好きなものだけ食べて生きる

日々雑感(ミステリ感想中心)

メルカトルと美袋のための殺人 (麻耶雄嵩/集英社文庫)

26.メルカトルと美袋のための殺人 (麻耶雄嵩集英社文庫

総評:★★★★★

オススメ:ミステリの枠を超えたミステリを読みたいあなたへ贈る、珠玉の短編集。

 

あらすじ(引用)

推理作家の美袋三条は、知人の別荘で出会った佑美子に刹那的に恋をする。しかし彼女は間もなく死体で発見され、美袋が第一容疑者とされてしまった!事件に巻き込まれやすい美袋と、「解決できない事件など存在しない」と豪語する魔性の銘探偵メルカトル鮎が挑む巧緻な謎の数々。脱出不能な密室殺人から、関係者全員にアリバイが成立する不可能犯罪までー奇才が放つ、衝撃本格推理集。

 

 

『メルカトルかく語りき』(レビュー:メルカトルかく語りき (麻耶雄嵩/講談社文庫) - 好きなものだけ食べて生きる)が尋常じゃなく面白かったので、続き買うぞー!と思って購入。そして気づいた。『メルカトルと美袋のための殺人』のが先に刊行されてたのか。引っかかった......

結果として、どっちを先に読んでもさほど問題がなかったのはラッキーだったが、私と同じ失敗を踏まないことをお祈り申し上げる。...ネタバレ引っかかるのが怖くて書名検索してなかったんだよ〜...やっちまった...

 

ざっくりいうと、本作の方が『かく語りき』に比べるとめちゃくちゃ大人しい作品集になっていて(一部『かく語りき』並みの禁じ手があるので兆候は見え隠れしているが...)、メルと美袋の掛け合いを楽しむところにフューチャリングされている感じがした。美袋が巻き込まれる事件ばっかりだったし。まさに「メルカトルと美袋のための」短編集といったところ。メルシリーズ自体が気に入ってしまったのでちょっと甘めの☆4にしたが、『かく語りき』を読んでからだと肩透かしを食らったのは否めない。まぁ一作目なんだから当たり前だろっていう。

また、一話目から正統派ミステリとしては大分アンフェアな仕掛けが使われる他、記述がやや苦しい話や「そこはそれでいいのかよ」という話があるので、まともなミステリとしては少々勧めにくい。個人的には「小人閑居為不善」がかなりヒットだったのと、メルの活躍が読めただけで大分面白かったが。『かく語りき』が破格に面白い作品なので、それを読むために『メルカトルと美袋のための殺人』も(我慢して)読んでほしいという感じ。いや、「我慢して」なんて表現を使うのもとんでもなく失礼なレベルで、これ単体で面白い作品なんだけど。人を選ぶのは間違いないかも。

 

個人的にシリーズものはあんまり好きじゃないけど、やっぱりホームズ&ワトソンって構図は盛り上がるね。メル&美袋はどっちもキャラが立ってるから余計に好き。

 

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※  以下、ネタバレ感想

 

 

 

 

 

 

 

 

「ワトソン役は嘘を吐かない」というミステリ界の不文律をいきなりぶち壊す第1話に始まり、特に論理的解明をされないまま幽霊が推理の中に組み込まれたり、「殺した犯人を当てろ」なのに答えは自殺、とやりたい放題なミステリ。でもクソミスとは思わないのは何なんだろう......麻耶だからいっか、で済まされてしまう...

