47.弥勒の掌(我孫子武丸/文藝春秋)
総評:★★★★★
オススメ:シンプルに騙されたいあなたへ。同作者の「殺戮にいたる病」を楽しめたなら、次はぜひこの作品を。
あらすじ(引用)
愛する妻を殺され、汚職の疑いをかけられたベテラン刑事・蛯原。妻が失踪して途方に暮れる高校教師・辻。事件の渦中に巻き込まれた二人は、やがてある宗教団体の関与を疑い、ともに捜査を開始するのだが…。新本格の雄が、綿密な警察取材を踏まえて挑む本格捜査小説。驚天動地の結末があなたを待ち受けます。
めっ...ちゃ面白かった......
新興宗教絡みのミステリが読みたくて手に取ったけど、さすが我孫子というか、尋常じゃない文章力と世界を崩壊させるカタストロフィを帯びたドンデン返し、後味の悪すぎるラストと、完璧に"""自分の読みたいミステリ"""だった......これだよこれ、こういうのが好きでミステリ読んでるんですよ…
我孫子はやっぱり「殺戮にいたる病」が有名だけど、個人的にはこっちももっと有名になって良い気がする(リンク先は以前書いたレビュー)。
伏線の周到な張り方は殺戮〜のが上手いけど、弥勒の掌はなんていうか、直接的なグロはないのにじわじわ怖さが迫ってくる感じが気持ち悪くて良かったなぁ......
読了後にもう一度読み返したくなるタイプの一冊。
※以下、ネタバレあり感想
これも叙述かーい!!!っていう。笑
いや、でも殺戮もそうだったけど叙述の仕掛け方がめちゃくちゃ上手いよね。いわゆる「一人称の誤認」みたいなものではないし(一人称視点がほぼないから完全に叙述は予想外だった)。
物語の終盤までいっても事件に絡みそうな新しい登場人物が全く増えないので、「どういうことだ?」と思ったら、まさかの「お互いがお互いの妻を殺していた」というオチ。
さっき叙述トリックって言ったけど、いわゆる「読者だけを騙すための、地の文に隠されたアンフェアな記述」は結構少ない。
①蛯原によるひとみ殺し:類似の事件を引き起こすことで自分の追っている事件の真相を求めようとした。
(※以下の白字は国内ミステリのタイトル・漢字3文字)聯愁殺(ここまで)じゃん...
これは割とフェアだし叙述でもないと思う。蛯原は辻にこのことを明示的に隠そうとしていたわけだし。
②辻による和子殺し:千秋=和子が隠されていた。
ここ、章の順番が「二章 刑事」(和子の死体発見)→「三章 教師」(辻が千秋と再開)となっているのがずるい...!と思ったが、きちんと章の頭に日付が出て来るのでフェアなんだよね...
なので「千秋と和子を別人と誤認(読者だけでなく辻も)」「和子の死んだタイミングの誤認(読者のみ。ただし上記の通り明確なヒント有)」というのが作者のしかけたトリックなわけだが、それにしても伏線がとにかく巧みかつフェア。
作中でもあった通り、和子殺しは「汚職警察官の妻が殺害された」という報道を忌避して大々的な報道にならなかったので、辻の誤認が成立する。また、子供達と千秋和子は年齢が近く再婚であるため、普段は「お母さん」ではなく「和子さん」と呼ぶ。
いやもう...これだけ堂々とヒントを眼前に提示しておきながら、こんな綺麗に騙されるとは...さすが我孫子武丸としか言いようがない。くそ~~~~。
最後のオチも気持ちが悪くて最高。
茂木を殺して「救いの御手」の幹部として、新しい名前をもらって入団する...
悪が一切裁かれないまま終わり、辻も蛯原も全く救われないバッドエンド。
我孫子はもうちょっと他にも読んでみたいなぁ。