番外編6.ダンガンロンパv3 (推理アクションゲーム/スパイクチュンソフト)
(※2020/5追記)
無印、スーダンの感想も書いてないのに難だけど、ダンガンロンパ好きなんで…。今更ながらプレイ終わったので感想でもまとめておく。
個人的には、ダンロンシリーズ中屈指の「ミステリ好き向け」な内容だった。ラストは賛否両論。
総評:★★★★☆ 総プレイ時間:30~40時間(3日集中で完走)
おすすめ:必ずダンガンロンパ1・2をプレイしてから始めること。この世界観が好きな人なら自信をもってお勧めできる。
あらすじ(steamより引用)
この世界には、政府が実施している特別な奨励制度『ギフテッド制度』によって様々な特権が与えられ、将来を嘱望された『超高校級』の称号を持つ学生が存在する。『超高校級のピアニスト』赤松 楓もその一人であった。
超高校級の才能を持つ学生は全国に散らばっており、一堂に会することもなかったのだが、ある日、楓を含む16人の超高校級の学生たちが『才囚学園』に監禁されてしまう。
才囚学園は学園長を自称する謎のぬいぐるみ『モノクマ』と、その子どもたち『モノクマーズ』が支配する学園。
モノクマ曰く、この学園は才能あふれる高校生たちに、コロシアイの1番を競い合わせる場なのだという。
そして、殺人が起きた場合、学級裁判を開廷し「誰がクロか」を議論すること、正解した場合はクロだけがおしおきをされ、間違えた場合はクロだけが生き残り、残ったシロ全員がおしおきをされるという狂ったルールがあるということを告げられた。
学園は巨大な壁に囲まれており、脱出することは不可能に等しい。この場から抜け出すためには、モノクマの言うとおり、コロシアイをするしかなかった—
コロシアイを止めるため、誰かを守るため、“嘘”で“真実”を撃ち抜く学級裁判が幕を開ける。
steamでは3作品合わせて7000円以内で購入可能なので、興味のある方はぜひ↓
自分は「密室殺人ゲーム」系の「動機はともかく、なんでもありな面白いトリックで事件が起きる!」みたいな展開が大好きなため、ダンロンシリーズももれなく好物。
特に、大好きなキャラがサクサク被害者になったり犯人になってオシオキされるのがたまらない。
4章までは間違いなくミステリファンも純粋にトリックを推理するのが楽しい作りになっていて、今作も個人的にはよかったと思う。
★5にしなかったのはアクションでかなり苦戦したことと、冒頭述べた通りオチがちょっとアレだったことが理由。
※以下、本作及びダンガンロンパ1、2のネタバレを含む感想
ーーーーーー
《全体評価》
1章
トリック:☆☆☆※※
犯人当て:☆☆☆☆☆★
ストーリー:☆☆☆☆☆★
犯人とトリックが連動するのでこの評価。
とにかく「意外な犯人」にこだわった、最高難易度の第1章。気合い入りすぎ。
裁判パートまでに犯人当てられた人がどれだけいたのか気になる。
2章
トリック:☆☆
犯人当て:☆☆☆☆
ストーリー:☆☆☆☆
無難な2章。ストーリーというかオシオキが絶妙すぎて好き...
クロも被害者も動機や背景の描き方が好きだな~
3章
トリック:☆☆☆☆
犯人当て:☆☆
ストーリー:☆☆☆
トリックは難易度高め、でも状況的に犯人はすぐ絞れるパターン。
事件の不気味さ、2連続の密室殺人(特に2人目の特殊密室)とミステリ好きにはたまらないエッセンスが詰まっている。
4章
トリック:☆☆☆
犯人当て:☆☆☆☆
ストーリー:☆☆☆☆
リアルと違う物理法則が前提となる、SFミステリみの事件。
トリックのタネはすっと分かり、それ故に犯人はかなり絞られるものの動機や背景が分からないので犯人を当てたくない気持ちに駆られる。ストーリーの妙が活きている。
5章
トリック:☆☆☆
犯人当て:☆☆☆
ストーリー:☆☆☆☆
この章、スーダン2があるせいでメタ推理してしまうのが惜しいね。
ストーリー中にもあった通り、トリック自体はお粗末で、どちらかと言うと状況やストーリーが捻ってある。
ダンロンシリーズでは不可能と思われた被害者不明死体を作ったのはすごい。
6章
トリック:☆☆
首謀者当て:☆☆☆
ストーリー:☆☆☆
正直冗長すぎた...1章のやり直しは熱かったけど、首謀者当てにあまりカタルシスがなかったのが残念。
《個別感想》
1章「私と僕の学級裁判」
被害者:天海蘭太郎
犯人:赤松楓
まさかの「視点人物犯人&叙述トリック」。
何がうまいって、めちゃくちゃフェアな叙述トリック仕込んで来てるところ...
