103.全員犯人、だけど被害者、しかも探偵(下村 敦史/幻冬社)
総評:★★★☆☆
オススメ:タイトル通りの作品。一風変わったクローズドサークルでの推理合戦を読みたい方へ。
あらすじ(引用)
ビブリオバトルの3世代3大会のグランドチャンプ本にも選ばれた『同姓同名』の著者が新たに仕掛ける、
多重推理しかも密室しかもデスゲームだけど……
下村ミステリはフツーじゃ終わらない!「私が犯人です!」「俺が犯人だ!」、全員犯人です!
社長室で社長が殺された。それに「関わる」メンバーが7人ある廃墟に集められる。未亡人、記者、社員2人、運転手、清掃員、被害者遺族ーー。やがて密室のスピーカーからある音声が流れる。「社長を殺した犯人だけ生きて帰してやる」。犯人以外は全員毒ガスで殺す、と脅され、7人は命をかけた自供合戦を繰り広げるがーー。
完全にタイトル買いした作品なのだが......うーん...良くて星3.5くらいかな...
星4までは付け難かった理由はふたつあって、一つはトリックに関わる話なのでネタバレあり感想の方で後述するとして、もう一つは話が動き出すまでが若干冗長なこと。逆に言えば、最初ローキーで始まるけど半分くらいからは一気に読める、読まされる勢いはある一冊ともいえる。
閉じ込められてる面々がね〜どれも一癖あると言えばあるんだけど、どちらかというとストレスフルなキャラ造形で(わざとだとは思うけど)あんまり読んでて楽しい感じではないのね。特に女性陣二人。
ただ、序盤からまんべんなく伏線の匂いがするので、推理しがいがあったのはよかったかな。意味ありげな地の文が多いんだよね。
トリック含めて好き嫌いは若干分かれるかも。あんまり普段ミステリ読まない人の方が楽しめる気がした。
※以下ネタバレあり感想
みなさんは双子トリックを許せる派でしょうか。
私は(基本的には)許せない派です。
アンフェアトリック自体はそんなに嫌いじゃないのだけど、アンフェアをしてくるならそれ以上の驚きがあるか、きっちり伏線を張った上で読者が推理できるようにしてもらいたいと思う。
今回の一冊は、個人的にはアンフェアが過ぎたので若干評価が辛くなった。冒頭で述べた「星4がつけがたかった理由」の一つがこれ。
まぁ微妙なところというか、正直個人の趣味の問題かもしれないんだけどね…
一つ目のどんでん返しが、「実は我々が読まされていたのは実際の事件の再現ドラマであって、それぞれ各キャラクターになりきった探偵が演じていた」という部分なんですが。
いや…なんで突然漫画みたいな設定にした??!!!
確かに、地の文で意味ありげに「"倉持孝"はこう考えた。」とか「しかし、今のタイミングで言わなければならなかったのだ」とか挿入してきているんで、薄々、やらせなのかな~偽名を名乗っているパターンとかかな~みたいなことは考えたし、想像の範疇ではあった。
でも、「迷宮入り事件を役柄だけ設定させた探偵に演じさせて、実際の現場で起きたことを推理させて再現させたのだ!」は飛躍が過ぎないですかね。
「……これが"真相"なんですか」
「そうです。これが廃墟監禁惨殺事件の真相です」
じゃねーでしょう!!!!無理がある!!笑 何を根拠に真相だと言い張れるんだ?!!?探偵の特殊能力なのか??この世界ではそんなに探偵の身分が高いのか????
いや、いいんですよ、ラノベ系のミステリなら全然あり。
でもこの作品はさぁ、そもそも、自転車の不良事故を契機に被害者遺族やマスメディアが苛烈に当企業を責め立てたことにより社長が自殺してしまった、被害者遺族やマスメディアに本当に罪はないのか、みたいな若干社会派な事件から始まるわけじゃないですか。なのにこのどんでん返しはあまりに世界観が違いすぎんかと。まず自分はここでずっこけました。
ただまぁ、この作品はここが肝なわけではなくて、なんならこの仕掛けを見せた後が本番なので、これ自体はそこまで評価を下げたポイントではないんですが。特殊設定ミステリだったのね~くらいで呑み込みました。
問題はさらにそのあとの真相究明部分で、唯一生き残った神嶋と「ゲームマスター」と対峙し、その正体が「神嶋哲役の探偵」であり志賀川恭一であることが明かされるシーン。
いや、無理があるだろうそれはさすがに!!!(二回目)
そもそも、自殺したと思われていた志賀川恭一が双子と入れ替わってましたというアレ、一卵性双生児だとDNAも一緒だという話は何かのミステリで読んだことあるけど、いくら一卵性双生児でもその後身長とか顔つきが実際には変わってくるんだから(しかも育った環境が結構違うという話なんだから余計に)いくらなんでも被害者を調べたときにバレるだろ。それも火だるまになったとかで遺体が損壊していたならともかく、首つり死体だし。警察無能ポイント1。
万が一誤認したとしても、こんな渦中の人間の自殺事件が起きたら普通は警察もガイシャの身辺を探るはずで、勘当された双子の弟なんて怪しすぎるだろ。警察無能ポイント2。ていうか、マスゴミの鑑ことジャーナリストの神嶋あたり突き止めてそう。
極めつけは、探偵を集めて事件を再現することで謎の大量殺人事件を解明しようとするという結構無茶な捜査をするにあたって、よりによって、整形したとはいえ、志賀川恭一本人(一応弟の探偵事務所に入り込んでいたようなので、弟名義?)にその事件を依頼するのか???!!という。警察無能ポイント3。
つっこみが…つっこみが間に合わない…!
これら全部が「双子でした~!」に起因するのがあまりに解せない。個人的にはアンフェアオブアンフェアすぎるなと思いました。
タイトルであるところの「全員犯人、だけど被害者、しかも探偵」というのを伏線回収するためのこのオチだとは思うけど、個人的にはいくらなんでも…なところが多すぎだったかな。凝ってるのは分かるんだけどね。設定も面白いし。でもチャレンジブルなタイトルの割にミステリ系の賞に引っかかってない理由がよくわかった。
しかし、ツッコミが多い微妙な作品ほど楽しくレビューしてしまうのはなんでなんですかね。これを面白く読めた人の感想を(皮肉でなく)純粋に聞いてみたいところです。
