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日々雑感(ミステリ感想中心)

7人の名探偵 新本格30周年記念アンソロジー (綾辻行人 他4名/講談社ノベルス)

38.7人の名探偵 新本格30周年記念アンソロジー綾辻行人 他4名/講談社ノベルス

総評:★★★★☆

オススメ:本格ミステリファンなら読んで損はなし。豪華執筆陣の書きおろし短編集。

 

あらすじ(引用)

テーマは「名探偵」。新本格ミステリブームを牽引したレジェンド作家による書き下ろしミステリ競演。ファン垂涎のアンソロジーが誕生! 綾辻行人「仮題・ぬえの密室」 歌野晶午「天才少年の見た夢は」 法月綸太郎「あべこべの遺書」 有栖川有栖「船長が死んだ夜」 我孫子武丸「プロジェクト:シャーロック」 山口雅也毒饅頭怖い 推理の一問題」 麻耶雄嵩「水曜日と金曜日が嫌い ――大鏡家殺人事件――」

 

めっちゃめちゃ面白かった!!!読めて幸せ!はーーー本格ミステリは永遠不滅です!!ありがとうミステリ!!ミステリフォーエバー!!!

 

私、基本的には読んだ順に感想書いてて、実は何冊か感想書きっぱなしでアップしてないのがあるんだけど、この本は取り敢えずすぐに紹介したかったので先に記事にしちゃいました(なので通し番号が?になってます)。

いや、だって、この本の売上伸びてほしいもん。買って、売上貢献しよ。ミステリファンの役目でしょ。

 

で、まぁ語彙少なすぎてなんて言ったら分からないんだけど、とにかく良かった。いや、面白かったっていうか作家陣が豪華すぎて、しかも書き下ろしであの名探偵たちの短編が読めるとか、面白い以前にすごいよ。なんて言ったら良いんだ。とにかくすげぇ。ありがとうこの本の編集さん。素晴らしい企画でした。

私は電子書籍で買っちゃったけど、ちゃんと紙で買えば良かった。あとでツイッターとか調べたら、紙の方にはランダム封入で各作家の名言栞がついてるらしくてそれがまたグッときた...

 

えーと、取り敢えずね、本格ミステリ拗らせてる人はマスト購入、麻耶ファンは麻耶の作品だけじゃなくて綾辻行人の短編も読むべしなので絶対買って。以下のラインナップ見てティンと来た人も買って。一人でも知ってる作家がいたら買って損ないです。最高か。

 

麻耶雄嵩「水曜日と金曜日が嫌い」:メルカトル鮎

山口雅也毒饅頭怖い」

我孫子武丸「プロジェクト:シャーロック」

有栖川有栖「船長が死んだ夜」:火村英生

法月綸太郎「あべこべの遺書」:法月綸太郎

歌野晶午「天才少年の見た夢は」

綾辻行人「仮題・ぬえの密室」

 

短編とはいえ、割とボリューミーだった気がするけどどうかなぁ。人によってページ数違くない?全304ページらしいので、1人当たり40ページちょいみたいだけど紙だと二段組だからか私的にはそこそこ満足度高い長さでした。

これ、企画的に文庫になりそうな気もしないし是非読んで欲しいなぁ。因みに電子書籍だとちょびっとお安く買い求められるので、栞ガチャ気にしない人はそっちでもどうぞ。てかもう今はなかなか新作出さない御仁もいるから、貴重な気がする。買いましょう。

 

 

 

 

※  以下、ネタバレ感想

 

 

 

 

 

 

 

 

 

企画が良すぎなんで手放しで褒めたけど、個人的な好き嫌いがあるので正直作品の質はまちまちかなぁ...と思った。いや、ほんと作家の好き嫌いに尽きるんだけど。

 

取り敢えず、作品ごとの感想の前にざっくり自分の思い入れ込みで作家陣に対する感想など(すごい偏見はいるので興味ない人は*~*まで読み飛ばしてください)

 

私はこの作家陣の中で、全く読んだことなかったのが唯一、山口雅也なんだけど、まぁ正直全く合わなかった。構成もトリックも好みじゃない。で、今後も読まない気がする。ごめん。

次にほとんど読んでないのが、法月と有栖川で、この2人の作品はまぁなんというか、お行儀良い作品で2人とも看板名探偵を持って来てるというサービスぶりだし、ちゃんと本格ミステリって感じだった。ただまぁ、やっぱ合わないわ。知ってたけど。いや、でも、上手いんだよね。そのうち履修はすると思う。

で、絢辻は今までもレビューで書いたけど、まぁ合わないんだよね...上手いことは上手いし、私の好きな叙述トリックとか手垢のついた物理トリックじゃないものを使ってくる辺り読みたくはなるんだけど、なんかね......なんだろうね...うん...

