好きなものだけ食べて生きる

日々雑感(ミステリ感想中心)

六人の嘘つきな大学生(浅倉秋成/KADOKAWA)

63.六人の嘘つきな大学生(浅倉秋成/KADOKAWA

総評:★★★★★

オススメ:華麗な伏線回収・どんでん返しを楽しみたい方へ。そして、嘘つきばかりの就活を経験した社会人のあなたへ。就活中に読むことは…お勧めしません。

 あらすじ(引用)

「犯人」が死んだとき、すべての動機が明かされる。成長著しいIT企業「スピラリンクス」が初めて行う新卒採用。最終選考に残った六人の就活生に与えられた課題は、一カ月後までにチームを作り上げ、ディスカッションをするというものだった。全員で内定を得るため、波多野祥吾は五人の学生と交流を深めていくが、本番直前に課題の変更が通達される。それは、「六人の中から一人の内定者を決める」こと。仲間だったはずの六人は、ひとつの席を奪い合うライバルになった。内定を賭けた議論が進む中、六通の封筒が発見される。個人名が書かれた封筒を開けると「○○は人殺し」だという告発文が入っていた。彼ら六人の嘘と罪とは。そして「犯人」の目的とはー。伏線の狙撃手・浅倉秋成が仕掛ける、究極の心理戦。

 

とっくに文庫落ちしたメジャータイトルばかり攻める自分にしては大変珍しく、3月発売されたばかりの新刊を買いました。
いや〜〜〜最高!!好き!買って全く損はしませんでした。

(普段は感想を書いてから2か月くらいは寝かせるのですが)今回は誰かに読んでもらいたくてたまらなかったので、すぐに感想アップしちゃいます。めちゃくちゃお勧めですね。

キャラクターの描写力、全く先の読めない驚きに満ちたストーリー展開、怒涛の伏線回収、
そして数々の就活あるある

就活部分がほんっ...とうにリアルで爆笑しながら読んでたけど、そのリアルさゆえにものすごく引き込まれたんだよね。
その辺の贔屓なしでも星5評価だけど、個人的な就活への思い入れも含めたら星6です。素晴らしい。

因みに今なら以下公式サイトで全体の40%にあたるくらいまで試し読みができる。こんなに読めちゃっていいんですか?

kadobun.jp

 

さて。

いきなりの自分語りでお恥ずかしいが、自分も数年前に、いわゆる「意識高い系」就活をちょっとだけ経験した。そんな身からすると、まぁ〜〜〜よく書けてるなと。大変共感しながら読みました。

今時の就活ってこんなだよね~!いるいる、こんな就活生!!笑 最終選考まで残る6人って、こういうタイプよね!ああ、その気持ち、わかるよ〜〜〜!!みたいな。

あとこういう意識高い系を装った大学生を見ていると、当時の自分を思い出してめちゃくちゃ恥ずかしいです。笑

おまけに私は初配属先が人事課で、採用直後にこうした面接の裏側を知り、なかなか考えさせられたというクチだったので、全体的に身につまされました。

 

とまぁ、自分はガッツリ就活生側としてめちゃくちゃ感情移入して読んでしまったが、もっと世代が上の人やこのタイプの就活はしなかった人、もしくは学生さんだとあんまり面白がれないのかもしれない。逆に、全然知らない世界として楽しく読めるのかな。ちょっと興味ある。

この本を読んで感じたんだけど、就活ってちょっとしたお芝居みたいなところがある。就活生も面接官も。それを上手いことミステリに落とし込んだ感じで「ああ、この手があったか」といった感じ。

 

それにしても、この作者は2010年代くらいに同じような就活を経験した人なのかな。もし非経験者にもかかわらず、非常に入念な取材によって、これだけの「ありがち意識高い系就活生」を描けたのであればお見事としか言いようがない...

 

就活部分に焦点を当てすぎたが、冒頭で述べた通り普通にミステリとしても非常に秀逸な作品なので、単行本で買うのに抵抗がないなら是非とも買い。構成力が本当に巧みだったので、この作者の他作品も読んでみたいなぁ。

(21/03/28追記)即日買って読んだわ!!とりあえず本ミス候補になった作品を手に取ったけど、この人こういう作風なのね。はぁ~~~なるほどなるほど。

zakkan0714.hatenablog.com

 

なんか王様のブランチでも紹介されて、早くも三刷らしいすね。すげえや!(しかし納得ではある)

 

六人の嘘つきな大学生 (角川書店単行本)

六人の嘘つきな大学生 (角川書店単行本)

 

 


※以下、ネタバレあり感想

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


まずもう、展開が早いのにビックリした。

目次をさらっと見て「ほーん、二部構成で「就職試験」と「それから」か...最後の20ページくらいで「それから」が始まってどんでん返しな結末かな?」とか思ってたら、
中盤くらいで容疑者全員のインタビュー終わるし!
「犯人」=波多野省吾 とバラしちゃうし!!
「それから」部分、予想以上に分量あるんだが?!!!???これから何が始まるんだ!!!

