39.噂(荻原浩/新潮社)
総評:★★★☆☆
オススメ:どちらかというとミステリ初心者向け?サスペンス小説を読みたい方へ。
あらすじ(引用)
「レインマンが出没して、女のコの足首を切っちゃうんだ。でもね、ミリエルをつけてると狙われないんだって」。香水の新ブランドを売り出すため、渋谷でモニターの女子高生がスカウトされた。口コミを利用し、噂を広めるのが狙いだった。販売戦略どおり、噂は都市伝説化し、香水は大ヒットするが、やがて噂は現実となり、足首のない少女の遺体が発見された。衝撃の結末を迎えるサイコ・サスペンス。
どんでん返しの定番ということでかなり期待度高めに読み始めた、が......うーん...
まぁ、うん、書評ブログとかでは定番のタイトルの割にミス板であんまり評判を聞かない理由がよく分かった気がするかな...
ざっくり言うと、一般文芸書を読み慣れてる人は結構楽しく読めるし帯の謳い文句にもなってる「ラスト1行でどんでん返し!」も驚けると思うけど、ミステリファン的には物足りないかも、という感じ。ていうか、ぶっちゃけミステリじゃないですこれ。
かといって普段本読まない人はポカーンってなるかもしれない。トリックの質は違うんだけど、要は『イニシエーション・ラブ』なので。謳い文句にもある通り、伏線を1行で回収するタイプ。私はイニシエも好みじゃなかったから、同じタイプの本書もちょっと合わなかった。
何だろうなぁ、歌野の葉桜とか麻耶の鴉とかも伏線一挙回収系なのに好きなんだよな。やっぱミステリ感があるかないかかな。この辺はネタバレあり感想で理由を長々と考察してます。
あと書かれた時期がちょっともう古すぎて「今時の女子高生」の表現がそぐわないのが、読んでてしんどかった。これはしょうがないけど。
今や口コミもツイッターとかラインで拡散されそうだもんなぁ。あと喋り言葉がださい。本当に当時こんな喋り方してたっけ?って感じ。
完全に蛇足なんだけど、気になって調べたら2001年刊行なんだね。
当時の流行語は
■ヤだねったら、ヤだね
■ドメスティック・バイオレンス
■明日があるさ
で、ベストセラーは
■チーズはどこへ消えた?(S・ジョンソン)
■ハリー・ポッターと賢者の石ほかシリーズ全3作品(J・K・ローリング)
■話を聞かない男、地図が読めない女(A・ビーズ)
■プラトニック・セックス(飯島愛)
■バトル・ロワイヤル(高見広春)
(http://nendai-ryuukou.com/2000/2001.htmlより引用)
...うーん、あれか、コギャルとかが流行った頃と大差ないのか......じゃあ、ああいう女子高生像でいいのかもしれないけど...
閑話休題。
ともかく、文芸畑の荻原浩が描いた作品なので人物描写がどうでもいいくらい細かくて関係性も詳しく書くので、そういうのが好きな人には面白いのかもしれない。あと、どんでん返しものの割にはやや社会派寄りかな。
ただ正直、その辺の描写のせいでテンポの悪さもあったと思う...
いくつかはどうでもいいシーンに見えて実は伏線、という部分もあるんだけど、例えば杖村の背景とか正直私的には要らなかったかな。完全に好みの問題なんだけど、メインで固有名詞の出て来る人たちそれぞれの背景をいちいち説明しすぎ。
ミステリって、メインは謎とその鮮やかな解決じゃないですか。そこに蛇足的な細かいキャラクターそれぞれの事情とか要らないんだよね。
もちろんそれがトリックに関係してたり、フーダニットに繋がるなら面白いんだけど、本作品的にはあまりにどうでもいい情報が多すぎて萎えた。
まぁ本作はミステリじゃないからしょうがないのか(2回目)。
と、散々批判的な感想になったが、結構珍しいタイプのどんでん返し&後味の悪い()オチなので、流し読みでも一読の価値はあるんじゃないですかね。あんまり雑な読み方すると伏線分からないかもしれないけど。
それにしても、悪い作品ではないとはいえ怪作というほどの出来じゃないと思ったので、ネット上での高い評価の理由がいまいち分からなかった。誰か教えてください。煽りじゃないです。これもWOMの力だとでもいうのか(上手いこと言った顔)
※ 以下、ネタバレあり感想
まぁ、だから『イニシエーション・ラブ』だよね、これ。
ネタバレなしの方でははっきり言えなかったけど、大したトリックがないのがもうミステリとしては致命的すぎない??
そりゃ面白くないよ。ミステリじゃないもんこの作品。どんでん返しの1行もさ、全然トリックとかじゃなくてただの伏線回収じゃんかよー?!!!だからどうした!!!???ってなるでしょ普通!!!
...期待値上げすぎたかなやっぱ......
この「ハズレ感」「こんなんミステリじゃないわ感」を説明するためにいくつか有名なミステリ作品を引き合いに出させてください。大変申し訳ない。そういうわけで、以下では本書のほかに
「イニシエーション・ラブ」
「ハサミ男」
「葉桜の季節に君を想うということ」
「殺戮にいたる病」
の重大なネタバレをします。未読の人は避けて下さい。というかこの4つ並べた段階である種のネタバレになってしまってますが...。※リンク先は過去の感想ページです。
この4つはほんともう、ミステリ者ならさっさと履修して、どうぞ。
そもそも本書は叙述トリックですらないから、ほんとミステリ味がないんだよね。他のミステリ読みにも聞いてみたいんだけど、どうなんこれ???
