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日々雑感(ミステリ感想中心)

七つの海を照らす星(七河迦南/東京創元社)

57.七つの海を照らす星(七河迦南東京創元社

総評:★★★☆☆
オススメ:周到な伏線と魅力的な謎で構成された技巧派ミステリ。ハートフルなお話が好きな方へ。

 あらすじ(引用)

家庭では暮らせない子どもたちの施設・七海学園で起きる、不可思議な事件の数々。行き止まりの階段から夏の幻のように消えた新入生、少女が六人揃うと“七人目”が囁く暗闇のトンネル…子どもたちが遭遇した奇妙な事件を解明すべく、保育士の北沢春菜は日々奮闘する。過去と現在を繋ぐ六つの謎、そして全てを結ぶ七つ目の謎に隠された驚くべき真実。第18回鮎川哲也賞受賞作。

 

めちゃくちゃ上手なんだけど、ただただ好みではなかった。
解説にも書かれてる通り、本作がデビュー作とは到底思えないレベルに綺麗にまとまった作品で、一般的には高評価の部類だと思う。
仕掛けの作り方も「そこに仕込む?!」みたいなものがあって、一読の価値はある。

 

が。

本当に完全に個人的な趣味でいうと、ちょっと物足りなかったんだよね…すみません…

 

①まず、人が基本死なない。
全体的にいわゆる「日常の謎」系ミステリ。1話だけ作中人物が謎の死を遂げる話があるが、それぐらい。
やっぱミステリは変死体が現れてこそでしょ!!!と思っている人にはちょっと向かないかと思う。

 

②本作はハートフルミステリ。

児童養護施設が舞台なので、まぁ仕方ないといえば仕方ないのだが、あまり悪意が存在しない。読後ほっこりする感じ。

ミステリに暖かさとか求めてねーから!!!ギトギトした悪意が読みてーんだよ!!という悪趣味な自分と同じタイプの読み手には元から向いてないですね、はい。

 

③②にも関わるが、文体がなんというか...軽やか優しい感じ...なんだよね...

いやこれは本当に好き嫌いの話なんだけど、なんか個人的にこの手の文体が得意でなくて。会話文とかも妙に芝居掛かっててリアルじゃないんだよなぁ。

読みにくいとかはないし、②と合わせると雰囲気はあってるんだけど。

 

まぁ要するに、謎を解明することで悪巧みとか汚い心が露呈してしまうところが見たいんだぜ!!ヒャッハー!!!という人にはオススメしないです。
なんだろう、普通に青春小説?的な爽やかなものが読みたい人には合ってると思う。
ラストの章とか群像劇の総集編みたいなシーンがあるんだけど、その辺巧みなんですよ。
ただ私にとっては蛇足にしか見えなかったので、本当に好みの違いとしか。あんまり動機の掘り下げに興味ないしなぁ。

上げてるのか下げてるのかよく分からない感じになってしまったが、上質なミステリではあるので好きな人は大好きだと思う。

 

 

 

 

 

※以下、ネタバレあり感想

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


例によって、叙述トリックを使ったミステリを求めて購入した一冊。

ネタバレなし感想で散々書いた通り、趣味に合わなかったのだが、叙述トリックの面でも「うーん...」という感じになってしまった。いや、やっぱ求めてる方向が違っただけなんだけど。

 

「血文字の短冊」の叙述は、まぁ古典的といえば古典的で、なるほどね、くらいだった。目新しさはない。

三単現のsやランさん等の伏線は綺麗だが、「Ai hates Sara」の誤認はちょっとずっこけた。

大オチの佳音=直も確かに凄いと思う。ただ、カタルシスまでいかなかったのはまぁ...やっぱり好みかなぁ...

いや伏線回収は見事だし予想してない方面でのオチだったのは確かだったけど。それぞれの謎にちょっとずつ残されていた疑問が全て直に集約されていたし、美しい。

あとは回文の伏線と作者名のヒント。ここはちょっと気づいたけど、でも佳音の正体にまでは至らなかったので、隠し方としては上手い。

 

いや〜〜〜でもなんだろう、綺麗だね、おしまい、ってなっちゃうのが、うーーーん...
人物描写が薄っぺらいとかそういうところに帰着するのかな...自分でも本作が合わなかった理由が謎なんだけど...

 

取り敢えず、七河迦南はしばらく読まない気がする。すげー上手というか器用な人だなぁとは思うので、ドロドロで人が死にまくる話だったら手に取るかも。
回文ミステリといえば泡坂妻夫が書いてたよなぁと思い出したので、気が向いたらそっちも手をつけてみます。

(読みました。「喜劇悲奇劇」でした。そのうち感想アップします)