後述するけど、本書の絢辻作品は完全に読者サービスなんで面白かったけど、ミステリとしては正直好きくない。

で、歌野。歌野晶午スレ見ててこの本買おうって思ったくらいなんで、期待してました。密室殺人ゲームめちゃくちゃ好きだし。ただ、えっと、本書のあれは、うーん、そうね、色眼鏡なしだと微妙。でも歌野らしいから私はきらいじゃないです。ただの贔屓。

我孫子は『殺戮にいたる病』しか読んでないんだけど、私の中ではめちゃめちゃ文の上手いミステリ作家っていう高評価なのも加点して、今回の作品めっちゃ好き。いや、でもプロジェクトシャーロックは正直、贔屓目なしでも上手いのでは?これも後述するけど、似たような題材になっちゃった歌野が可哀想だよこれ。

で麻耶。麻耶ね。あのーこれ、どう評価したら良い?分かんないわ。

麻耶作品ほんとそういうの多い。私は好きだし、もうメル&美袋が出てきただけで絶対安定ミステリだなって確信しちゃったのでアレなんだけど、えーっとね...これさ...

翼ある闇読んでない人に面白さ分かんないやつでしょ。

麻耶はなんでそんなことしてくるかな...そういう麻耶たんが好きです。いや、でもミステリとしてはどうなんだろう。どうでした?

 

というわけで、言いたいことは適当に言いましたので、ちゃんと作品ごとの感想。

 

麻耶雄嵩「水曜日と金曜日が嫌い」★★★★★

先述した通りのメル&美袋シリーズ。しかも館もの。

なんかさ、昔の麻耶って文章下手な気がしてたんだけどこうやって読むとめっちゃ読みやすいし面白いしびっくりした。あと変な名前の登場人物とか怪しげな舞台装置とか上手いなぁ。細かいところで笑わせてくれるし、センスがいい。そして相変わらずの運の悪さで事件に巻き込まれる美袋くんに合掌。

肝心のトリックの方だけど、実は隠し子の双子が居てその子たちが第一の殺人を犯したものの、敵討ちにあって殺され死体は捨てられた...って......えーと。

まず、わかりやすいところから。唸ったのは翼ある闇と重ねてきてる上手さ。別の方の評論で読んで納得したけど、今回の話は翼ある闇のifなんじゃないかって説はなかなか的を射ていると思う。あんまり言うとネタバレなので避けるけども、もし興味があって読んでない場合は是非そちらも読んでもらいたいところ。メルの呟いた「私は長編に向かない探偵だから」というのが、それを暗示しているよね。これからもどんどん使っていきたいな、このセリフ笑

で、もう一個は直感的な感想なんだけど、このトリック、(以下、反転で森博嗣の某有名タイトル)すべてがfになると同じじゃね...?  ...似てない?いや、こういう長編向けトリックを短編で使ってくるあたりが麻耶らしいけど。

でも、ともかくこの作品、好き。本書の中では我孫子武丸と同列一位って感じ。麻耶を読んだことない人はどう思うのかなぁ、この作品。

 

山口雅也毒饅頭怖い」★★☆☆☆

いやー私はこれダメだった。申し訳ない。

嘘つき当てゲームとかただの論理パズルじゃんってがっかりしたところに、「私達は落語の登場人物なんです」とかメタ推理はいるし、個人的には地雷ミステリど真ん中って感じだった。

てか、前半1/5あたり、ただの饅頭怖いの焼き直しだしどうなの。ページ稼ぎとしか思えない。

 

我孫子武丸「プロジェクト:シャーロック」★★★★★

好き。なんだろう、SFミステリ感あって良い作品。短編の名手って感じだなぁ。上手い。

殺戮にいたる病でもそうだったけど、我孫子ってこう、文の書き方が客観的でちょっと突き放した感じがあって、そこが個人的には良いなぁと思う。そういう文って書くの難しいんだよ。これは個人的な好みなんだけど、あんまりキャラクターに寄り添いすぎる文は軽薄というか児童向け感があってミステリにはそぐわないと思う。ラノベっぽいというか。もちろん、うまく消化させてる例もあるけど。

で、この作品の面白かったところは、人工知能シャーロックを如何にプログラミングするかの条件の置き方。推理とは何か?推理の過程をプログラミングするには、演繹か帰納か?推理プログラムにはどんな知識を植え付けたらいいか?が、非常に理路整然と述べられるのでなるほどなーと思わせるし、しかもそれがオチにつながるモリアーティプロジェクトの伏線にもなっているという。綺麗すぎる。無駄な論述がほとんどなかった。短いのによくできてたなぁ。

あと、推理プログラミングの過程はミステリ読みとしてもなかなか興味深い考察だった。

我孫子は他の作品も読まなきゃだなぁ...好き。

 

