にしか通用しないのに敢えて無茶をして仕掛けた」という部分が補強される。しかも桜木和己はかなり無茶をするタイプで、剛毅に和己人格を認めさせるために麻美を殺しかけたりするわけで、そういう点も踏まえればあんまり後先考えていない「時系列トリックで剛毅のみを陥れる小説を送りつける」という行動にも説得力が出る。気がする笑  作者の苦心のあとが見えるね。

要するに、この小説は説得力云々よりこの時間誤認ネタを使いたいがために書かれたマジック的な作品なので、2つ目のトリックはあくまで補強って感じがするんだよなぁ。補強の仕方も上手いんだけど。同じロジックで推理をしても、123の順で読んだ時と321の順で読んだ時では、犯人が変わってくるという見せ方がマジック的で美しい。

ただ、もっと上手い使い方がありそうなのと、二重人格ネタはやっぱりミステリではアンフェア寄りなので、その点は惜しい限り。性別誤認を交えた二重人格者が犯人といえば某小説を思い出すが、あっちはくどいくらい性別誤認が分かるような伏線が張られていたので、二重人格がアンフェア感なかったんだよね。心内文にもそれと分かるように書かれていたし。

 

叙述モノとしてはわりとトリッキーな面白い作品だった。他はちょっと読まないかも。