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日々雑感(ミステリ感想中心)

殺人鬼フジコの衝動 (真梨幸子/徳間文庫)

20.殺人鬼フジコの衝動 (真梨幸子/徳間文庫)

総評:★★★☆☆

オススメ:手の込んだイヤミスに騙されたいあなたへ

 

あらすじ(引用)

一家惨殺事件のただひとりの生き残りとして新たな人生を歩み始めた十一歳の少女。だが彼女の人生はいつしか狂い始めた。「人生は、薔薇色のお菓子のよう」。呟きながら、またひとり彼女は殺す。何がいたいけな少女を伝説の殺人鬼にしてしまったのか?精緻に織り上げられた謎のタペストリ。最後の一行を読んだ時、あなたは著者が仕掛けたたくらみに戦慄し、その哀しみに慟哭する…。

 

タイトルでホラーテイストな猟奇殺人物だと思い込んでたらそんなことはなかった。

イヤミスの典型だけど、なんていうかDQN型のイヤミスなので私はしんどかった...うん...

DQN型というのは、貧困家庭に生まれたばっかりに真面目に勉強しようとか堅実に働こうという意識がないままクズ人生を突っ走りつつも、基本的に「他人が悪い自分は悪くない」という精神原理で、狂っていくタイプのストーリーのこと。今勝手に命名した。この手のキャラを題材にしてる話は基本的に下品・下世話・解せないので私は得意じゃない...

あと、これは差別じゃないと思うんだけど、女性作家の描くリアルな女性社会特有の気持ち悪さって、本当に読んでてしんどい。文章上手い人ほど読みたくなくなる。この本の序盤のしんどい感はこれに集約するかと。

で、虐められた小学生時代がやっと終わったと思いきや、クズ男に引っかかるわ浮気されるわ、もう本当しんどい。この先も延々と転落人生が続くのが、逃げても逃げても絶望って感じで胸焼けした。『闇金ウシジマくん』読んでた時みたいな吐き気を感じた。

ちょっと話逸れるけど、私は『闇金ウシジマくん』の初期とかは、クズ人間に因果応報感あってそれなりに楽しく読めていた。ところが、それまで小市民的ながら幸せな人生を送っていたリーマンが、友人の借金連帯保証人になってしまったばっかりに闇金の世話になる...的な話が、どうしても読めなくてそこで挫折した。どうも自分は、真っ当な人間が理不尽な酷い目にあう話が苦手っぽい。

で、フジコは割とその理不尽感が強い作品だと感じた。家庭環境が悪かったばっかりに親の業を子が引き継ぎ、貧困の連鎖から殺人へという話なので、誰を呪えばいいのか分からない状態。

いや、善悪はっきり分かれた話しか読まない!ってわけじゃないんだけど、ただひたすら不幸な話なんだよなぁ。主人公が出会う人物が片っ端から酷い連中なのも辛い。いや、筆者はよくこれ書ききったなと思うよ。徹底的に不幸だし、かといって同情の余地もないし、感情移入もできない。うーん。

 

で、ここまで「しんどい小説」と繰り返してきたわけだが、この小説の見事なところはやはり終盤の「救い」とラストのあとがきだろう。特にあとがきは読みながらクラっとしてしまった。ネタバレの方に詳しく書くが、DQN小説苦手なのを必死に堪えて読んだ価値はあったかなと思う。うん、胸糞だけどミステリとして面白い手法を使っているので読む価値はあります。これは言っとかないと作者に失礼なので下線まで引いておく笑

 

ただ、個人的には文体もそもそも苦手な方。文章は上手いんだけど。フジコの笑い方の「くっくっくっくくくくく」とかちょっと苦手。心理描写も正直くどい。いや、内面を描きたかったのは分かるんだけど。魅力的な登場人物が誰1人いないってのもなかなか、うん、しんどいところ。

そういうわけで、ミステリの出来としては☆4くらいつけたいが、読むのがしんどい&文体が苦手だった−☆1で、総評としては☆3というところ。個人的には『殺戮にいたる病』より人に勧めたくないね、これ。でも好きな人はハマりそう。

 

殺人鬼フジコの衝動 (徳間文庫)

殺人鬼フジコの衝動 (徳間文庫)

 

 

 

※  以下、ネタバレ感想

 

 

 

 

 

 

 

 

叔母さんとコサカ母だけが救いかと思いきや、この2人が黒幕とかほんと酷すぎないかこれ...

いや、ある意味「やられた!」感はあったけど渡る世間に鬼しかいないじゃん...しんど...

 

元々、叙述トリックものが読みたくて選んだ作品だが、いわゆる細かい伏線をラスト一行でどんでん返しみたいな話ではなかった。

一応叙述トリックとしては、一章の「私」(早季子)とそれ以降の「私」(藤子)を誤認させている点が挙げられ、最終章で藤子こそが早季子の母親であると明かすことで「Kくんを殺していたら早季子は母親である藤子と同じ運命を繰り返していたのではないか」→「しかし実際には、早季子はKくんを殺さずにすみ、母親が最初に手にかけたコサカさんのお母さんこそが早季子をその運命の輪からすくい上げた」と思わせる巧みな構成である。このへんをあとがきでちゃんと解説しちゃってるのは、最初ちょっと苦笑した。「言わなくても分かってるって〜笑」みたいな。

 

そしたらあのオチだよ!!!!!!

実際には早季子が救われたシーンだけ創作で、なんでそんなことを筆者がしたのかまで解説してくれちゃうあとがき!クッソ!!!!何てことしやがる!!

メタにメタを重ねて、やっぱり救いなんてないんだよ〜!!!救われると思った??思った???残念でした〜!!!みたいなのほんと、もう、上手いけどやめてー!!!ってなった。

まぁただ、基本的にフジコが狂っていくだけのストーリーではあるので、緻密な伏線とその劇的な回収はまるでない。悪くいうと、ミステリとしての面白い謎とトリックみたいなのはない。あとがきを含めたメタ構造は素晴らしく秀逸だけど。こういうミステリ他にもありそうなのに、自分はまだ読んだことないなぁ。

 

それと、繰り返しになるけど女性特有の陰湿さがしんどい。友達に貢がなきゃいけないとか、グループの権力者が誰とか、まぁ確かにリアルなんだけど読んでて楽しくはないね...なんで女性作家はこういうの書きたがるんだろう...

あと「黙って優等生づらしてればいいんだから、大人ってちょろい」みたいなのも......恩田陸もこういうこと書くの好きなイメージある...(偏見)

 

嫌な気持ちにさせるのが目的だと思うので、私はまんまと引っかかったことになるが、なんというか一回でお腹いっぱいという感じ。次行こう次。