有栖川有栖「船長が死んだ夜」★★★☆☆

火村英生シリーズは初めて読んだ。有栖川との掛け合いがいいね。探偵キャラとしてはなかなか魅力的なんだけど、警察があまりに探偵に従順なのとすぐ捜査の輪の中に入れる御都合主義がちょっと微妙。まぁお約束といえばお約束か。

容疑者3人のフーダニットで、誰もアリバイがないのであんまり面白みがないといえばない。しかも決め手は「ポスターがなぜ破られたか?」→「高いものを取るために丸めて棒状にしたから、犯人は高所恐怖症」というのは、なんというか...お粗末。

あと高所恐怖症ってポイントをもっと隠してたら面白かったのになぁ(そのものズバリ、高所恐怖症なんですよと言わせるのではなく、容疑者のちょっとした仕草から高所恐怖症を見破って犯人だと断定するとか)

 

法月綸太郎「あべこべの遺書」★★★☆☆

法月綸太郎シリーズ。前にも短編をちらっと読んだくらい。全然他の作品を知らないからあれだけど、安楽椅子探偵なのかな。刑事のお父さんから話を聞いて推理するって流れは割と好き。ワトソン役がお父さんってのも面白いよね。

ただ、なんだろう...地味。

うーん、基本的にはなぜ遺書が交換されてしまったのかって謎なんだけど、推理があまり鮮やかではないというか...ディティールまで解いてないから、結局その推理にリアリティがなかったかな...個人的な感想だけど。

あと登場人物が死んだ2人と片腕だった女性1人くらいしかいないんで、まぁその中で推理したらこうなるよなって感じ。犯人の意外性があんまりなかった。まぁ、理詰め理詰めなのと、安楽椅子探偵という読者と同条件での推理なあたり、ミステリの王道を往っているとは思うけど。

 

歌野晶午「天才少年の見た夢は」★★★☆☆

歌野好きだからちょっと贔屓して★3つ。

いや...我孫子の後でこれは可哀想だわ。AIネタかぶってるんだもん。しかも我孫子のが使い方上手いし。歌野お得意の叙述トリックを絡めて、「実在の人物のように見せかけているが実はAI」というオチなんだけど、うーん、どっかで見たことあるんだよな...驚きがなかった。

面白かったのは、舞台装置かな。これもSFっちゃーSFだよね。滅亡寸前の世界で地下シェルターにこもった天才少年少女たちが殺されていくというストーリー。全員死ぬので、短編にするのがちょっと惜しいくらいの惨劇。

キャラ立ちのさせかたも歌野らしくていいキャラばっかりなんだけど、いかんせんその「天才性」があまり際立っていないのが残念。特に主人公のキャラが一番不明瞭だったなぁ。絵が上手い設定とか、ロリを抱きしめることに抵抗があるとか、その辺の叙述から深読みしちゃったよ。

てか、今思ったけどこの設定、(以下反転で、某チュンソフトのミステリ系ゲーム)ダンガンロンパじゃね...?いや、いいけどさ。よくある設定といえばよくある設定だし。なんならデスゲームにして欲しかったくらい。

 

綾辻行人「仮題・ぬえの密室」★★★★☆

ラストを締めくくるのにはもってこいの、京大ミス研楽屋オチミステリ。いや、面白いけどさ、なんだろう...ミステリで勝負しろよ卑怯だろ...感はある。うーん。

まぁ今更なんだけど、作家陣の交友関係とか各作家の生い立ち逸話を読むのが私大好きなんで、こういう話を読むのはめっちゃ楽しいんだけど、でもなぁ。ここに発表するのはやっぱ、ちょっと、違う気もする。でもラストに置くにはふさわしい感もあるし、読者サービスだよね......

なんかね、『どんどん橋落ちた』を読んだときみたいな感想なんだけど、絢辻ってほんとこういうとこあるというか...メタで煙に巻くの好きだなぁって...

ミステリとしては正直好きなタイプじゃなかった。なんか、ちょっとわざとらしいし。実在の人物を出してるだけに変に鼻にかかる感じがあって、すっと入らなかった。楽屋オチとしては面白かったかなぁ。麻耶が嘘つき呼ばわりされてるのとか、すごいそれっぽいし笑  京大の先輩方にかかると麻耶もこんな扱いか笑

にしても、この作品集に呼ばれておきながらここで触れられてない歌野と山口がちょっと可哀想な気も。歌野はまぁ、呼ばれるべくして呼ばれてるけど、山口浮いてるよね......うーん。

 

 

というわけで感想は以上です。

や、面白いんだよ!ちょっと辛口が多かったけど!!ミステリやっぱ最高だな!って思ったし、久々に長文感想書いちゃうくらいには興奮した。なんかね、私なんて底の浅いミステリファンなんだけど、やっぱり定番の人たちが書いてるミステリはそれだけでドキドキしちゃう。書いてくれてありがとう!ってなっちゃう。

好き嫌いも結構見えたので、ああまたミステリ乱読したいなぁという感じ。ミステリはいいぞ。