11.儚い羊たちの祝宴 (米澤穂信/新潮社文庫)
総評:★★★☆☆
オススメ:お嬢様達の耽美的な雰囲気と意外な動機を楽しみたい方へ
あらすじ(引用)
夢想家のお嬢様たちが集う読書サークル「バベルの会」。夏合宿の二日前、会員の丹山吹子の屋敷で惨劇が起こる。翌年も翌々年も同日に吹子の近親者が殺害され、四年目にはさらに凄惨な事件が。優雅な「バベルの会」をめぐる邪悪な五つの事件。甘美なまでの語り口が、ともすれば暗い微笑を誘い、最後に明かされる残酷なまでの真実が、脳髄を冷たく痺れさせる。米澤流暗黒ミステリの真骨頂。
ブラックな後味を残す、5つの「良家の子女」達の事件。一応連作短編だが、ほぼ独立した話として読むことができる。
短編として確かに美しくまとまっていたが、どうもインパクトには欠ける印象だった。イヤミスって聞いてたからもっとドンデン返しを期待してたんだけどなぁ。
全て「1行でひっくり返す」話という縛りがあるので、そういう意味では作者の力量を感じたが、なんというか「どれも同じ味」なので飽きてしまうのだ。一編一編の味はピリッと効いているのに、そればっかり食べてると慣れてしまうといったところ。設定も似通ったものが多くなってしまったせいもある。
『インシテミル』を読んだ時も思ったが、なんとなく米澤穂信は秀才なのにあと一つ物足りないように感じてしまう。うーん。
ミステリというより小噺という感じだった。
※ 以下ネタバレ感想
基本的に従者とお嬢様の話なので、どちらかが犯人でどちらかが被害者、という話が多い。犯人当てにはほぼならない。美しいお嬢様(従者)が犯人という意外さも薄れていく。だから飽きてしまうのかも。あと、基本的に「驚きのトリック!」みたいなのがないのもミステリ的にはやや減点といったところ。
「身内に不幸がありまして」
最初の話だったので、ブラックな結末に驚かされた。動機はなかなか意外性があったが、リアリティには欠けるのでいかにも「作り物」感は否めない。
「北の館の殺人」
手がいつか赤く染まるという演出もちょっと手垢にまみれているように思う。犯人も彼女しかありえないしなぁ。お嬢様のキャラがよく分からなかった。
「山荘秘文」
倒叙に近い記述なので最初から犯人は分かる構造。スリル感や不気味さの演出はうまいが、実は殺していなかった(金で解決)というオチはなんというか、うーん。
「玉野五十鈴の誉れ」
「はじめちょろちょろなかぱっぱ〜」は確かにぞくっとしたし、伏線回収も綺麗だけど、その言葉遊び1ネタしかない作品。五十鈴の豹変についても予想がついてしまうので、なんというか、一番ミステリっぽさがない。百合感は好き。
「儚い羊達の晩餐」
あーーーうん...いや、これは米澤先生に絶対失礼なんだけど、中学の時の私が書きそうな話すぎて、ウヘェってなってしまった...「アミルスタン羊」とか小道具は面白いけど。
やっぱり、全作品通じてキャラクターが妙に漫画めいているというか、いかにも創作キャラっぽさが強いのが今の私にはきつかったのかもしれない。語弊を恐れずいうと乙一感がある。乙一のがさらに尖っているけど。
本作は特に創作キャラっぽさが引き立っていて、どちらかというと小・中学生向けの作品な気がした。
また、『インシテミル』同様ミステリ好きにだけくすっとなるような小ネタを散見させるのは作者の趣味なんだろうが、この作品自体はミステリとは言いがたく思う。