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日々雑感(ミステリ感想中心)

極限推理コロシアム (矢野龍王/講談社文庫)

10.極限推理コロシアム矢野龍王講談社文庫)

総評:★☆☆☆☆

オススメ:クソミスで笑いたい人へ(でもオススメしません)

 あらすじ(引用)

夏の館と冬の館に強制的に集められた男女に「主催者」は命じる。「今から起きる殺人事件の犯人を当てよ」。被害者は彼らの中から選ばれていき、しかも、もう一つの館より早く犯人を当てなければならない。不正解の代償は館に残る全員の「死」――。第30回メフィスト賞受賞作品。(講談社文庫)

 

 いやーほんとクソミスだった笑

前評判悪いしトリックが酷いとは聞いていたから、そんなにがっかりはしなかったけど、本当にろくなトリックもないし全くオススメできない。

ダンガンロンパ以来、クローズドサークルもので毎夜一人殺されていく人狼ゲーム系のミステリが読みたくて、取り敢えず『インシテミル』(米澤穂信)を半年ほど前に読んだ。それで次は、ということで今回の『極限推理コロシアム』を選んだ。

本書も『インシテミル』とほぼ同じような舞台設定だが、2つの館に2人の犯人がいて正解しないと殺される、というルールが相違点。『インシテミル』もオチがすっきりしなかったが、今作は輪をかけて酷い。殺人ゲームものは刺激的な設定の割に、風呂敷のたたみ方が難しいなぁという感じ。

敢えて面白かった点を挙げると、「2つの館それぞれの犯人を当てなくてはならないが、もう片方の館が先に真犯人を当ててしまうとこちらは自動的に敗北となり死ぬ」という設定。これのおかげで、2つの館が疑心暗鬼になって正しい情報を伝えているとは限らなくなったところは面白い。

ただ、その設定をうまく活かしきれていないのが惜しい。夏の館側が舞台となっているので、冬の館はどうなっているのかまるで分からない。そのもどかしさを表現したかったのも分かるが、冬の館側にも視点を作りダブル主人公にした方が良かったのではないか。夏の館、冬の館、片方は必ず死んでしまうので緊迫感も出るだろうし。

また、一番気になったのは文章が稚拙な点。意味のないカタカナ表現が目に付いた他、セリフや表現で推敲が足りないように感じた。(「そうね。それもそうね。」等)

もっと酷いのはキャラの描写。今時「ミーは尾花といいまス」などと自己紹介する帰国子女がいるだろうか?いやいない(反語)。個人的には、クローズドサークルものは「魅力的なキャラに限って殺される」、「疑心暗鬼をそそる性格・設定」、「まさかの犯人」、というところが面白いので、キャラの描写が甘いのはかなりマイナスポイントだと思う。

トリックというか、ヒントも小学生向けクイズかな?というレベルなので、答えが明かされてもはぁそうですか、という感じ。謎解きも殆どないので、カタルシスがない。

あまり人に勧める本ではないというのが総合的な評価。メフィスト賞も随分落差があるなぁ。

 

極限推理コロシアム (講談社ノベルス)

極限推理コロシアム (講談社ノベルス)

 

 

 

※ 以下ネタバレ感想

 

 

 

 

  

 

 

 

 

2つの館に2人の犯人、という設定自体がミスリードで実は片方に2人の犯人がいました、というネタ自体は悪くないのに、それを示唆する伏線が殆どない。ヒントが「木場=牙」「アルマジロとセイウチ」しかないのも、ただの連想ゲームであってミステリ作品としてはお粗末としか言いようがない。

2つの館は実はくっついていました!というのも館モノならよくある設定なので、温度の違いだけでなく明らかに2つの館は離れているかのように設定を練ってほしかった。某作品のように、2つの館はくっついていると見せかけて実は離れていました、ぐらいでないと今更驚かない。

また、前述した通り犯人当てが完全に消去法なので面白くない。しかも2人とも冬の館の人間なので読者にとっては全く馴染みがなく、だから?としか思わない。何度も言うが、クローズドサークルものの醍醐味は、サバイバル生活を共闘した仲間がまさかの犯人!というところなので、知らない人が犯人だと白けてしまう。

夏の館における犯行も全て屋根裏を使って冬の館の人間がやったので、トリックも何もない。アリバイ崩しすらない。冬の館の毒殺ってなんだったんだ?自殺騒動も投げっぱなし。

 

因みに自分が読みながら推理していた時は、普通に篠崎が犯人だと思っていた。篠崎が駒形だけでなく、夏の館の全員に声をかけて仲良くなっておき、行動や情報を操っていた。屋根裏の秘密を加賀も知っていた(口止めされていた)ので、駒形が屋根裏で遭遇したのは同じように犯人を探ろうとした加賀だった(だから駒形は殴られただけで殺されはしなかった)、というところまで考えていた。

...こっちのが面白いと思うんだけど自画自賛)。

もしくは顔を潰されて死んだと見せかけて滝本が生きていた、とか。ミステリー的には身元不明の死体を疑うのは鉄板なので、滝本犯人説はかなり有力だったけど、別にだからどうした感があったので、途中で捨てた。

 

やっぱり「意外な犯人」のカタルシスは必要だよなぁ。

また、中途半端に駒形と篠崎のラブストーリーを描いているせいで、ラストも蛇足感が拭えない。

色々文句ばかりになったが、上手くない作品を読むと逆に良いミステリの条件が見えてくるので勉強料を払ったと思えばいいのかもしれない。

クローズドサークルものでもっと魅力的な作品を探したい。