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日々雑感(ミステリ感想中心)

鴉 (麻耶雄嵩/幻冬舎文庫)

18.鴉  (麻耶雄嵩幻冬舎文庫

総評:★★★☆☆
オススメ:怪村・土着の宗教・錬金術などのワードに惹かれるミステリ好きへ。

 

あらすじ(引用)

弟・襾鈴の失踪と死の謎を追って地図にない異郷の村に潜入した兄・珂允。襲いかかる鴉の大群。四つの祭りと薪能。蔵の奥の人形。錬金術。嫉妬と憎悪と偽善。五行思想。足跡なき連続殺害現場。盲点衝く大トリック。支配者・大鏡の正体。再び襲う鴉。そしてメルカトル鮎が導く逆転と驚愕の大結末。一九九七年のNo.1ミステリに輝く神話的最高傑作。

 

『螢』の結末にかなり衝撃を受けたので、同作者で評判の良かった中からこの作品を選んだ。

感想は...うーん......『螢』の悪い部分がそのまま濃縮されたようなというか...メインの引っ掛けに関する奇抜さは間違いないが、冗長さも否めないところ。雰囲気づくりといえばその通りだし、確かに伏線を紛れ込ませてもいたけど、村の描写が多すぎて飛ばし読みしてしまった。怪しげな雰囲気とかは確かに上手いんだけどさ。

あと、文庫版第7版で読んだんだけど誤字が酷い。一番オイオイってなったのは、p311最後から2行目。地の文とセリフ文がぐっちゃになってる。定番ながら「狂気」「凶器」のミスもあった。後者はわざとかもしれないけど、流れ的に誤植だと思う。

また、あるひっかけについてアンフェアさが際立っている。私はミステリにあまりフェアプレイを望む方でもないが(例えば、真相が突飛すぎて読者が絶対真相にたどり着けないとしてもある程度伏線が回収されていれば許せる)、今回はちょっと酷い。これがまかり通るなら何でもありになっちゃうのでは?

と、色々渋い評価をしたが、『螢』でも披露されたような大胆な騙しテクニック自体は斬新だと認めざるを得ない。もっと布石があったら納得できたんだけどなあ。このアンフェアさも狙ってやったんなら何ともいえないけど。

 

あと文庫版『鴉』の笠井潔による解説には、『翼ある闇』『夏と冬の奏鳴曲』に関するネタバレがあるんだけど、あれ酷くない?私これから読むつもりだったのにー!!!ミステリ作家ならちょっとは考慮して?!!!私みたいな人が今後現れないように、一応警告しておく。

 

鴉(講談社文庫)│麻耶雄嵩│Amazon

 

 

※  以下、ネタバレ感想

 

 

 

 

 

 

 

 

 

叙述トリックで有名な作品として挙げられていたので選んだが、終盤まで「叙述トリック仕掛けようがなくない?」と思っていた。

と思ったら、実は村全体が色盲で赤と緑の区別がつかなかった!野長瀬殺しは、赤と緑の区別がつくものによる犯行!!

なるほど〜!語り手(読者)には分かる事実が、作中の多くの登場人物には分からないパターンの叙述トリックかーーー!!!

...このトリック、(ネタバレ配慮で反転)『螢』(ここまで)じゃん...しかも『鴉』の方が使い方が下手......もっとトリックや犯人特定にがっつり絡めてほしかった...

大体、色覚異常じゃない人間が大鏡様になる意味が分からない。特殊能力を活かした何か祭事をしているなら面白かったのになぁ。

 

というか、これってどんでん返しってほどの叙述じゃないなぁ、これからどうなるのかな?と思いながら読み進めていくと、メルカトルによるあの一言。

...「全く信用できない語り手」パターンだったというオチ。

「珂允=櫻花」であり、「珂允は大昔に殺した弟をずっと幻想として見ていて(自分のもう一つの人格となっていて)襾鈴は存在しなかった」ってさ......それはないよ...

語り手が一貫して「珂允」と名乗っているのはともかく、某ブログにも指摘があったがp29に

「『珂允の友達はあまり来ないわね』母親がよく洩らす。」

という記述があるのはさすがにアンフェア。珂允が偽名なら、母親は櫻花と呼ぶはず。

大体、襾鈴=珂允なのに村人が気付かないのはさすがにどうかと思う。兄ですって名乗るまで似てるとすら思わなかったってのは不自然すぎる。

兄弟誤認トリックは本当びっくりしたし奇抜な仕掛けだなー!と思ったけど、①上記の通り穴が多すぎ、②誤認してるのは読者だけなのでストーリー的には「だからどうした」感がある、という二つの点で評価を下げざるを得ない。

 

因みに、珂允=襾鈴を読者は看破できるか?メルカトル鮎が「読者にしか仕掛けられていないはずの叙述トリック」になぜ言及できたのか?についてなど、詳しく書かれている下記サイトも是非ご一読頂きたい。『黄金の羊毛亭』さんの考察はどれも丁寧で好きです。

「黄金の羊毛亭」鴉/ネタバレ感想

 

総括すると、どっちかといえば壁本寄りな一冊だったという感想になってしまう。表題の『鴉』も特に意味なかったし。私は最初、あの鴉の群れが実は違う意味がある(黒装束の人間を「鴉」と呼んでいたとか)のかと思っていたので、完全に肩透かし。

このまま終わるのも悔しいので『闇ある翼』くらいは読もうかと思う。メルカトル鮎のキャラ自体は好きなのでとても楽しみ。

 

追記1)メルカトルシリーズにちょっと手を出してからこれを読み返すと、終盤で「御簾をめくったら…メルカトルがいた!!!」のシーンが面白すぎて爆笑した。初読の時は単にびっくりしたけど、メルカトルと美袋の短編とか読んでからだと味わい深いね(?)というかメルさん何やってんだよほんと。

追記2)どうでもいいんだけど、この「地図にない怪しい村」「謎の宗教」「土着の人々の奇妙な共通点」っていう要素に、ドラマ『TRICK』ぽさを感じるのは私だけだろうか。