①倉庫で砲丸を調べる→「必要なものを全てリュックにしまった」
②図書室で「排気口の蓋を斜めに立てかけ」「本棚の本を積み直す」
③教室で最原を追う前に、「手に持っていたものを放り投げた」
④裁判中、「この事件の犯人」ではなく「首謀者」を突き止めたいと言う ←別作品のミステリネタバレだけど、「聯愁殺」(国内ミステリ、漢字三文字、クリックで以前のレビューへジャンプ)を思い出した
どれも思い返せば違和感があって、なるほどな~っていうのが悔しい。
①最原とカメラを取りに行ったとき、砲丸を調べると話が進むのがまず違和感。
②今思い返せば、「排気口の蓋を立てかける」必要がない(本を積み直したのは、排気口ルートは使えませんよアピだと思ってたしそこまで違和感なかった)
③落ち着かなくなって掃除を始めたところ、物凄く違和感を感じてなんの伏線だ?と思ったけど、掃除自体より「持っていたものを放り投げて」がポイントだった
ちなみに以上の違和感は、「最原初っ端クロなんじゃね??」という私の疑心暗鬼によって「語り手犯人説」は完全にアウトオブ眼中だった。悲しい。
元々叙述トリック大好物なのもあるけど、やっぱり思いもよらない叙述をひっかけられると気持ちいいね。
(雑感)
・主人公視点が変わる瞬間が気持ちよかった。しかし、最終章でまた主人公視点が変わるとはなぁ…
・砲丸、こんな綺麗に当たるか?無理トリックすぎでは?って思ったけど、まさか6章できちんと回収すると思わなかった…無理トリックはロンパのお家芸だと思っていたので…
・最初の事件から「裁判ナシで犯人勝ち抜け」はびっくりした。でもこの事件は楓ちゃんがあの動機でやった事件だったからうまい具合にハマったけど、ここで真宮寺が動いてたらゲームとしてはかなりつまらなくなっていたのでは??首謀者何考えてんだ。
2章「限りなく地獄に近い天国」
被害者:星竜馬
犯人:東条斬美
素直な物理トリック。回収が難しかったとはいえ証拠品残しすぎでは?
犯人がなかなか絞れなかったから犯人はギリギリまで分からなかったけど、トリック自体は捜査パート段階で絞れてしまうが惜しい。
見どころは何といってもオシオキシーン。痛々しいまでの犯人の豹変、絶対にオシオキされることが分かっていても逃げてほしいと思ってしまうあの悲痛さ、そして目指した先の出口はただの「紙の空」。
(雑感)
・マジックショー、絶対に布取ったら秘密子ちゃんが死んでるんだろうなと思ったらまさかのほっしーで思わず声を上げてしまった…まさか星がここで犠牲者になると思わないじゃないか…
・秘密子ちゃんは苦手なものが「海」だったんで、絶対この子泳げないやつだ(マジック前にも異常に動揺してたし)と思ったのになぁ。外れた。
・裁判前の夜に百田とのトレーニングができなくて「まぁまた明日も会えるしいいか」みたいなセリフ入るの、完全にフラグでビビった。そういうミスリード上手いなぁ本当。
3章「転校生オブザデッド」
犯人:真宮寺是清
3章特有の「犠牲者二人」&「サイコ犯人」。今作も律義に守ってくるとは…。捜査パートで遺体発見したときは唸ってしまった。本当今作は、今までの王道展開を守りつつ「やってこなかったこと」をガンガン突っ込んでくるな。
犯人は秒で分かってしまうものの、凝った物理トリックで個人的には出来がいいと思った。何といっても、ミステリファン大好物の密室モノ!!
