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日々雑感(ミステリ感想中心)

夜よ鼠たちのために (連城 三紀彦/宝島社文庫)

42.夜よ鼠たちのために (連城 三紀彦/宝島社文庫

総評:★★★★★

オススメ:他で類を見ない珠玉のトリックばかりの短編集。読むと他の人にも読ませたくなる作品。

 あらすじ(引用)

脅迫電話に呼び出された医師とその娘婿が、白衣を着せられ、首に針金を巻きつけられた奇妙な姿で遺体となって発見された。なぜこんな姿で殺されたのか、犯人の目的は一体何なのか…?深い情念と、超絶技巧。意外な真相が胸を打つ、サスペンス・ミステリーの傑作9編を収録。『このミステリーがすごい!2014年版』の「復刊希望!幻の名作ベストテン」にて1位に輝いた、幻の名作がついに復刊!

 

おっもしろすぎた。短編集なんだけど、一編一編が短編のレベル超えてる。ラストの1話だけなんか雰囲気が違うので、うーんって思ったけど、それ以外は全部傑作。よくこんなに捻ったトリック思いつくなぁ...天才か…

連城作品は初めて読んだけど、今まで知らなかったのが恥ずかしいくらい。感想ググったら泡坂妻夫と比較してる方がいたけど、確かに「同時代」「短編の名手」「読みやすいスッキリした文体でありながら、他に類を見ない鮮やかなトリック」が似てるかな。

でも、この短編集は亜愛一郎シリーズなんかと違ってどことなくジメッとした感じがあって、それがまた良いアクセントになってるんだよね。

人物の心情の追い方なんかも丁寧で、どの作品も割り切れない男女関係や愛憎が上手く描かれてる。だからどの作品のキャラクターもすごく生き生きしてて、普通に小説としても傑作ばっかり。

あと、9作も収録してるから言っちゃうけど、新本格っぽさもあって良い。ていうか、しちめんどくさい物理トリックとかはないです(物理トリック嫌いな奴)。すっきり騙しにきてくれる。

個人的なベストタイトルはやっぱり表題作の「夜よ鼠たちのために」かな。タイトルも綺麗だし。次点として、「二重生活」「代役」も好き。

 

夜よ鼠たちのために (宝島社文庫)

夜よ鼠たちのために (宝島社文庫)

 

 

 

 

※  以下、ネタバレ感想

 

 

 

 

 

 

 

 

いやーーー、どこでこの本紹介されてたのか忘れてたんで、まさかまさか叙述トリックがくるとは思わなかった

全体的に、人物同士の思惑が噛み合って騙した者が騙されて...っていう雰囲気が面白かったなぁ。ドンデン返しのやり方がユニークで、星新一感もあった。いや、ほんと、鮮やかなマジックを見せられてるみたいで、これぞミステリの醍醐味って感じだった。

あと、「夜よ鼠たちのために」以外は映像化できそうだし、見てみたい。

以下、簡単に個別感想。

 

「二つの顔」

初っ端から重いパンチを食らわされた作品。もうね、いきなり提示された謎が魅力的すぎる。「さっき自分が殺して埋めたはずの妻が、なぜ全く同じ殺害方法で新宿でしたいとして発見されたのか?」...舞台設定が見事すぎる。

で、話が二転三転するのも良いね。途中の謎解きまで「信用できない語り手」パターンか...???いやそれはずるくない??って焦りました。

でもまぁ、登場人物が少ないんであからさまに弟が怪しかったのはしょうがないかな。

あと「兄さんは本当に子供みたいに何でも信じちゃうんだね」って語りがなんかぐっときた。主人公にとって弟は堅実実直でまさか殺人を犯すような人間じゃなかったけど、実際の弟はそうでもないっていうね。他の作品でもそうだけど、Aから見たBと、Bが思っているBに、齟齬がある話が多くてリアルだなぁと思った。

 

「過去からの声」

二重の誘拐事件が発生していたというオチ。上手いなー!!!って思わず唸ったね。いやもう、お見事。

そのトリックだけでも十分傑作級なのに、語り手である刑事がそれに気づいたギミックとして昔誘拐されたことがあって...という話が上手い。懐いていた先輩刑事、自分が警察を辞め故郷に帰ろうとした時「逃げるのも良い」と言った優しいおやっさんを、昔の誘拐犯と重ね合わせるあの回想シーンがほんと綺麗。

 

「化石の鍵」

基本的にどの作品もビターな終わり方をする本作品集においては珍しく、救いのある終わり方をする話。

でもちょっとトリックがチープなのは残念かな。いくらなんでも鍵屋さんだったら昔のドアノブにすり替えられてたの気づくのでは??