と、完全に予想を裏切られた。

ダラダラ間延びした部分がほとんどなく、もうページを繰る手が止まらんわけですよ。

各キャラクターの描き方も多すぎず少なすぎず、特に前半はほんっとちょうどいい感じに「引っ掛かる」ポイントを要所要所に散りばめながら、事件は一旦の収束を迎える。

 

そして、第2章からは内定者=インタビュワーたる嶌に視点が移る。

あんなに熱望していたステラリンクスでの仕事は...学生時代に想像していた「かっこいい社会人」は...... この辺の落差めっちゃ分かるんだよなぁ。新興や外資の意識高い系企業に限って変な面接してみたり変わった質問投げてみたりで人を計ろうとするけど、中に入ったら普通にサラリーマンで、就職試験ってなんだったんだろう?と呆然としてしまうという。

で、こういうステラリンクスみたいな「倍率高くて厳しい面接を生き残ってやっと内定もらえる企業」に限って、あれだけ死に物狂いで内定を得てきたサバイバー達は、魔法が解けたようにさっさと転職しちゃうんだよね......(弊社もそんな感じですわ...)

就活生から見たら「すごく偉い人、立派な人、合否を決める神様みたいな人」に見える人事担当者も、実はただの人だということを実感したり(考えてみたら当たり前なんだけど)。

 

波多野の訃報を契機に、完全に忘れつつあったあの日の採用試験を再調査する嶌。この辺の二転三転も面白い。

一面的には「優秀そうな学生」で就活強者、調べてみたら「月の裏側」が見えて優秀そうというのは仮面だったことがわかり、しかしもっと背景を調べてみたら、そうした「月の裏側」もまた一面でしかなかったわけでーー...

インタビューの部分、読み返すたびに印象が変わって見えるのがうまいよね。インタビューされた4人の大学生は全員「自分を卑下して悪く見せてる」ところがある。日本人っぽいなぁとちょっと思った。

そしてこういうムーブって、就活の時にはおくびにも出せないけど、同僚になったあとに見せてしまう側面なんだよね。「いやぁ、就活の時はあんなカッコつけちゃったけど、実は大したことじゃなくてさ...」っていう。

そういう「ちょっとした決まり悪さ、おどけた感じ」も持っていたのがあの6人だったんだなと。ああ、愛おしいなぁ。

6人で同僚になってるとこも見たかったね。波多野が亡くなってしまっているのが、つくづく寂しく思う。就活用の仮面も、その仮面の下の顔も、全部含めて「いい同期」になれた6人のはずだったんだ。

冒頭でグループワークしてるのを見ていても、「俺たち、いいチームになれそうだよな」がすごくよく分かる。遊びじゃなくて仕事だから、採用は1人なんだから、6人がチームになることはできないんだけど、せめて波多野が生きている間に誤解が解けて6人が集まることがあったなら......就活中にできた「人脈」なんて大抵2度と顧みないものだけど、この6人は同窓会くらいしたら盛り上がったんじゃないかな、と...

...この辺めっちゃ個人的な思いが入ってしまった。いやもう、私、頑張ってる就活生とか、その一時的だけど切実な気持ちとか絆に弱いんですわ...エモ……就活生はミステリなんか読まずに頑張ってね…

 

トリック的な話。

叙述トリックがあるだろうなぁというのは冒頭からビンビンに感じていた。

素直に、インタビュワー=内定者=波多野 は有り得んやろなぁというのはミステリ読みなら大体想定内だろう。自分は矢代のインタビューらへんで、インタビュワーは女性かつ障害者では?とヤマを張った。

 

●矢代が帰りの電車で優先席に座る/九賀インタビューの時に障害者用駐車場に停めている
→マナー違反をする二面性としての描写にしては、ちょっと偏りを感じて不自然。メンバーの中に障害者がいることを示唆?
→「インタビュワー=内定者=障害者」と考えると上記の行動は納得がいくし、袴田が「野球をしている小学生を怒った」のも「ボールを瞬時によけられないような障碍者が近くにいた」と考えれば納得がいく(ここは結果的には間違いだったけど、まぁ着眼点は近かったよね)

 

●矢代インタビュー時、話し振りがどことなく開けっぴろげ/生理の話を気楽にする/男に貢がせるんだよと言った発言
聞き手は女性では?(矢代自体がオープンな性格であることもあるので、このあたりはちょっと勘もあるけど)


●こうした気づきも踏まえて冒頭も読み返し、

僕は歩くペースを嶌さんに合わせ、他の学生にも少しゆっくり歩きましょうと告げる。

の部分から 嶌=障害者 説にかなり確信を得る。

 

