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リラ荘殺人事件 (鮎川哲也/角川文庫)

34.リラ荘殺人事件 (鮎川哲也/角川文庫)

総評:★★★★★

オススメ:古典作品といって敬遠するなかれ。ミステリ初心者にもお勧めできる、王道の一冊。

 

 あらすじ(引用)

埼玉県と長野県の境近く、かつては個人の別荘であった寮「リラ荘」を、日本芸術大学の学生七名が訪れた。その夜、橘と紗絽女の婚約発表に、学生たちは心のざわめきを抑えられなかった。翌日、リラ荘そばの崖下で屍体が発見される。横には死を意味する札、スペードのAが。そしてスペードの2が郵便受けから見つかり、第二の殺人が起こる。事件は連続殺人の様相を呈し、第三、第四の殺人がー。本格ミステリの金子塔を復刊!

 

めっちゃくちゃ面白かった。すごい。なんだこれは。

鮎川哲也の名前は勿論知っていたが、なんというか賞にまでなるくらいだから古典すぎると思って、食わず嫌いしていたのを心から恥ずかしく思った。鮎川大先生はすごいぞ

文体は古めかしいものの、キャラクターはがっつり描写されているのでちゃんとシーンが想像できるし、それでいてトリックや推理も無理がない。うーん。正直非の打ち所がなさすぎて感想も書けないくらい。取り敢えず読んでくれとしか言いようがない......

とてもフェアな作品なので、多分読者にも推理可能なミステリなんだけど、私は犯人当てには完全に失敗した。難易度は高いと思う。

いやー、前情報なしで読んでほしいなぁこれ、正統派なのに展開が凄まじいからびっくりするんじゃないかなぁ。鮎川先生の他の作品も手出したいところ。

 

リラ荘殺人事件 (角川文庫)

リラ荘殺人事件 (角川文庫)

 

 

 

 

 

※  以下、ネタバレ感想

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

予想以上に死にまくったのがまずびっくりだった。

炭焼きの須田佐吉に始まって、毒殺された松平、刺殺された橘、犯人に感づいたため殺されたお花さん、トリックの肝となったばっかりに殺された行武、犯人当てをやるぞと息巻いて殺された二条、そして最後の尼リリス殺しで7人だもんなぁ。

集まった学生も7人だったから、容疑者が減りすぎるのも困るだろうしせいぜい3人くらい死ぬのかと思ったら、予想以上に部外者が死にまくるんだもん。サービス精神旺盛すぎる笑

で、たくさん事件が起きると謎が散漫になりがちで読者が置いてけぼりになりやすいのに、刑事を通じて「どこがポイントか」整理してくれるから、長編の割に読みやすくてそこも良かった。謎をざっくりまとめると以下の通り。

①何故トランプを置くのか

②動機は何か

③松平を毒殺した方法

④橘殺しに関するアリバイ崩し

こうまとめるとかなりシンプル。②③が特に犯人当てに絡んでくる部分。

 

①何故トランプを置くのか

これは一番ピンときた。ミステリの定番通り、「殺害順序の誤認」及び「本来犯人は複数いるのに1人に見せかけるため」。松平に毒を盛れそうなのが我孫子しかいなかったり、東京に戻っていた日高に鉄壁のアリバイがあったりするので、まぁ複数犯しかないかなとは思っていた。

でも、別のトランプを買いにいってたとは思わなかったなぁ...上手い。

 

②動機は何か

佐吉殺しが一番謎だったんだよね。

レインコートを着てたから尼か松平と誤認したんだろうって結論してたけど、いやそれ雑すぎない?って思ってて、何となく引っかかってたらやっぱり最後にひっくり返してきた。上手い。最初の事件はただの事故だったのに、あたかも殺されたように装うことで、捜査を撹乱させたわけだよね。

①で見た通り、途中から犯人交代したんだろうなと思ってたので、その後の動機はあんまり真面目に考えてなかったけど、松平・橘殺しが本命で、残りのお花さん、行武、二条は成り行きで殺したっていうのはなかなか凄惨だなぁと思った。尼リリス、やりすぎだろ...

最後の尼リリス殺しに関しては、日高の我孫子への想いがちょっと切ない。まぁ、最近まで橘に懸想してたのが同情心から我孫子へ気持ちが移ったっていうのはなんかちょっと、動機が薄い気もするけど。

 

③松平を毒殺した方法

我孫子しか混入できそうな人がいなかった。ミステリの王道として、「○○にしかできない犯行」ってすぐわかる場合、その人物はスケープゴートなんだよね。だって、犯人だってすぐ分かるような犯行をするわけがないから。そんなバレバレのことはしないだろっていう。

私は最初、松平の犯行だと思ってた。尼を殺害しようとしたのに間違って飲んだのかなぁみたいな。でも尼が先に一気飲みしたのを松平が見ていたことから、ちょっと無理あるな...と思って諦めてしまった笑 

いやー、ヒ素毒だから普段から慣れておくことで自分が毒を飲んでも大丈夫なようにしてたとかさ、そういや古典ミステリの鉄板だったよね。くそぅ、これは当てれた気がするのでめっちゃ悔しい。我孫子も松平もないなら、尼しかいないよなー。

 

④橘殺しに関するアリバイ崩し

これなー、行武が殺したと思ってたわ。松平のナイフにまんまと引っかかった。

行武の色盲のことは感づいても良かったよなー。手がかりは少なかったとはいえ、上手い伏線の張り方をしてたと思う。ただ、松平のナイフと見せかけた牧のナイフを行武と尼しか見てなかったってのは、私は読み飛ばしてたのか気付かなかった。注意力が足りないね。

 

 

こんな感じかー。尼が予想以上に賢い殺人犯だったのも意外だったし、途中退場してた日高が尼殺ししてたのもびっくりだった。何より、探偵役かと思った二条が殺されたのもグッときたなぁ。あの瞬間、「まさかのお蔵入り事件か...?」ってぞわっとしたもん。

面白かった!