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日々雑感(ミステリ感想中心)

煙か土か食い物 (舞城王太郎/講談社文庫)

12.煙か土か食い物  (舞城王太郎講談社文庫)

総評:★★★★★

オススメ:純文学が好きな方・強くて魅力的なキャラのアップテンポなストーリーがお好きな方へ

 あらすじ(引用)

腕利きの救命外科医・奈津川四郎に凶報が届く。連続主婦殴打生き埋め事件の被害者におふくろが? ヘイヘイヘイ、復讐は俺に任せろマザファッカー! 故郷に戻った四郎を待つ血と暴力に彩られた凄絶なドラマ。破格の物語世界とスピード感あふれる文体で著者が衝撃デビューを飾った第19回メフィスト賞受賞作。(講談社文庫)

 

面白かった!ただミステリーではない。メフィスト賞受賞作はまともなミステリーがないというか、ミステリーというジャンル自体に挑戦している感じ。

謎解きよりもエピソードやストーリーの勢いが最高にエンターテイメントで気持ちがいい。後に別の作品で三島由紀夫賞を獲ったのもわかる。

文体が非常に独特で、殆ど改行を使わず圧倒的な「文圧」で読んでる側をノックアウトさせるわけだが、なのにすごく読みやすい。多分、文章のリズムがいいんだと思う。句読点をあまり挟まない怒涛の長文と、カタカナで記述された短文の英語や擬音、短い警句などがテンポよく配置されている。上手い。

そもそもこの作品は、『ベストセラー本ゲーム化会議』という私の人生を大きく揺るがした名著(笑)に載っていて、そこでの評論(というか雑談)を読んだ時から興味があった。このシリーズは、名著をゲームに落とし込むならどんなゲームにするか?を有名ゲームクリエイター3人が延々会議するという最高に面白い評論本で、機会があったらこれも紹介したい。

 

ベストセラー本ゲーム化会議

ベストセラー本ゲーム化会議

 

 

で、手元にこの本がないのでうろ覚えだけど、確か『煙か土か食い物』をゲーム化したら、リズムに合わせて相手を殴る音ゲーにしようとか結論付けてた気がする。この評論は今読むと非常に納得する。『煙か土か食い物』は、まさに音ゲーノリだからだ。テンポの良い文章、躍動感のある暴力シーン、軽快に挟まるFワード。その癖ストーリーはだらけることなくトントン進む。

むーん、面白かった。若いうちに読んで良かった。

主人公の奈津川ファミリーは全員トチ狂ってる(二郎と丸雄以外はマトモだったかもしれないけど)し、語られるストーリーもなかなか常軌を逸してるのに、テーマは結構まともなところに落ち着く。このバランス感覚と人物描写が尋常じゃなく上手い。冒頭でも述べたけど、ミステリーの体裁をとった純文学だなぁこれ。

暴力シーンとグロシーンが生々しいので軽々には勧められないけど、読んで損はない作品。

 

蛇足

本書を読むと、圧倒的な知識量と誰の影響なのか分からない文体に必ず驚かされる。こんな文章を書く「舞城王太郎」はさぞかし面白い経歴なんだろうと思って調べると...まさかの覆面作家。はー、やられた笑

勝手な推測だけど、京大・理系・男、だと思ってた。清涼院流水系列だよね、なんとなく。当たってるかなー、ほんと舞城王太郎は隅々までプロデュースが上手い。

 

煙か土か食い物 (講談社文庫)

煙か土か食い物 (講談社文庫)

 

 

 

※ 以下、ネタバレ感想

 

 

 

 

 

 

 

 

ミステリー感はないのでネタバレもほぼないけど、一応隔離。

暗号や謎は提示されるけど、3行くらいですぐ解いちゃう。しかも天啓を受けたようにひらめきで解くし、証拠はない。多分真相はこれ、合ってたら次はこうなる、なっただろ?OK、じゃあ次、って感じ。

犯人らしい犯人は野崎博司くらい。その上、動機も「臨死体験を味わわせてあげたかったから」とかいうクレイジーなもの。真陸はどこまで関わってたのかな。死んでしまったのはなかなかショックだった。最後の最後で奈津川二郎の存在を匂わせたけど、今までの二郎像と大きくかけ離れているので納得はいかない。全て証拠はないし。

ただ、こうした「ミステリーのお作法」を悉く破壊していきながらも、結論はお行儀よくまとめてきたところに舞城王太郎の美学を感じた。

「ミステリーのお作法」崩しとしては、

①推理過程に理屈を伴わない、物証もない、結論ありきで目星をつけた犯人にぶつかっていく

→理論で固めた既存のミステリーに対して、アンチ理性を感じさせる構造。

②犯人は倫理的に同情の余地がなく、本来ならば捕まってもいいはずなのに、主人公が感情的に許したことで深く追求されない

→大丸殺しのこと。というか、四郎の家族に対する複雑な愛憎が非常に緻密に描かれているので、丸雄や二郎の犯罪を受け入れたことは納得させられてしまうのだが、普通に考えたらやっぱりおかしい。ここが純文学らしさを感じる。感じない?

③いかにもな登場をした、「名探偵」がまるで活躍を取り上げられることなく死んでしまう

→ルンババは結構キレものだったのに、主人公と絡みがなかったというだけでさくっと退場してしまった笑  

①②③はどれも「現実の不条理」を非常に端的に表していて、個人的には現代小説として良い出来だと思った。ミステリーではないけど(3回目)

舞城王太郎作品は他も読んでみたいところ。奈津川サーガがあるらしいので探してみる。

 

追記:なるほど、サリンジャー的といえばそうかもしれない(『フラニーとズーイ』しかまともに読んでないけど笑)