ということで、インタビュワー=内定者=障害者=嶌 と推理。

ただ、障害のレベル・種類までは正確に当てられなくて、最初は車椅子なのかなとイメージしていた。「就活生に大人気のトップ企業、優秀な内定者」という事前情報的に「車椅子の女子学生」は盲点になるかなーと思って。

そしたら、2章に入ってから、嶌が波多野妹に会いに行くシーンで

座布団は苦手だったので断りたかったのだが、気を遣わせるのも本意ではなかったので勧められるまま座り込む。

という描写があり、「歩行に支障がある人」レベルに推理を修正。うーん惜しかった。車椅子説は結構自信あったのになぁ。

ただ上記まではわかっても真犯人が結局分からなくて、一章冒頭を読み返し、六人がスピラリンクスから帰るシーンで、

そんな強迫観念にせき立てられながらファミレスに向かって何歩か進んだところで、僕は六人の中に一人だけ見知った顔がいることに気づく。

を根拠に「自分を除けば五人なのに「六人の中に一人だけ」とは...?」と思って、六人の学生以外にもう一人いるんじゃないか(分からんけど人事のメンターとかがくっついて回ってんのかな〜)とか疑ってました。いやそれ、ロートレック荘事件(ネタバレ回避、1990年刊行のミステリ)でもうやったから。笑

 

あと多分最後まできちんと暴かれていないのが、波多野という人間の謎。

「ん、なんだこれ」こちらに背を向けたまま、ケースの中からソフトを一本取りだす。ヨウイチって誰だ?」

「ヨウイチ?」

「ソフトに名前が書いてあるんです」波多野芳江は振り返ってソフトの一つを見せてくる。カセットの裏面には確かに子供の拙い筆跡で『ヨウイチ』という名前が記されていた。

「さては、返し忘れてるな…ほんとあの人、小さい頃からこういうところあるんですよね」

「はは」

笑いながら、どうしてだろう。私は何やらうっすらとした不安の香りを覚える。

 カギカッコのミスは原文ママ

これは波多野が自ら告白した、「自分の罪は、小学生のときに友達から借りたスーファミのソフトをそのまま返しそびれていることくらい」というやつだろう。しかし、それにしては、嶌がなぜか「うっすらした不安」を覚えているのが引っかかる。

九賀は、波多野も含めて、全員が「ろくでもない秘密」を抱えていたと言った。

波多野の秘密は何だったのだろう。手掛かりが少なすぎてはっきりしたことは推理できないが、なんとなくこのゲームソフトにまつわることのような気がしている。

ずっとテレビゲームをしていた波多野。例えば小学生の頃、意図的にソフトを「返し忘れ」=盗んでいた とかだろうか。

うーん。でもそれなら、波多野が5人の前で罪の告白をしたとき、九賀は微笑んでおしまいってならない気がするんだよね。私の読み落としだったらすみません。

 

いずれにしても、前半の「信頼できない語り手」波多野の描き方は実に見事だ(実際には、波多野は犯人ではなかったので、もっと信頼して読んでよかったわけですが笑 めちゃくちゃ叙述を疑っちゃったよ~)。

最後の最後で発見される封筒。犯人だという罪を被って逃げたことすら「内定を得た嶌の秘密をスピラリンクスに教えるため」だったなら...これまで波多野が提供してきた情報は、あの手紙は、どこまでが本当でどこまでが彼の真意だったのかーー...

根拠はないけど、波多野が結局スピラリンクスに告発文を送らなかったのは、本来「告発文を送ること」までが九賀の企みで、それに波多野が気づいて実行をやめ、4人の「月の裏側」調査をしたんじゃないかと思っている。5人を入念に調べた九賀なら、「腹黒大魔王」と呼ばれていたことくらい知っていたはずなのに、最も強敵になりそうな波多野に、何故これまた手強そうな嶌の秘密をもたせたのか。

波多野の醜いところを見せるには、告発文を書かせることが一番だと思ったから...というのは九賀を評価しすぎだろうか。笑

 

まぁしかし、慶應総合政策学部が湘南藤沢キャンパスにあるとか、下戸でスミノフがお酒だと分からなかったとか、面白い論破ポイントがあって良かったな。でも慶應のイケメンがお酒の銘柄も知らないとか、ある?(偏見)

各学生の出身大学(慶應、明治、お茶女、早稲田、立教、一橋)も「分かる〜!!!いそう~~笑 学歴で勝負しない就活強者ってコミュ強なんだよな~~~!!!なんやかんやで東大生残らないのもスピラリンクスならありそう~~~笑」って感じだった(ちょっと失礼かもしれない)

しかし、一歩さじ加減を間違えればつまらないイヤミスになりかねず、かといって「やっぱ全員いい人達ばっかでした」なんてお花畑なエンディングも白けてしまうところ、相良ハルキの伏線回収、「腹黒大魔王」のどんでん返しも含めて、バランスの良い着地点だったと思う。

題材が個人的大ホームランだったというのもあるけど、こういう密室劇みたいなミステリはもっと読んでみたいすね。