聯愁殺 (西澤保彦/中公文庫)
7.聯愁殺 (西澤保彦/中公文庫)
総評:★★★★☆
オススメ:推理合戦とあっと驚く結末を楽しみたいあなたへ
あらすじ(引用)
大晦日の夜。連続無差別殺人事件の唯一の生存者、梢絵を囲んで推理集団〈恋謎会〉の面々が集まった。四年前、彼女はなぜ襲われたのか。犯人は今どこにいるのか。ミステリ作家や元刑事などのメンバーが、さまざまな推理を繰り広げるが……。ロジックの名手がつきつける衝撃の本格ミステリ。
西澤保彦らしい、推論に推論を重ね、緻密な構成の上でラストにどんでん返すという理詰めミステリー。
ただ、構成上仕方ないのだが、作品の冒頭で事件が提示されその後は本文の8割強は延々と素人探偵達による推論が繰り広げられるので、地味といえば地味。自分はこの作品が名作との評判高いことを知っていて読んでいたのでめげずにすんだが、知らなかったら半分あたりで投げていたかもしれない。
そもそも推論が続いている部分は、「まだこんなところで真相に至るわけがない」とメタ的な読みが入ってしまうため、雑に読み飛ばしたくなってしまう。念のためいうと、それを耐えた上でラストのひっくり返しが効いてくるので、推理パートを批判する気は無い。
ざっくり言うと、ミステリー慣れしている人には是非一読頂きたいが、ワクワクドキドキの目まぐるしい展開を求めている人にはオススメできない。
因みに後味はとても悪い。
※ 以下ネタバレ感想
叙述ミステリーばかり漁っていた時期に選んだ一冊。「疑わしい語り手」を意識しながら推理していたが、まさか主人公の女性が連続殺人事件の大半を成し遂げていたとは思わなかった。その一方で、主人公は純粋な意味での被害者でもあるため、謎の核心である「何故自分が狙われたのか」は本当に分からない(地の文に虚偽はない)という設定の妙に唸らされる。
西澤保彦は何冊かSFミステリー作品を読んでいるので、今作品の「特殊な設定だからこそ成り立つトリック、ホワイダニット」という特徴は非常に作者らしいなぁと思った。
某有名ミステリー感想サイトで言及されていてとても納得したのは、一般的には「事件の提示→探偵による推論→真相が発見される」となるはずが、今作では「事件の提示→推論が重ねられる...と見せかけて事件のヒントが続々提示され、伏線が張られる→見せかけの真相→犯人による自供」となっており、構成自体にミスリードが仕掛けられている点。
また、叙述トリックといっても、よくある性別誤認、年齢誤認、人物誤認といった分かりやすい仕掛けではなく、「殆どの真相を知る犯人だが、一番の謎は分からないので被害者でもあり、地の文に嘘はない」という複雑な惑わし方なのも凝っている。
その割に1行で種明かししちゃうんだから、西澤保彦は上手いよな〜。好き。