合わない人はとことん合わないが、好きになるとやめられないと評される麻耶作品の「毒」がだんだん分かってきた気がする。メルシリーズが一番ぶっ飛んでるから、作者も意識してやってるんだろうけど。

というわけで、それぞれの話ごとに感想を述べる。

 

「遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる」

一話から夢オチとかいう禁じ手。睡眠学習も個人的にはあまり信用してないのでオイオイと思ったが、文庫版解説を読んでちょっと評価が変わった。前段でも述べた「ワトソン役による固定化された視点を覆す」という点である。

つまり、従来のミステリでは「ワトソン=語り手(読者の視点)」で記述された事象がその世界の全てであり、事件を解く手がかりはその中で全て示されている、という暗黙のルールがあった。

しかし、本作品では「ワトソンの語る事実の一部は、本人も自覚しない嘘だった(夢を見ていた)」という一種アンフェアな仕掛けによって謎が揺らぎながらも、①ワトソン役が夢を見ていたことは読者にも推理可能、②夢を見ていた→何故そんな夢を見たのかということが推理のロジックの一部にもなっている、という2点からアンフェアさをもフェアの中に内包してしまっている。この辺のさじ加減は極めて微妙。正直、これを書いたのがその辺の素人高校生だったら「ミステリ勉強し直してからおいで」とか言いかねない。ネタ自体はそれぐらいに、ミステリの本道からはかなり逸脱しているように感じる。

ただ、やはり「神の視点であるワトソン役の内面に迫る」構造は秀逸で、記述者を通して文章が書かれる以上そこに記述者のバイアスがかかることをミステリの構造の中に取り入れたのは麻耶らしいなぁという感じ。

ところで、文庫版解説で『翼ある闇』の重要なネタバレに2点も触れてるんだけど酷くないか、これ。前にも麻耶雄嵩の他作品の解説でネタバレ書いてる人いたし、もうちょっと気を使ってくれ。

 

「化粧した男の冒険」

ホームズ役であるメルカトルが証拠を捏造する部分が秀逸かと。でも『かく語りき』読んじゃった後だとなぁ...まぁ、証拠を捏造してカマをかけるってのは割とよく見るオチなので、どちらかというと素直なミステリだと思う。

あと、個人的なミステリ観なんだけど、私はミステリにおける「動機」をさっぱり重視してなくて、この話とか「シベリア急行西へ」を読んでいると麻耶雄嵩もそう思ってるんだろうなぁという気がしたり。以下、文庫版p108より引用。

「それで、なぜ遙は高松を殺したんだ?」

わたしはメルに尋ねた。犯人は解ったが動機は知らされていない。

「さあ、そんなことはあの刑事が締め上げて適当に吐かせるだろう」

面倒臭げに、メルは手で払う。

「きみは気にならないのか?」

「別に。その手のゴシップはね。動機が犯人の推定に重要なファクターとなっているときは気にもなるが、今回は別に必要なかったからな」

 

「小人閑居為不善」

事件が露見する前に犯人を当てちゃう。しかも、その事件のタネを蒔いたのは他でもないメルカトル本人だった。章タイトルの「小人」がメルのことを指してるんだとするとちょっと愉快笑

この話が一番好き。シンプルながらも起伏に富んだ構成で、細々した伏線が回収されていく推理も綺麗。最後の最後で、「メルが誰に件のチラシを送りつけたか」が判明するなど、オチでもニヤリとさせてくれる。上手い。

 

「水難」

幽霊の謎を解くのかと思いきや、幽霊は「前提」であって殺人事件のピタゴラ装置に組み込まれていたという話。

私は西澤保彦のミステリも好きなタイプなので、こういう「非合理的な前提の下合理的なロジックを積み上げる」みたいなミステリは割と飲み込める。でもそれは、やっぱり「非合理的な存在も合理的な縛りの下に存在している」というルールがあって成立すると思うので、やっぱりちょっとこの作品は惜しい気もする。だって幽霊を幽霊って認めちゃうともう、殺人も幽霊がやりました、でオッケーになっちゃうんじゃないか??!笑  

これもオチが割と綺麗だった。井戸に上半身を突っ込んでいるメルを見て本気で殺意を抱く美袋が面白かった。あと、小ネタが多くて所々笑ってしまった。タキシードから赤いフードにユニフォームを変えようかなとか考えてるメルが可愛すぎる。フードってなんだよ。赤頭巾メルちゃんか。一番ニヤニヤしたのはここ。文庫版p162。

