殺意の集う夜(西澤保彦/講談社)
77.殺意の集う夜(西澤保彦/講談社)
総評:★★★★★
オススメ:張り巡らされた大量の伏線、異常な倒叙ものを楽しみたいあなたへ。
あらすじ(引用)
嵐の山荘に見知らぬ怪しげな人たちと閉じこめられた万理と園子。深夜、男におそわれた万理は、不可抗力も働き彼ら全員を殺してしまう。その後、園子の部屋へ逃げこむと、園子も死体となっていた。園子を殺したのは誰なのか。驚愕のラストまで怒濤の展開。奇才が仕掛けたジェットコースター・ミステリー。
私にとって理想のミステリとは、「一ページ目の一行目から最後のページに至るまでの記述が、すべて伏線となっていたことが、最後の一行で明らかとなる」というものです。
西澤保彦天才だな〜〜〜!!?
これをまさに体現したのが本書。大口叩くだけあるわ。ほんと伏線の張り方、ロジック、見せ方、全てが100点。
「神のロジック・人間のマジック」と同じで、これも大昔読んだことあったわ。大オチだけ途中で思い出したんだけど、それでも最後の怒涛の展開はびっくりした。いやぁよく出来てる。
奇しくも、類似の趣向が凝らされてる「紅蓮館の殺人」読んだばっかりだったから、ちょっと比較しちゃうんだけど、個人的には「殺意の集う夜」のが好きだな。どっちも伏線張りまくりの館もの(殺意〜は館ものなのかな?分からんが)で、「こんな偶然ある?!」みたいな展開とか、結構似通った箇所があるんですよ。
でも殺意〜の方がやっぱ捻ってると思う。やるならここまでやり通してほしいよね。
人によってはバカミスの類かもしれないけど、あとがきにもあるとおり、自分は「七回死んだ男」より西澤保彦らしくて好きだなぁ。今のところ、個人的には本書がベストオブ西澤保彦かも。
参考リンク:
※以下、ネタバレあり感想
なんといっても、ゾロゾロと同じ館に集まった殺人鬼たちの動機が、しょうもない新聞の占い記事だったというのがツボ。「偶然集まった」じゃなくて、一応ちゃんと理由付けがある、素晴らしい。
いや、西澤はさ、すごーく緻密に伏線やトリックを積み上げておきながら、こういうくだらない要素をちょろっと挟んでくるのが、すっごい良いバランスなんだよ。真面目にバカミスやってくれてるというか。
後書きにもある通り、こんな登場人物みんな異常者で、しかも偶然みんな死んでしまって(一部は故意な気もするけど)、一つだけ分からない死体が出てくるなんてさぁ、思いついてもこうはうまく書き上がらないと思う。書けちゃうのが西澤。
とはいえ、批判的な感想でも見かけたけど、
・偶然ばっかりでご都合主義的
・プロットがとっちらかってて散漫
というのもまぁ分かる。分かるけど、西澤のあっけらかんとした文体で書かれるとスルスル読めちゃうのがすごい。散漫かもしれないけど、読みにくくないんだよね。キャラの書き分けも良くできてるから混同しないし。
まぁ、強いていうと最後の叙述(万里=女装した男)というのは余計だった気もするけど、でもそれも九十瀬殺しの犯人を(読者から)隠すためだから許す。
万里、どういうセクシャルの人なんだか、行動原理が割とよく分からんが(精神は女性だけど、バイってことなんすかね)(あと女装してるのかどうかも結構微妙というか...本名バレしてる大学でも女性的な格好なのか、男女どちらの格好もしてるのか...)
あと、三諸は散々猟奇殺人しておきながら、九十瀬宅に侵入した時一般人みたいな顔をするんじゃない。一歩間違えたら九十瀬を殺してたのは自分だったかもーーのシーンは、あれ、殺しの前科があった故だったんすね。
「クローズドサークルに見せかけて実は全然クローズドじゃなかった詐欺」、お前もか!という感じなんだけど、今回のは結構許せる。
「土砂崩れで戻れない」という嘘をなぜ吐いたのか、なぜみんながそれに便乗したのか(しかもちゃんとロジカルに、読者も嘘が見抜けるようになってる)がきちんと謎の一部に組み込まれているから。
特に秀逸だな〜と思ったのが、二野瓶がホテルに電話して「ある事実」を聞いて狼狽したことと、七座が「ホテルで事件があって向かおうとしていた」ことを、勝手に万里が結びつけるところ。
てかほんとに一行一行が伏線になっててすごい(すごいばっかり言っている)。また西澤読み返すかなぁ。