特に茶柱ちゃんの事件はとてもよい。重い籠の上に重い像を載せて、更に周囲を塩で囲むという「事実上の密室」というのがテンション上がった。
プラス、雰囲気作りがめちゃくちゃ上手い。ていうか4階怖すぎる。アンジーの遺体発見現場本当にビビったよ…蝋人形を吊るすという不気味さも良かった。
犯人がサイコ&ほぼほぼすぐに特定できるので、1・2章に比べると後半戦がだれるのが残念だけど、ミステリとしては出来が良かったと思う。金田一少年とかで出てきてもあまり違和感ない気がする。
(雑感)
・3章からアンジーが出張ってきたので「死ぬんだろうな」とは思ったけど、可愛い癒し枠だったのでとても悲しかった覚え。遺影の落書きも可愛い感じだったね。
・転子ちゃんは生き残り枠だと予想していたのでこちらも残念。というかダンロンシリーズは百合カップルに厳しすぎない??(ロンパ1のさくら&朝比奈、2のひよこ&真昼)
・3章で王馬くんの絆がMAXになっちゃったので、アンジーと真宮寺に会ったんだけど二人とも退場とは…。ちなみにここで王馬くんからもらえるスキルが「やさしいうそ」であることが分かり、首謀者ではなさそうなことが判明していた…。このあと何をしても、多分演技なんだろうなって…。
4章「気だるき異世界を生かせ生きるだけ」
被害者:入間美兎
犯人:獄原ゴン太
特殊物理設定下のSFミステリ(風)。西澤とかが短編で書きそうじゃない?
本作第1章も胸糞だったけど、それに次ぐ胸糞事件。辛い。
被害者・犯人とも意外だった。美兎系のバカ・下品系キャラは何だかんだ生き残るのが鉄板かと思ってたのに…。
トイレットペーパーが特殊物理法則によって縄になるというのが面白かったかな。
(雑感)
・王馬アンチはこの章がポイントなんだろうと思うんだけど、5章の彼を見る限りでは、色々と試行錯誤していたのではなかろうか。まぁここで完全犯罪を達成する意味がないんだけど…
・4章は筋肉系キャラが死ぬ章と決まっているのだろうか…正直そろそろゴン太退場かなとはおもっていたけど、絶対に犠牲者だと思っていたから、犯人になったときは本気でショックだった。
・美兎がこのタイミングで突然外へ出たがるの、もうちょいきっかけをきちんと作ってほしかった。
・この辺の王馬のセリフで「好きになったら逃がさないよ」みたいなことを言っていたので、こういう難しい事件を起こしてきちんと解決できる最原と最後の二人になることを計画してるのかと思っていた。ていうか、その辺の思わせぶりセリフ、いったい何だったんだ。あと王馬の顔グラ怖すぎる。
・ゴン太のオシオキは絶対虫をもっとかわいそうな目に合わせるやつだと思っていたので、でかい虫に刺されておしまい、というのは逆に意外だった。
・ゲーム内のアバターグラフィック可愛すぎる。
5章「愛も青春もない旅立ち」
被害者:???→王馬小吉
犯人:百田解斗
ダンロン2-5があまりにインパクトの大きい事件だっただけに、今回はどうやって超えてくるかと思ったら「ゲーム主催者にも被害者・犯人が確定できない事件」を作り出すというのは見事。
ダンガンロンパはゲームマスターが存在することで後期クイーン問題を解決しており、「絶対のクロ」を指摘することができる設定になっているのに、「犯人は推理不可能」と大見得を切った王馬(の台本を読んでいる百田)というのは面白かった。
しかも「春川か王馬のどちらかが犯人」と絞り込んでおきながら、モノクマがどちらを答えても、絶対に間違いだった(モノクマが間違っていたことを言い逃れできない)と示すことができる「百田の登場」を用意しておくあたり、非常に狡猾。
ただ…シチュエーションは上手いけど、やっぱり2-5がちらつくせいで、王馬が死んでるんじゃないかな~とうすうす思ってしまうのが惜しい限り。
あと命を賭して作り出したシチュエーションなのに、いざ事が上手くいきかけたところで百田がコックピットから降りてきてしまうのがよく分からない。王馬のシナリオに乗った時点で、みんなが全員間違った投票をすることを覚悟していたんじゃないのか?
