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日々雑感(ミステリ感想中心)

痾 (講談社文庫/麻耶雄嵩)

33.痾 (講談社文庫/麻耶雄嵩

総評:★★☆☆☆

オススメ:麻耶ミステリが好きなら読んでもいいのでは。

※『翼ある闇』『夏と冬の奏鳴曲』のネタバレを含む作品です

 

あらすじ(引用)

破局のショックで部分的記憶喪失に陥った如月烏有は、寺社に繰り返し放火して回復を企る。だが焼け跡には必ず他殺死体が発見され、「次は何処に火をつけるつもりかい」との脅迫状が舞い込む。誰が烏有を翻弄しているのか。烏有に絡む銘探偵メルカトル鮎の真の狙いは。ミステリに遊戯する若き鬼才の精華。

 

うん......うーん、難しいなこれ...

正直なところ、文章がまだ下手くそだなと思うし、話がかなり冗長で中盤は読み飛ばしてしまった。

ただ、本書はメルカトルと木更津が出て来るのでこの2人の名探偵(銘探偵)のキャラクターや違いを楽しむのはとても面白かった。

あ、この作品には『翼ある闇』の重大なネタバレがあるので、絶対にそちらを読んでから本書に取り掛かることをオススメします。クロスオーバーがあることは知ってたけど、まさかこんな酷いネタバレが作者自身によってされてると思わなくてかなりびっくりした。まぁ『痾』の方が絶対に入手困難だから、先に読んでしまうことは少ないと思うけれども...

 

追記)その他感想サイトを見ていたら、『夏と冬の奏鳴曲』のネタバレもあったようです。私は読んでなかったので、「え、あれネタバレなのかよ...」と今愕然としています。

オイオイオイ麻耶雄嵩〜、初心者殺しにもほどがあんよ〜。そりゃ発刊順に読まない私がバカだったけどさ…

しかも、『翼ある闇』は電子書籍化もしてるしまだ手に入りやすいけど、『夏と冬の奏鳴曲』はめちゃめちゃ稀覯本なので読みたくても読めないんだよね。早く読みたい...

 

話を戻して、本作の評価だがかなり微妙だと思っている。

ラストの1/10以外は文句なしに星2ぐらいなんだけど、最後がいかにも麻耶雄嵩節が効いているインパクトある話だった。ので、星3つけようか迷ったけど、まぁ客観的に見たらやっぱり星2かな。自分みたいに麻耶雄嵩コンプリートしようと思ってるなら絶対読んだ方がいいけど、そうじゃない人に勧めたいかというと、うーん...うん...勧めないかな...

ミステリ部分はかなり突飛で推理はまず出来ないし、文章が下手(二回目)。

メル、木更津ほどではないにせよ、烏有がなかなかアクの強いキャラなので話を引っ張って行ってくれる点は評価したいが、ピブルの会などの延々本題と無関係な雑談が続くところは好みが分かれると思う。私はキュビズムの解説とかも楽しく読んだけど、冗長さの所以でもあるので。

初期麻耶って本当にマニアックなもの書いてたんだなぁ。この人が後に貴族探偵書いてドラマ化されるとか誰も予想しないよね...

 

痾 (講談社文庫)

痾 (講談社文庫)

 

 

 

※  以下、ネタバレ感想『翼ある闇』や『夏と冬の奏鳴曲』の真相に関する話は一切ありません

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放火をする烏有と、それに合わせるかのように湧いてくる謎の死体という組み合わせが独特。

「何故、気まぐれに放火しているにもかかわらず、殺人犯も放火の場所をリアルタイムで突き止めてそこに死体を転がすのか」を明らかにするため、犯人が探偵役に回らざるを得ない構成が面白い(犯人が真犯人を突き止めるためにいやいや探偵役に回る構成は『ハサミ男』っぽいよね。やはり麻耶はメフィスト賞作家だったか(?))。

ただ、冒頭でも述べた通りミステリ的には全く合理的でない真相なのがとても残念。

烏有の放火も香山の殺人も、わぴ子の絵によって誘発されたものだったから同じ場所を殺害場所に選んだというのは、かなり無理がある。B級ホラーかな?って感じ。

しかもそんな風にわぴ子が絵を描くようになったのは、巫女神の絵がきっかけというのも、うん...まぁ巫女神も実験だとか認めてるとはいえ、直接わぴ子に何かしたわけでもないのに「殺してやる」は烏有さんちょっと逆恨みしすぎでは......なんか、このへんの突拍子もなさは田中芳樹の「薬師寺涼子の怪奇事件簿」を思い出した。合理的なミステリを麻耶に求めちゃダメってことなんかな...まぁ初期だし尖ってるよね...

面白かったのは、ラストの怒涛のキャラ退場。烏有さんに関する人が片っ端から死ぬ。死神かよ。藤岡まで死んだのはなかなかショックだった。あと、『翼ある闇』の結末をここで持ってくるのも唸った。

銘探偵を引き継いだ烏有の活躍を見たいんだけど、続編あるのかなぁ。