好きなものだけ食べて生きる

日々雑感(ミステリ感想中心)

紅蓮館の殺人(阿津川 辰海/講談社)

76.紅蓮館の殺人(阿津川 辰海/講談社

総評:★★★★☆

オススメ:王道館モノ。ジュブナイルっぽいミステリを読みたい方へ。

あらすじ(引用)

山中に隠棲した文豪に会うため、高松の合宿をぬけ出した僕と友人の葛城は、落雷による山火事に遭遇。救助を待つうち、館に住むつばさと仲良くなる。だが翌朝、吊り天井で圧死した彼女が発見された。これは事故か、殺人か。葛城は真相を推理しようとするが、住人と他の避難者は脱出を優先するべきだと語りー。タイムリミットは35時間。生存と真実、選ぶべきはどっちだ。

 

うーん面白かった。終盤の展開が素晴らしい。この一言に尽きる。

ただキャラクターがめちゃくちゃ肌に合わなくて、個人的には読むのにかなり時間を要した。この辺は完全に好みだけど。登場キャラが非常に漫画的というか、リアリティない&あんまり魅力的じゃないんだよね...あと主人公に全く感情移入できなくて...

 

他にも粗探しをすれば、「偶然重なりすぎじゃね?」とか「そんな犯人に都合のいいように進む?」とかまぁあるんだけど、ラストにかけての怒涛の勢いはそれらを打ち消すレベルで最高だった。

前半読むのに数か月かかったけど、後半からは一気呵成に一日で読んじゃったなぁ。もし序盤でちょっとつまづいても、頑張って最後まで読了する価値はあると思う。

 

にしてもあんなオチにしてしまって、続編に当たる蒼海館はどうなるんだろう。

 

 

 

 


※以下、ネタバレあり感想

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


炎上する館からどうやって逃げ出すのか...ーーという特殊なクローズドサークルと思いきや、実は外部からも人が入ってきていた、というのはちょっとずっこけた。十角館じゃねーか!!!

まぁ、ずっと秘密の通路を探してたわけだから、逆にそこから入ってきた可能性も考えるべきなんだけどね。

個人的に、カラクリ屋敷系ミステリがあんま好きじゃない理由の一つが、なんでも館の仕掛けで片付いちゃうところなんだけど、本作品もちょっとそういうところあったな...釣り天井の裏側に隠し階段とかね。まぁ本作の見せ場は物理トリックより、登場人物たちの嘘を見破るところだと思うんで、いいんだけど。

 

終盤の、 実は詐欺師集団、実は奥さんを殺害していた、実は盗賊だった の告発オンパレードはなかなか面白かった(盗賊ってなんじゃい!!!という感じもあったけど)
しかもそこまで暴いて結局、「誰が、なぜつばさを殺したのか?」がわからないという。

そこで、飛鳥井が探偵を辞めるきっかけになった「爪」が関わってくるのは面白いんだけど、ここがちょっと、あまりにご都合主義すぎてうーんとなってしまった...

「名探偵は事件を呼び寄せるもの」的な屁理屈でもいいんだけどさ。でもなぁ。このサイコパス殺人犯が、どうしても作者に都合のいい舞台装置になってしまってて、最後まで引っかかってしまった。

おそらく、最後の飛鳥井と葛城の対決が最初から念頭にあって、そのためにかなりアクロバティックな犯人にしなきゃいけなかったんだろうなとは思うんですよ。

やりたいことは分かる。で、実際にその企みは成功してる。

でも強引さがここまで目につくのはちょっと惜しい気がする。もっと自然にやってくれればなぁ。

 

てかさぁ、つばさもなんで釣り天井下げる相方に久我島選ぶんだよ。釣り天井ぞ。

普通に命預ける相方になるし、館の大きな秘密を明かす相手に、敢えて久我島を選ぶ理由がもうちょっと欲しかった。

一応消去法というか、葛城に見せてあげたかったから田所にも頼めなかった、秘密を明かすことになるから文男達にも言えなかった的な理屈付けはあったけど、いやーそれでも、口止めをお願いして田所に頼むのが安パイじゃない?まぁいいけど。

 

他にも「爪」の犯行動機や動き方を推し量るのはかなりの無理ゲー。本作はミステリとしては読者にとってアンフェアな作品だと思う。

久我島=「爪」を推理する最後の消去法も、「画用紙を畳まず持ってくることができた」「手に灰がついていなかった」で絞っていくわけだけど、どっちの根拠も結構どうとでもなる気がするんだよね…

 

ま、ま、それも最後の名探偵vs名探偵の構図に落とし込むためだと思うんで、多少の強引さは許せる。
「爪」のプライドを挫き、次の犠牲者を出さないためにつばさの死体を弄り、探偵としての役目も「敢えて」果たそうとしなかった飛鳥井、という真相は非常によかった。ここでやっと久我島の言動や飛鳥井の振る舞いの伏線が全て回収される。ここは本当素晴らしい。

ただまぁ、そのあとの葛城との対決というか、主張のぶつかり合いみたいなシーンはちょっと、うーん、やや陳腐というか野暮にも感じた。この辺は個人の好き嫌いもあるとは思う。

犯人を炙り出すために、死体を弄る探偵、前にも読んだことあるからなぁ……そこまで目新しいものではないと思う…

殺人犯を突き止めた探偵が犯人をどうするのか(殺すか殺さないか/私的制裁を加えてよいのかだめなのか)というのも最近読んだ「教室が、ひとりになるまで」の方が上手いこと扱ってくれたし...  

端的に言うと、闇雲に真相を暴くよりは更なる被害者を出さないために場をコントロールできる探偵であるべきだし(コナンでいうところの「犯人を追い詰めすぎて自殺させちゃ意味がない」的な)、一方で探偵であっても犯人に私的な制裁を加える権利はないってことだと思うんだけどね。

 

まぁでも、全体的にミステリライト層に響きそうな出来の良い作品というか(私自身が「THEライト層」)なので、ランキングに入ってくるのはよく分かる秀作だったなぁと言う感じ。

探偵の葛藤はもうちょっと捻っても良かったかも。あと会話がすごい芝居がかってるというか、自然じゃなくてあんま上手くなかったかな...

 

次回作では、鼻っ柱を折られた葛城くんがどう成長してるか楽しみ。文庫落ちした頃読みたいね。