やっぱり、本人が死んだ上に誰も協力者がいないのに、裁判をうまくコントロールした狛枝はすげーよ…。
(雑感)
・ここでもう一回デスロードやらされると思わなくて泣きそうになった。万能ハンマー持ってても何度も死んだよ…
・「俺、つまらなくなかったでしょ?」が悲痛すぎてもう。百田に言われた「お前、つまんねーな」をずっと覚えていたんだね。
・王馬は今までのロンパトリックスターキャラと違って、結局誰とも本心では繋がれなかったことが悲しい。せめて最原と協力できていたら、こんなに強力なタッグはなかったはずなのに。6章で判明する彼の研究教室や部屋の様子を見る限り、最原の最大の相棒は王馬であるべきだったんじゃないかと思ってしまう。
6章「さよならダンガンロンパ」
首謀者:白銀つむぎ
第1章の「女子トイレに行っていた」をここで伏線回収すると思わなくて、そこは素直にすげえ!!と思った。
ただ、色々なやばい証拠をその辺に残しまくってるのはちょっと今までの狡猾さと比べて違和感あるなぁ。しょうがないか…
あとつむつむは普通に印象が薄かったので、首謀者だとわかってからも全く好きになれなかったな…カタルシスがない…
V3は全体的にミステリとして好きなんだけど、6章はだらだらと風呂敷をたたんでいる感じなのでちょっとかったるかった。もう残っているキャラがあまり魅力的じゃなかったのも惜しいかな…
(雑感)
・朝までに探索するパート、本当にしんどかった。今までの探索パートは全部マップから瞬間移動してたから全然道とか場所覚えてなかったし、時間制限もあるから異様に焦ったし…正直このパートいる?面倒なだけだったな…
・「セーブ」を「いいえ」にすると「救う」になったのはいい演出だった。
・ただ、今作のシステムで面白かった「偽証」がラストパートでもあんまり活かされてなかったのは勿体なかったな。いろいろ使いようあったんじゃないのかな。
・裁判パートでゲームを次々放棄していくのはちょっと面白かった。あれ、クリアしようとしちゃうとどうなったんだろう。
・今作最大の賛否両論ポイント、「ダンガンロンパを望む視聴者のために、この悪趣味なゲームは続けられている」「ダンガンロンパを終わらせる」は、ノーコメント。ミステリ読みにとって悪趣味は最早言われなれてるというか。それこそ密室殺人ゲームくらいの開き直りで全然いいじゃんとか思っている人種。
・…ダンガンロンパシリーズの続編じゃなくていいから、こういうミステリゲームは終わらないでほしいよ…
-------------
キャラ語りを始めると更に2倍くらいになりそうなので、全体的にミステリ目線でまとめてみた。
個人的に好きな章は、1>>>3≧5>4>2かな。意外性やトリックの質は本当に良かったけど、終盤のなんでもあり感がちょっとぶっ飛びすぎてて2みたいな感動はなかった。
次回作…あるんですかね…
(追記)
v3は間違いなく面白かったんだけど、腑に落ちない点が多かったよな...と思ったので自分なりに原因を考えてみる。
①第一の事件のアンフェアさ
:モノクマは犯人を間違えないし、事件に関与もしません!がいきなり破られてるの、やっぱりダンロンシリーズとしてやっちゃいけないことだった気がする。
第一の事件を最後に検証するのは確かに面白い試みだったけと、新しい証拠を出しちゃダメだった。
②第五の事件が何故つまらなかったか
・「王馬が死んでいる」ことを「推理」で論破してくれなかったから。
王馬が毒薬を飲んだふりをしたっていう部分とか百田が死んでないことを何とか証拠で突き止めて欲しかった...。「君を信じるよ」はミステリじゃないんだよ...