...糞っ、むかつくよな、あいつ。いい加減にしろよ、まったく。自分を何様だと思ってるんだ。ロシア人みたいな顔しくさって。

 

ノスタルジア

夢オチより幽霊より、これが一番個人的にはダメだった。何だろう、そもそも話が分かりにくかった(ミステリ読みのくせに話が込み入ってくると投げ出してしまうので)。あとやっぱり、「犯人を当てろ」なのに「自殺でした」、「強いていうなら偽物だった武田信玄でした」ってのはな〜色々アンフェアが強すぎる...

というか、トリックが多すぎるんだよね。

①密室を作ったのは昭だが犯人ではない、②密室にしたのは自殺を他殺に見せかけるため、③自殺だったのに偶然雷がなったせいで他殺のような死体になってしまった、④充は女だった、⑤冒頭の犯人と被害者の格闘に見えたシーンは④を前提としたフェイク、⑥上杉謙信武田信玄は入れ替わっていた、......短編なのに詰め込みすぎでしょ?まぁ、メルが犯人当て小説を書くとなるとこれぐらい趣向を凝らすだろうことも何となくわかるが。作中作内でちょいちょいとんでもない発言があるのがメルらしくてふふってなった。

ところでこのタイトルの「ノスタルジア」ってどういう意味でつけたんだろう。

 

「彷徨える美袋」

正直、割と序盤で美袋が誰に拉致されたのか分かってしまった笑  「小人閑居〜」と同じパターンの、メルが犯罪の種をばらまいて収穫する話。これもオチが好きだなぁ。本作は大体オチが痛快というか、落語みたいで面白い。

ラストに、メルは美袋が殺される可能性があったにも関わらずこんな事件を仕組んだんじゃないかと美袋は疑っているわけだが、個人的には「遠くで瑠璃鳥の〜」でのメルを見る限り、メルが言うように「美袋は殺されない」という自信の元にやったんじゃないかと思う。「遠くで瑠璃鳥の〜」でのメルは、美袋を陥れたり雑な扱いはするものの友人として労っているようには感じられるので。

『かく語りき』の最終話でも(ネタバレ回避のためここから反転)論理的に自分か美袋が犯人だという状況にも関わらず、美袋を犯人とする結論ではなく、事件をなかったことにしてしまった(ここまで)あたり、美袋自身が思っているほどメルは人でなしではない気がする。頑張れ、美袋。

 

シベリア急行西へ」

かなりマトモな犯人当てだった。これを大学一年生で書いたとか凄すぎるだろ。しかも原型ではメルが死んじゃうとか笑

因みに、細かい推理はまるで出来なかったけど、右手の妙な形について「ペンを持っている形なのでは」「いや、そんな訳ない」→「犯人は被害者が右利きだと思い込んでいた人物」と連想して、犯人は分かった。わざわざそんな応酬を入れた段階でハハーンとなってしまったので、げにミステリ好きの当て勘は作家にとって厄介なものである。あと、この話もラスト1行のしょうもない、かつ、ぞくっとする「犯行動機」が良かった。

また、解説にも触れられているが、(メルカトルシリーズに関するネタバレなのでここから反転メルのルーツであるロシアへ向かう話であることはなかなか趣深い。この話以外にも『翼ある闇』におけるメルの敗北(?)やメルがロシア文化にくわしいこと、メルの書いた小説について『かく語りき』でまた触れるなど、読んでいてニヤニヤするエピソードが多かった。ここまで)

 

全体として、メル&美袋のキャラで持ってる短編集という感じ。『かく語りき』のあとだとハードル上がるけど、もっと読みたいなぁ。

 

次は麻耶の何を読もうか考え中。『痾』『木製の王子』『あぶない叔父さん』あたりを読みたいんだけどどれも入手が難しいor文庫落ちしてないので悩む。むむむ。