化石の蝶々がひらめくシーンが幻想的で美しいのと、タイトルも秀逸。

 

「奇妙な依頼」

このあたりから、この作品集の真髄が滲み出てくる感じ。以下、p183から引用。

〜二人を自由にし、二人に接触の機会を与えようとした。妻のことなどどうでもよかっただろう。土屋の興味は、三時間の妻の行動ではなく、残り二十一時間のオレの行動にあったのだ。

〜それは、オレが三年間で受けた最もおかしな依頼だった。

犬のような悲しい目をした男は、二週間前のあの土曜の午後、オレに調査するよう依頼しにきたのではなく、調査されるよう依頼しにきたのだった。

重要ですよ、と見せかけたロープの片端ではなくて、もう片端でこそトリックが行われている、手品みたいなミステリ。この「反転」こそが本作品集のテーマだと思う。

あと、二重三重スパイに巻き込まれるのも展開として上手いよね。いやもう語りようがないくらい傑作。

 

「夜よ鼠たちのために」

傑作揃いの中でも一際目立つ作品。いや、冒頭から叙述トリックしかけるのに向いてるなとは思ったけど、綺麗に騙された。なるほどなぁ。

散々叙述トリックは読んできたので、正直短編レベルで仕掛けられる叙述トリックは多分見破れちゃうんだよね。露骨すぎて。例えば、本作品の場合は

①妻の名前をわざと隠している

②語り手部分があからさまに地の文とリンクさせており、そのままだと謎解きにならない

という2点から叙述トリックでまず間違いないと踏める。のだが、ミスリードがまた巧みなんだよなぁ。

a.妻を殺されたことへの復讐だと読める→実はまだ生きていた

b.腕の傷が残っている+幼年期のアダ名が「ダボ」→実は偽証していた

特にaが見事だよね。ワイダニットってあんまり好きじゃないんだけど、本作は絡め方が上手いなぁ。

にしても、病院側も事故を隠蔽するためにわざと白血病を発症させるとか、いやぁよくできた構成だよね...読者的には「病院=病気を治すところ」って思い込みがあるから、わざわざ病気にさせるなんて発想がなくて、伊原の動機にたどりつかないという。

ただまぁ一つ難点を挙げると、孤児院での記録を調べれば「ダボ」って呼ばれていたのが本当はどちらなのかばれちゃうんじゃないかって事かな。実際に警察側も真相に辿り着いちゃってるし、ツメが甘いといえば甘い。

 

「二重生活」

これ好き。1行でドンデン返し系。完璧すぎて語る事あんまりないやつ。

若くて夜の仕事をしていてマンションに住んでいる方が、まさか本妻だとは思わないよね。そして浮気相手の方が本宅に住んで、妻を名乗り、堂々としてるという。文章が巧みでミスリードが見事。にしても修平はクズすぎる。

 

「代役」

これもねー、唸ったなぁ。全部見事見事言ってるんだけど、この作品も盲点をついた綺麗なミステリだと思う。現実離れしたアイディアって意味ではリアリティには欠けてるので、ちょっと星新一っぽいと思ったけどどうですか。

「奇妙な依頼」同様、こっちがメインですよと思わせておいて実はその裏っかわでトリックが行われていたという話。以下、p.326より引用。

〜二週間前、俺はこの男を、俺の代役に雇った。しかし代役は俺の方だったのである。俺がーー日本中の女に愛され世界的にも名を売った支倉竣が、この俺が、一人の男の、誰も知らない、通りを歩いても誰の視線にも引っかかりそうにない、一人の男の代役を演じ続けていたのだ。

大トリックだよね。どうやったら思いつくんだこんな話。

補強するかのように、支倉が非常に自尊心が強く自分のタレント性に自信を持ってることや、支倉が今まで愛してきた女が全員身代わり男の方にこそ心惹かれていたことなんかがいいスパイスになっている。サインまでこの男がオリジナルだったとか、連城先生はとことん突き落とすなぁ。

 

「ベイ・シティに死す」

ハードボイルド感。大きなトリックはないけど、一抹の寂しさや悲哀を感じる作品。

 

「ひらかれた闇」

最後の最後にアレなんだけど、この作品だけ雰囲気違いすぎてずっこけた。しかも読みにくい。うーん。まぁ毛色の違う作品も書けるってことなんだろうけど、じめっとした話のが好きだなぁ。これも真相に関わる人間関係はちょっとびっくりしたけど。

 

 

以上!

コインの裏表って感じのミステリだったかな。冒頭でも述べた通り、これは人に勧めたくなる作品。