・王馬の死体が出てこなかった。
ロンパ2の狛枝の事件はめちゃくちゃ痺れたのに何故v3はダメだったのか考えてみたところ、やっぱりインパクトなのかなと思う。
ロンパ2でいきなり狛枝の無残な死体が出てくるシーン、普通にショックなんだよ。しかも七海ちゃんが無理やり犯人になる。辛いぞこんなの。
それが、今回は百田の死体かと思ったら百田は生きてましたーでもオシオキでーすというノリなので、ショックがない。百田生きてたのかよ、なーんだ、みたいな。
しかも直前まで王馬がまるで話してるみたいな裁判やってるから、王馬が死んだリアリティがない。狛枝超えができなかった。
③第四の事件の無理矢理さ
:とにかく行動に動機がない事件。
第一、第二があんなに人間味溢れた事件だっただけに「何でこんなことしたんだ?」感がすごい。
美兎が王馬を殺そうとするのも突然すぎるし、コロシアイシミュレーションが出てきたのも深い意味はなかったし(スーダン2みたいに仮想空間であることを示唆してるのかと思った)、何より王馬が美兎を殺した理由もなかった。
あんだけ意味深に煽っておいて、何一つ意味がない。
王馬アンチが増えるだけなんだよなぁ...この章以外の王馬は案外狛枝より素直に、モノクマへ挑んでる感じがあってもう一人の主人公格に感じる。
概ね愚痴だけどこんなところ。
メタオチ以外にもちょっと勿体ないところが散見してたなぁと。まぁ第一章が神ってるから許す。
(更に追記20-5-24)
●v3の主眼と王馬再評価:メタ構造への挑戦
感想書いた当時はゲームプレイしたてで、勢いのまま書きなぐったので、喜び・興奮・怒り・喪失感もあってこういう感想になったが、冷静に考えるとv3の狙いはストレートに果たされたのかもしれない。
・主人公が犯人、「信用できない語り手」
:掟破りの第1章。ミステリとして鮮やかすぎてそれ以上の評価をしていなかったが、v3のメインテーマにメタ構造があることを初っ端から示唆しているのではないか(後述)。
・王馬というトリックスター
:狛枝に近く、そして狛枝とは全く違った。狛枝に近いが故に、彼のキャラを読み誤ってしまったので、再度考え直したい。
狛枝は「自分がどんな犯人利となることをしても(裁判を撹乱しても)希望が打ち勝つ、それが見たい」という希望厨としてのポリシー故に動いていた(狂人じゃねえか...)。あくまで「ゲームの枠組の中で」、他のプレイヤーの行動原理(生き残りたい)とは違う目的(希望が見たい>>>>生き残りたい)で動くキャラ。
一方で、王馬の目的は何か。5章で①「自分が首謀者であるように振る舞えば、殺し合いを止められると思った」、②「モノクマにすら分からない事件を起こして完全勝利を目指す、このゲームをめちゃくちゃにしてやる」と言う。
まず①は、4章でゴン太を唆して美兎を殺した段階で、実は「みんなの命を守るために殺し合いを止めたい」という意味ではないことがわかる。
そこで②を見ると、王馬はただひたすら「ゲーム外の誰か」に挑みかかることが目的だと分かる。
つまり、①の意味は、「ゲーム内人物を騙し切り(首謀者の誤認)、ゲーム外の誰かにとって予想外の進行を取れば、最早盤上の駒ではなくなる(=一次元上の首謀者と同じ立場に立てる)ので、殺し合いを止められる」ということ。
ダンガンロンパ史上初の、「同じ土俵の上にいるキャラクターではなく一次元上の(=視聴者)と戦うキャラ」である。メタメタ。
ここで叙述トリックの話に戻る。
「叙述トリック」の問題点の一つとして「読者だけしか騙されない(小説世界の人にとって「叙述」は認識されない)」ことが挙げられる(※1)。
ゲーム内のキャラクター視点(最原)の立場から見れば、王馬は一貫性も協調性もなく場をかき乱すだけ。「何故こんなことをするのか」が見えない(以前の私の考察もここ止まり)。
