15.ハサミ男 (殊能将之/講談社文庫)
あらすじ(引用)
美少女を殺害し、研ぎあげたハサミを首に突き立てる猟奇殺人犯「ハサミ男」。3番目の犠牲者を決め、綿密に調べ上げるが、自分の手口を真似て殺された彼女の死体を発見する羽目に陥る。自分以外の人間に、何故彼女を殺す必要があるのか。「ハサミ男」は調査をはじめる。精緻にして大胆な長編ミステリの傑作! 【2005年公開映画「ハサミ男」原作】(講談社文庫)
ミステリー界隈でやたらネタバレされまくることに定評のある作品。かくいう私もずっと読みたいと思いつつ、某所でとうとうネタバレを踏んでしまったので諦めて本書を購入した。
先に言うと、ネタバレを踏んだにも関わらずかなり楽しめた。というのも、本書のメイントリックの1つは、ミステリー読みならまず間違いなく気づいてしまうからだ。それに気づいてもなお、ハラハラドキドキする展開で引っ張り続け、意外な着地点へ収束していくのはお見事。
あと殊能将之は文章めっちゃ上手い。読みやすいし。独特のユーモアセンスと妙に愛着の湧く人物描写、読者を飽きさせない絶妙な視点交錯など、本当にメフィスト賞は筆力について上下のブレがでかすぎる(上は舞城王太郎、下は矢野...)。
バレを踏まずに読めればもっと面白く読めたのかなー。でもネタバレされた部分は普通に読んでも気付いちゃいそうだし。
ミステリー慣れしていない人にこそ勧めたい一作。ほんと、ネットの色んなとこでバレ見かけるからさっさと読むべき(自戒)
※ 以下、ネタバレ感想
まぁね、「叙述といえばこれ」っていう定番作品の上にタイトルが『ハサミ男』じゃ、気付かないわけないんだよなぁ。タイトル変えた方がいいのでは?同じく叙述の代表作であるところの葉桜〜はタイトル勝ちしてるよね。
ただ、語り手が女性だと気付くのはかなり容易な一方で、ミスリードである「日高」の行動が非常にアンフェアなのでそこには引っかかった。というか偶然が重なりすぎている。
ざっとアンフェアだと感じた点は、
①日高も安永同様、葬式に出席していた。その上挙動不審で警察に怪しまれる。
②安永は地の文で自分のことを「でぶ」だと言っているが、実際にはすらっとした美人。本人がそう思い込んでいるだけ。一方日高は醜いデブ男。外見のミスリード。
③そもそも真相に至って初めて「安永」の名前が明かされる。名前を明かされても誰だか分からないので読者にはインパクトがない。
これらはもうちょい伏線を張るなり理屈付けしてもいいと思った。
一方で語り手=女性を示唆する点は多すぎるくらい提示されていて、被害者の女性を尾けているときに「ワードロープが多くて羨ましい」、記者の女性に「もっとオシャレしなよ」と言われる、など随所に女性らしさを感じる。個人的に一番の決め手はトイレで尿をした際座っていたこと。某有名推理漫画にもこの描写で性別誤認を見破るってネタがあったのでぴんときた。
あと、語り手が被害者近辺を探るとき、相手がホイホイついてくるから確実に見た目で敬遠される日高でないことは誰でも察しがつく。体重100k超えの男に突然声かけられて喫茶店に入る女子高生はいないだろ。
ただ、叙述だけに留まらず、ラストで模倣犯が警察官僚の堀之内だったことが明かされるのは正直びっくりした。日高も語り手も犯人じゃない以上、「意外な犯人」は警察内部しかいないだろと思ったけどまさか堀之内とは。そのネタバラシの過程も非常にスリリングだったので、やっぱり文章力を大いに評価したい。
でもまともに考えたら、警察は普通被害者の交際相手を洗うはずで、堀之内との交際が突き止められるのは時間の問題だと思う。そうしたら、陣頭指揮を執っているのに被害者との関係を隠していた堀之内が怪しいことはすぐにバレるのではないか?うーん、ちょっと無理がある。
警察側のキャラクターもそれぞれ愛嬌があってとても可愛かったので、その辺も凄く好みだった(磯部は勿論、褒められて耳まで真っ赤になる村木が可愛すぎるし、老獪な「落とし屋」松元も好き)。堀之内を最初から疑っていて、磯部を除いてみんな共犯で堀之内を騙していた、という構図も面白かった。
そして、オチも非常に秀逸。ただの謎解きにとどまらず、「医師」の正体が判明し、何故安永が被害者を狙ったのかもぼんやりと見えてきた中で、結局本当の犯人は野放しのままであり、安永は暫く「ハサミ男」を休業せざるを得なくなった...
と見せかけて、新たなる標的(?)に声をかけておくという笑
うんうん、やっぱりシメが効いていると評価が1.2倍だね。ネタバレ踏んだ割にはとても楽しめた。