ミステリの定義とは?叙述トリックの意味とは?という根本的な問いにまで至ってしまったんだけど、私だけですか。
さて、「1行でどんでん返し」といえば、ミステリではやはり叙述トリックが定石である。と思う。
叙述トリックは、読者騙しに特化していることが多く、「作中内人物は騙せていない=作中内では(叙述が)トリックとして機能していない」ケースは本当にミステリと言えるのか、微妙な場合があるのは言うまでもない。
例えば、『葉桜の頃に君を想うということ』。
本書で扱われている叙述トリックは、①主人公およびメインキャラクターの年齢誤認、②それに伴う同一キャラクターを2人の人物に見せかける誤認、の2つ。特に②は作中内人物も騙されているトリックにもなっているので完璧にミステリと言っていいだろう。
次に『ハサミ男』では、①女性である語り手を男と誤認させるトリック、②模倣犯である犯人が実は捜査陣の中にいたというどんでん返し、がある。
ハサミ男はぶっちゃけ派手な物理トリックだの捜査撹乱トリックはなく、叙述トリック自体(①)は作中人物にとって意味がないが、ちゃんと②で「読者及び捜査陣の想像を裏切る犯人の提示」をしているのでミステリ味がある。
そして『殺戮にいたる病』。人物誤認トリックだが物凄く巧妙な構成と叙述によってどんでん返しが鮮やかになっている。
これも作中人物にとっては一切叙述トリックの意味がない&トリックらしいトリックが叙述部分しかないので、「作中人物にとってはミステリ(謎)でも何でもないだろ!」と取ることもできそうだが、やっぱりミステリという分類で異論ないと思う。
ということは、「作中人物が事件を不可解だと思うか否か」が論点というよりも、ミステリがミステリたるためには、
「①ちゃんと読めば読者は犯人を推理できる」けど、
「②ネタバラシされるまで、普通に読めば犯人を誤認する」、
つまり、「読者の想像を裏切る(トリックがある)が、推理可能な犯人である」というギャップがあること
がポイントなのではないかと思う。あくまで個人的な見解ですが。
で、ネタバレなしの方で本作と似てると言及した『イニシエーション・ラブ』なのだが、まぁギリミステリかなというところ。個人的にはミステリじゃないけども。一応『殺戮〜』型の人物誤認叙述トリックはあるけどさ、そもそも謎の提示がないから「読者による犯人の想像」がないわけじゃん。てことは、上述した「ギャップ」がないでしょ。ミステリじゃねーじゃん!!!???
ただまぁ、百歩譲って「二章に分かれてるけど何の意味があるのか」「途中途中不自然な行動や矛盾があるがどういうことか」って読者が謎を自ら見つけ出して、実はこういう真相でした!ってネタばらしているから、上述の①②を満たしているので変化球の広義ミステリとは言えるかもしれない。というわけでまだ許せる。
(当時私が書いた『イニシエーション・ラブ』の批評にも、「これミステリの棚に置くんじゃねーよ」的なこと言ってました)
で、本題。『噂』なのですが。
①謎の提示:足切り殺人をする犯人は誰か?
→読者には推理不可能。ていうかトリックもない。地道に主人公たち警察が、噂の出元を探りながら突き止めていき、犯人の指紋が決め手となって追い詰める。
②どんでん返し「きもさぶ」:最後の杖村殺しは、実は主人公の娘・菜摘たちによるものだった(確定ではないが示唆しており、ほぼ確定でいいはず)
→読者には推理不可能。トリックもなし。伏線というか、この事実を分かった上で読み返すと、匂わせる部分はあるのだが、断定できる証拠はない。
どうよこれ。ミステリか?ミステリじゃないじゃん。こんなんミステリじゃないわー!!!
私的にはミステリじゃねーよって思ったイニシエですら叙述トリックが一応あって、読者にも謎の発見&推理可能になってるのに、本書はそれすらなくてそもそもトリックらしいトリックがないんだよ!
殺人事件が起きれば、どんでん返しを作れば、ミステリなのか??!違うわ!!!謎の提示があった上で、①読者に推理可能な、②トリックが仕込まれていることの2つがミステリなんだよ!!!(私内定義)
......ただね本作を評価しにくいのは、ミステリ的には壁本なんだけど、文芸書としてはまあまあな作品だってことなんだよね...オチの付け方が新しいし。びっくりはするじゃん。ミステリじゃないけどな。
しかも、この「ミステリじゃない」ことを伝えるのが極めて難しい。だって説明するためには本書のネタバレが必要なんだもん。しかも、一応殺人事件起きるし謎の提示があるから、イニシエと違って一言でミステリじゃないよって言いにくいの。こんだけ長く説明しても、正直上手く伝わってるか自信ない。
そりゃ、犯人は意外なんだよ割と。まず、西崎を推理するのは不可能だから。だって証拠ないし。明確に犯人だと断定できる伏線もないから。あと、麻生がクスリやってたとかもまぁ意外ではあったよ。でも正直どうでもいい。だってあれも推理できないし。でもって、菜摘たちが杖村を殺してたってのも意外。けど、何度も言うけど推理不可能なんだからそりゃ「意外な犯人」に決まってんじゃん。
要は、この作品における犯人たちはみんな「ただのビックリ要員」でしかないわけ。
ミステリじゃねーーーだろーーー?!!驚けばミステリなのか????違うわ!!!
以上です。
まぁでも、この作品を読んだおかげで、ミステリとは何かについて考えさせられたので結果オーライ(そうか?)。低評価のわりに長文になってしまいました。
ネタバレなしでも言ったけど、この作品をミステリとして評価してる人はどこをどう評価してるのか教えてもらいたい。煽りなしで。
ほんとにただのビックリ小説って感じだった。残念。