でも我々は1章で思い知らされたはずである。「視点人物」だけの次元で見えるものが全てではないことを。
そもそも王馬は「ゲーム内キャラ」など眼中にない。そして、彼の目的は「ダンガンロンパがゲームであること」を知っている視聴者にしか理解しえないことである。(重要なのは、ゲーム内キャラにこれを説明する必要はないこと(※2)。だから説明がほとんどない。私はそれで王馬小吉というキャラを読み誤った)
王馬小吉は「ゲーム外視聴者だけに挑戦し続けた叙述トリック」そのものなのではないか。
言うまでもないが、王馬というキャラを仕立て上げるには、最後に「ダンガンロンパは見世物で、見ている人たちがいました」という実際の構図に似せた(「ダンガンロンパというゲームを楽しむ私たちプレイヤーがいる」)オチが必要なので、v3がああいう構造になるのもしょうがない。
果たして、「v3の虚構エンド」が先にあったのか「次元を超えようとする王馬小吉というキャラコンセプト」が先にあったのか定かではないが、v3のメインテーマと直結するキャラであるのは間違いないと思いましたまる。
・v3のキャラは全員作り物であると最後に明かされる。オーディションがあって、みんな殺し合いゲームが大好きで、「ゲームを上手く盛り上げますよ!」と意気揚々とこの「演劇」に参加したのだった。
王馬は、演劇の最中に突然舞台から飛び降りて観客席の人間に刃を向けようとしたキャラである。
最初から劇だと分かっていたのか、数少ない痕跡から気付いたのか(私は彼の行動変容から察するに後者だと思うが)、いずれにせよ、「一切のチート才能を持たない凡人の彼」がここまで挑みかかったのはすごいことだった。
そして惜しむらくは、第5章、よりにもよって百田(百田が悪いわけではないが、今までの行動からいって典型的な「ゲームの枠組に囚われている人物」)と組んでしまったがために、彼の計画は脆くも崩れ去る。この辺、一人でトリックを完遂しきった狛枝に一歩及ばない王馬 という感があって哀しい。
6章まで生きてたらなぁ。状況的に仕方がなかったとはいえ、彼は性質上(狛枝と違って)生き延びないといけないキャラだった。生き延びて、そして黒幕と対峙することが必要だった。
-----
v3は見るたびに色々考察ができるいいゲームですね...4出して......
どうでもいい気づきなんですが、5章裁判後に百田が喋る時のアングル、「黒幕:白銀つむぎ」が常に映りこむのはわざとでしょうか。
そして、百田が黒幕に言及するとき左腕を上げると、ちょうど白銀つむぎの顔が隠れるのは......ここまで来るとスタッフの意図を感じる気が。笑
※1:「叙述トリックは誰をだますものなのか」については、噂(荻原浩/新潮社) のネタバレあり感想にて詳しく書いた通り。読者しかだませない「叙述トリック」をいかにうまく料理するかがミステリ作家の腕の見せ所。
ちなみに私べた褒めの第1章については、叙述トリックは完全に読者(プレイヤー)をひっかけるためだけに作用し、ゲーム内キャラクターにとっては砲丸の物理トリックだけが見えている状態になるので、この点をきちんと解消している(言うまでもないですね)。
※2:「叙述トリックをいかにバラすか」というのとちょっと近い。これについては、麻耶雄嵩の「鴉」において、「メルカトル鮎が「読者にしか仕掛けられていないはずの叙述トリック」になぜ言及できたのか?」(ネタバレ回避のため反転)と同じものを感じた。
まぁ王馬については、「外側世界の人間がダンガンロンパをゲームとして視聴している」ことをもっとはっきり突き付けてやれば、一致団結して戦えたのでは?という考え方もできるが(とはいえ、そのネタを「武器」として使うのであれば、やっぱり第5章の事件に昇華するしかない気もする)。